Chapter 1 of 4
Chapter 1
文科大学生の戸田の神経衰弱症が日増に亢進してゐる模様だつたので、私は彼を百合子に紹介した。百合子は女子大に通つてゐたのだつたが、彼女の都会生活の風聞に関して、実家の人達が極度の寒心を覚えて反対するところから、通学を断念してゐた。そして、仏語の家庭教師を欲しがつてゐた。
あの閑静な田舎で、百合子の語学研究の相手でもしながら田園生活に親しんだら、間もなく戸田の病気は回復するであらう――と、私は考へたのである。
これは、戸田の、或る草稿からの抜萃である。