Chapter 1
(ふん、芸術家ってものは、獄中ですらきれ/″\ながら守りたてゝいる組織を、あまり勝手に外で、解散しすぎるぢゃないか。そんな組織なら連袂脱盟して政治専一にしろよ。――と言った別れしなの獄内の同志の言葉を僕はなだめかねた。)
ある特殊の野兎たちは集まり、手分けし野兎たちを組織しできるだけ多くの同僚を野兎にしようとする彼等は前足の陰のみづかきみたいなものでまじめに何かしきりに、書いては消し、消しては書きする野兎は芸術をもっている!
野兎は火のもえた、炉ばたと野兎の畠を荒らす、黒い頬冠りをした猟師たちに宣戦した野兎は猟師のように、山刀と鉄砲を持ち、猟師のように整然たる隊伍をもちたいと思っただが、野兎は束にしてひっくゝられ、猟師の四角や六角の穴倉にひったてられた穴倉の野兎は手錠をはめられたみづかきの先をびく/\ひきつらせながら彼等の詩を歌いつゞけた残されたすみかの野兎はちらばった部署の陰で、彼等のみづかきをあげて陰から猟師にはいちゃいした
野兎のあるものはみづかきを不自由にされていることは、生活を不自由にされていることよりも辛いと思った野兎はみづかきを持つことが、野兎の種の特徴としてあるまじきことを宣言し家犬えの非合法な脱獄が野兎からの合法的な脱獄だとしゃれこんだ
だが野兎は芸術を持っている!月日がたち殺されたゞけの真率な野兎は傷づけられたみづかきをいたわりあいながら昔の家え帰ってきた野兎は小さいいろりの傍で、お休みになっている彼等の生活を見た猟師の畠はやはり野兎の畠だった―――だが野兎のあるものはみづかきを隠し合いお互を見せずに、めい/\に探るような目ざしを投げ合った
私の野兎は親しい、だが見知らぬ国に来たような気がした生活のための賢明な脱落者は思ったより少なかった―――だがそれは大したことではない―――問題はこゝにある! と思った脱落の代りに解散の声明を書くとは、何と賢明な方法だろう―――と檻の中でさえ消滅しなかった組織がどこで消滅しうるか?………書店の棚につまれたサヴェートの報告書は、組織からの脱落者の記述で終っていた………「同志藤森成吉、片岡鉄兵はプロレタリア芸術からの脱退を声明した」信じがたい………だが、こんな野兎もある!若い野兎はぺっと唾を吐きみづかきを撫でながら、曲げられぬ組織者の数を数えはじめた
●図書カード