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西と東に吹き廻されるからだ
自分はこの涙ある力を
いつぱいに感じながら
歩いて行くのである
すぐれた饑ゑを感じながら
あるいて行くのである
自分のものにする女に送る歌 ――七月廿一日
私は君を戀してゐる
何故とも知らないけれど
自分は君に牽引を感ずる
君は馬鹿だ
盲目である
けれども君には純な魂がある
君は自分でそれを知らない
君は斯くして亡びてしまふのである
もつと生かすべきものを生かさないで
墓のまはりの草のやうに
いつか花しぼみ
みきは固くなり
年老いた女の乳房のやうに
堅い實を結んで終つてしまふのである
自分は斯くの如く君を輕蔑してゐる
吾が眼に見える美しい魂から
君のこの後の一生を見とほすのである
そしてそれに今たとしへない生のふた路を考へるのである
自分の愛は斯くの如くして君をまづしく生きる事をゆるさない
自分はもつと燃えるべきことを欲してゐる
自分はそれだけ君のとろけるやうな肉體に
體感的な愛に燃えてゐる
斯くの如く吾れを動かす君に
力強い牽引を感ずる
君はどうかは知らないけれども
君は自分に深いものを與へてゐる
自分のなすことに一々君の裏書がある
やき印がある
背中あはせのやうにこの年月過したので
君が斯くばかり自分に深かつたとは知るまいが
斯くばかり深いものが他にどこにあらう
自分はこれをむざむざ埋めてしまふに堪へられるだらうか
世界は斯くして平面である
廣い原野に日がひとつ
ぽかりと白く光つてゐる
唯だそれのみだ
聲がない
自分の君を慕ふ心は
斯くの如き沈默には堪へられない
自分は睡つても體内の血はめぐつてゐる
自分は死んでもその血は滯つてゐる
すべて血である
自分はこの血の何もなさぬことに堪へられない
血はやれやれやれと
脈管を痙攣的にめぐつてゐるのだ
ぶつかれぶつかれぶつかれと
めぐつてゐるのだ
ああこの血よこの血よ
純なるものの最も純なるものよ
自分は君にぶつかつて
この血を愛の肥料にしようと思ふ
ああ吾が胸に潜む黄金の十字架は
斯くして君の胸の中で明かなものになる
ああ十字架を感ずる
君の胸の中にである
千百人の美しい子供の魂を集めて
それを君の乳で育ててやる微妙な光や氣は
君の胸の中で生きてゐるのだ
斯くの如く君を深く見得た人はどこにある
世界三界さがしても
斯くの如く洞察し得た聖者はどこにある
神罰を恐れよ
君よ
この深い人間の根に從へ
原人時代の人間の根に從へ
原人時代の人間から將來の人間に到るまでも
深く人類に根ざしてゐるこの地下層の清水を飮め
斯くして君は幸福なのだ
あらゆる君のこじれた心が濕ふのだ
そして美しい自然を深く汲み分けられるのだ
ああ君の手を握るべき吾れよ
君の心をやがて捕ふべき吾れよ
願はくは君の手さきのみで
君全身の魂を掴め
願はくは君の最奧の心の底に入れ
斯うして微笑するのだ
どれくらゐ深いかわからない微笑
自分は斯くして君の萬事に入り
君の一とつぶ種の靈魂にふれて
わが身を君の一體にするのだ
わがなす生命の種の力は
はにかんでゐる君の美しい肉體に種まかれるので
初めて香あり音あり色ある
高いリズムある花が生れるのだ
ああはにかめ
はにかめ
この燃えてゐる私の愛の火から遠かれ
その高い煤まじりの焔をもつと嫌がれ怖いと思へ
私は君が無心な心に立ちかへつて睡つてゐるとき
君をもつとも自然に
みぢんも危ぶなげもなく
吾が手のなかの寶玉として見せる
その運命を吾が眼の前につくつて見せる
それまで君を人のものにして預けて置く
君を今の人に預けて置く
それまでも感ずる自分の心は
君の内をひらかぬことはない
いつかはその底を掴んで吾がものとするだらう
自分の心ではさう思ひながら
だんだん自分は肥つてゆくのだ
先きから先きへとのびて行くのだ
根強く人間の魂を感じながら
男の仕事をやつて行くのだ
ああ LOVE よ ――八月九日
ああ Love よ
君よ
君は僕をひきしめる
かなり苦しい箍だ
苦しいたがだ
君は今人の所にゐる
みもちにまでなつてゐる
それでも自分は
君を思ふことはやまない
君は僕が戀してる事は知つてるだらう
けれどもこれ位苦しんでゐることは知るまい
この心持は解るまい
月日もたつから消えてることと思つてるだらうが
自分の Love はちつとも消えない
そして何もない空中をひた走りに走るのだ
意志はそれだけ苦しいのだ
そして手をさしのべてゐるのだ
さしのべて日中の星を掴まうとしてゐるのだ
ああその星はどこに輝いてゐる
見えるは一面に白い空ばかりだ
まつぴるまの空だ
君の影はどこにもない
このぼんやりしたものの中に
身體を投げ出しながら
自分はどんどん産むだけのものを産んで行く
産んで産んで産み飛ばすのだ
君よ
君は一時人のものになつて居れ
自分は一時その運命を悲しむが
すこしもまゐらない
自分は出すだけのものを出して行く内に
いつか君をつかまへてやる
自分の所有にしてやる
そして君を美しい人間にさしてやる
僕の物になつてこそ君は初めて女として生きられるのだ
ただ若くあれ
おお君よ
年寄じみてはおしまひだ
若くあれ若くあれ
この人生にちよつとでも油斷したら
すぐ年をとらされる
それだけこの人生には實にいけないものがあるのだ
そして人間は弱いのだ
自分はいつでも若い
惡いものに抵抗力が強い
どんどん若い力でその惡いものを
元氣のよい命の充ちたものに
かへて行く
ああ若くあれ
若くあれ
勞働者に與ふ ――八月九日
君等に代つてこの歌を
叩きつける
君等が地盤へ
つるを打込むやうに
君等に代つてこの歌を
叩きつける
ああ勞働せよ
勞働せよ
一切がつさいまのびて
だらけて
力拔けてるこの人生に
魂吹つ込む力は諸君の腕にある
ああ歌をうたへ
歡喜するのだ
自分等の使命を
君等僕等は
この大地へ鶴嘴でぶつつける
一面なにあるとも知れない
平々凡々な
大平面盤
ここから掘り出し
えり出し
よいものを作る使命は僕等にある
僕等は斯くも貴い人間だ
僕等の貴いことは僕等はから手であることだ
裸百貫でよいものをぐいぐい作つて行くことだ
そのよい事とは何んだ
都會をつくることだ
めざましく力うごいてゐる大都會を作ることだ
白く光輝ある煙り、蒸氣を空いつぱいに充たしてゐる無數の烟突
朝の雲
大工場の都會をつくる
活溌で
力にむだのない
大音樂大音響の都會をつくる
このすばらしい使命は
僕等と君等にだけあるのだ
自分はいつもそんな事を空想してゐる
そしてこの空想は萬人の空想だと思つてゐる
實に痛切で拔くことの出來ない空想だと思つてゐる
ああ勉強なれ
わが友よ
わが兄弟よ
愉快に力いつぱいに働き給へ
君等や僕等ぐらゐ貴い人間はないのだ
僕等がなくなれば世の中は暗だ
葉を食ふ芋蟲ばかり殘るのだ
この貴い僕等の使命を感謝せよ
ああ頼母しく正直な兄弟よ
この大平面盤の上を濶歩したまへ
大手をふつて威張つて歩きたまへ
航海の歌 ――八月十日
おお殉難者
殉難者
自分は泳ぎも知らないで
泳いでゐる
自分は海中に投げこまれた
手をふり足をふり
もがいてゐる
自分は赤子である
一羽の鴎にも及ばない
死ぬのが怖くて唯だじたばたしてる
からだを浮かしてゐる
おお力出す人間
力出す人間
自分はそのうちどうやら泳げるやうになつてきた
そのうち水のまにまに流れる丸太を見つけた
自分はそれをたよりにして泳いだ
また自分と同じやうな人に幾らも出逢つてその人等と握手し合つた
自分と同じ水難者であつた
皆んな同じやうな目をくぐり拔けて來た
自分等は合力して筏を作つた
めいめい持ち寄りの丸太を集めて筏を作つた
それから永遠の潮に棹さした
帆をあげた
波は荒くとも
しけであるとも
自分等は行きつく果てまで行く歌をうたつた
おお敗殘者よ
敗殘者よ
自分等は多くの溺るる人を遠くに見た
自分等はそれを見過して行かねばならなかつた
自分等の目の前には常に大きな敵がゐる
いき引くばかり空中をあふつて來る熱風
大旋風
出づる處を知らずまた行く處を知らない敵よ
自分等はそれと鬪つて行くのだ
山から山へ波のうねりをのして進んで行くのだ
ああ目なく耳ない氷山よ
永遠に背を見せて走る潮流よ
自分等は無言の恐怖の世界のなかを
前のめりに進んで行く
おお敗殘
みじめ
底知れぬ波間に溺れゆくものよ
君等をふり棄てて行く氣は堪へられないけれど
自分等の目の前には恐ろしい敵がゐる
後ろ髮をひかれながらも
自分等は前のめりに進んで行くのだ
ああ弱いもの、まゐつてるものは永遠に振り棄てるのだ
いつ逢ふか知れない世界に離れ離れになつてしまふのだ
おお筏に折よく這ひ上がれた人は這ひ上りたまへ
棹をさし
帆をあげ
舵をまげろ
その船頭役は吾れ吾れ少數者がやつて行く
吾れらが舷燈は唯だ一つしかなく
吾れらが舷燈は船首にかかつてゐる
吾れらが舷燈は光力が鈍いが
吾れらが舷燈は行く先きを照らしてゐる
油壺の油は吾等の涙である
深かい涙である
夜の暗を照らしてゐる
斯くして永遠に吹きつのる風に逆うてゆく
暗の落ちつく先きは知らないが
斯くして進んで行く
ああ搖すれゆすれて休む間もない
吾等の筏に
夜な夜な輝く星よ
ふきつのる嵐よ
大うねりする波の回轉よ
そのたけり聲よ
夜が明けて晝になる
荒れはやむ事はない
ああその中に見る
太陽よ
吾が血を充ちふくらせるその熱度よ
空中にががんとして燃える大銅盤
おおその下をふく熱風
あらゆる生物をしをれ返へしてゆく極熱風
あるひは霰ふり
吹雪ふきちり
氷山流れ
埋葬の黒い鳥がさけぶ
極北よ
ああ吾が筏はかかる中をゆく
ああ吾が筏はかかる中をゆく
陸にゐるものは知らず
遠くにわかれわかれに溺れてゐるものは知らず
目見えぬものは知らないけれども
ああ吾が筏はかかる中を行く
ああ吾が筏はかかる中を行く
充ちふくれて行く格鬪の力を感じながら
えいえいえいと乘り切つて行く
いつかはこの暴逆な大洋を自由自在に乘り廻し
あらゆる嵐
熱
みじめ一切を外にして
氷結、睡り、死一切を外にして
強烈異常の船一艘
作る力を感じつつ
太陽崇拜 ――八月十一日
ああ太陽よ
自分は君を愛す
君は一人であつて
あらゆるものに超越してゐる
あらゆるものを愛してゐて
常に君は孤獨である
君は絶え間もなく自轉してゐる
のびちぢみしてゐる
そして進んで行く
無限に生れて無限に走つて行く
君の運行する線は
空しいけれども
君はその何もない所を
ある如く走つてゐる
君は空しくぶらさがつてゐるのでない
絶えず内から
中心から
ぐるぐる力を出してはずんで行くのだ
ああ眩しい光を放して
空間から空間へ移つて行く
君よ
めげず
出し惜しまず
燃えてゆく
偉大な運行者よ
君はひとりだ
しかも萬人を愛してゐる
常に萬物の先きになつて
あらゆる暗い影に
君の光をさして行く
ああ君こそひとりである
唯だひとりである
自分は君を崇拜する
あらゆるものに先立つて運命をひらき
常にひとりであつて
とどまる所を知らない
君よ
その行く果てを知らない
君よ
ああかくの如き運命のなかにあつて
めげず力拔けせずたゆみなく行く君よ
ゆるみない君よ
うちからうちから全面に燃えかがやく君よ
なにものも助けなく
その出す力で空中に浮び