Chapter 1 of 8

小石川白山のあたりに家がある。小山弥作氏、直槙は、筆者と同郷の出で、知人は渠を獅子屋さんと渾名した。誉過ぎたのでもありません、軽く扱ったのでもありません。

氏神の祭礼に、東京で各町内、侠勇の御神輿を担ぐとおなじように、金沢は、廂を越すほどの幌に、笛太鼓三味線の囃子を入れて、獅子を大練りに練って出ます。その獅子頭に、古来いわれが多い。あの町の獅子が出れば青空も雨となる。一の風を捲く。その町の獅子は日和を直す。が、まけるものか荒びは激しい、血を見なければ納まらないと、それを矜りとし名誉として、由緒ある宝物になっている。こういうのは、いずれ名ある仏師、木彫の達人の手になつたものであろうと思う。従って、不断この仕事があるわけではないので、亜流の職人が手間取にこしらえる。一種、郷土玩具の手頃な獅子があって、素材づくりはもとより、漆黒で青い瞳、銀の牙、白い毛。朱丹にして、玉の瞳、金の牙、黒い毛。藍青にして、黒い牙、赤い毛。猛き、凄まじき、種々で、ちょいとした棚の置物、床飾り、小児の玩ぶのは勿論の事。父祖代々この職人の家から、直槙は志を立てて、年紀十五六の時上京した。

彫刻家にして近代の巨匠、千駄木の大師匠と呼ばれた、雲原明流氏の内弟子になり、いわゆるけずり小僧から仕込まれて、門下の逸材として世に知られるようになりました。――獅子屋というのはそうした訳で、人品もよし、腕も冴えた。この人物が、四十を過ぎて、まのあたり、艶異、妖変な事実にぶつかった――ちと安価な広告じみますが、お許しを願って、その、直話をここに、記そうと思う。……

ついては、さきだって、二つ三つ、お耳に入れておきたい話があります。

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