Chapter 1 of 9

手簡

雨がぽしゃぽしゃ降ってゐます。

心象の明滅をきれぎれに降る透明な雨です。

ぬれるのはすぎなやすいば、

ひのきの髪は延び過ぎました。

私の胸腔は暗くて熱く

もう醗酵をはじめたんぢゃないかと思ひます。

雨にぬれた緑のどてのこっちを

ゴム引きの青泥いろのマントが

ゆっくりゆっくり行くといふのは

実にこれはつらいことなのです。

あなたは今どこに居られますか。

早くも私の右のこの黄ばんだ陰の空間に

まっすぐに立ってゐられますか。

雨も一層すきとほって強くなりましたし。

誰か子供が噛んでゐるのではありませんか。

向ふではあの男が咽喉をぶつぶつ鳴らします。

いま私は廊下へ出ようと思ひます。

どうか十ぺんだけ一緒に往来して下さい。

その白びかりの巨きなすあしで

あすこのつめたい板を

私と一緒にふんで下さい。

(一九二二ヽ五ヽ一二ヽ)

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