Quay lại
A Trip to Iizaka
Table of Contents
A Trip to Iizaka
泉鏡花
Reading Settings
Cỡ chữ
18px
Giao diện
Sáng
Tối
Sepia
Bảo vệ mắt
Khoảng cách dòng
Chế độ đọc
Bản dịch Pagera AI
Nguyên bản Public Domain
Chapter 4 of 6

四

飯坂と、此の温泉は、橋一つ隔てるのであるが、摺上川を中にして兩方から湯の宿の裏の、小部屋も座敷も、お互に見え合ふのが名所とも言ふべきである……と、後に聞いた。

時に――今渡つた橋である――私は土産に繪葉がきを貰つて、此の寫眞を視て、十綱橋とあるのを、喜多八以來の早合點で、十網橋だと思つた。何故なら、かみ手は、然うして山が迫つて、流も青く暗いのに、橋を境に下流の一方は、忽ち豁然として磧が展けて、巖も石も獲ものの如くバツと飛ばして凄いばかりに廣く成る。……山も地平線上に遠霞んで、荒涼たる光景が恰も欄干で絞つて、網を十をばかり、ぱつと捌いて大きく投げて、末を廣げたのに譬たのだらう。と、狼狽へて居たのである。

念のために、訂すと、以ての外で。むかしは兩岸に巨木を立て、之に藤の綱十條を曳き、綱に板を渡したと言ふ、著しき由緒があつて、いまも古制に習つた、鐵の釣橋だと言ふ……おまけに歌まである。

陸奧の十綱の橋に繰る綱の

絶えずもくるといはれたるかな――千載集

「旦那――あの藤の花、何うだ。」

「はあ。」

「あれだ、見さつせえ、名所だにの。」

「あゝ、見事だなあ。」

私は俥から、崖の上へ乘出した。對岸(――橋を渡つて俥は湯の原の宿の裏を眞正面の坂を上る――)に五層七層を連ねた中に、一所、棟と棟との高い切目に、樅か欅か、偉なる古木の青葉を卷いて、其の梢から兩方の棟にかゝり、廂に漾ひ羽目に靡いて、颯と水に落つる、幅二間ばかりの紫を、高樓で堰き、欄干にしぶきを立たせて散つたも見える、藤の花なる瀧である。

私は繰返した。

「あゝ、見事だなあ。」

「旦那、あの藤での、むかし橋を架けたげだ。」

「落ちても可い、渡りたいな。」

と言つたばかりで(考慮のない恥しさは、此れを聞いた時も綱には心着かなかつた、勿論後の事で)其の時は……と言つたばかりで、偶と口をつぐんだ。

馬の背のやうに乘上つた俥の上の目の前に、角柱の大門に、銅板の額を打つて、若葉町旭の廓と鑄てかゝげた、寂然とした、明るい場所を見たからである。

青磁、赤江、錦手の皿小鉢、角の瀬戸もの屋がきらりとする。横町には斜に突出して、芝居か、何ぞ、興行ものの淺葱の幟が重なつて、ひら/\と煽つて居た。

ぐら/\と、しかし、親仁は眞直に乘込んだ。

「廓でがあすぞ、旦那。」

屋號、樓稱(川。)と云ふ字、(松。)と云ふ字、藍に、紺染、暖簾靜に(必。)と云ふ形のやうに、結んでだらりと下げた蔭にも、覗く島田髷は見えなんだ。

「ひつそりして居るづらあがね。」

「あゝ。」

「夜さりは賑かだ。」

出口の柳を振向いて見ると、間もなく、俥は、御神燈を軒に掛けた、格子づくりの家居の並んだ中を、常磐樹の影透いて、颯と紅を流したやうな式臺へ着いた。明山閣である。

Chapter 4 of 6
|