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三次実録物語
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三次実録物語
稲生正令
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Chapter 3 of 4

3

一、同十日、十日市町相撲取、周防屋貞八暮過居り。台所の敷居口よりかがみ候が、其儘頭二ツに割れ、其内より赤子はい出、われに這付。凡十ばかり出あちらこちらとはい廻り、血の付たる赤子也。貞八と申男は五十斗にて、きんか頭の赤面の大男也。右のあか子、段々あちこち這廻る内にわれ蚊屋釣り寝所へ入しが、其赤子十ばかりが一ツになり、大きなる目玉となる其内に寝入る。

一、同十一日夜、一家内心安くする人、十三人程まゐり、我いろ/\一家内より申ても、一緒に相ならず候に付、何卒、参り申聞せ、何れも一所になり候よふに申べし、とて申合参りしが或人申候は、頃日の事なればいかよふ成ること有候ても、互に刀、脇差抜申間敷、今晩は御互に刀さしとめなどいたし、帯刀にて咄し申べし、とて皆其とふりにして居申処へ、彦之丞、長倉と申者を連れ参りしが、其申合はしらず、次の間に刀抜き脇差斗にて其処へ居りしが、やれ、矢張、刀差、これへ御出被成候、と人に申候へば、ぬき置置し敷居の脇に居る市大夫と申す人に、我そこに刀置候、憚りながら其刀のぞけ下され候、と申せば、市大夫、直に後へ向き、長くなり、刀、手にてさくれば、ひやしと手にあたれば、御刀抜け居申候と存られ候、と申。鞆をつかまへ見れば、身ばかりにてぬけありしを渡せば、彦之丞、人々興ざめ、鞘は其辺にあるべし、とて、火とぼし、みな/\色々に尋ぬれ共無之、抜身を前に置候処、しばらくして、天井に、薬種紙袋其外物たね釣りたる其袋、にわかに動きしが、其中より右の鞘落し。早速取上げ鞘へ納め、夫より長倉連れ帰りしが、其跡一度に皆帰る也。夫より寝候へば、庭のはしりの上に棚あり、すり鉢揚げありしが、飛でおり、棚の下、連子に掛たるすり子木、すり鉢の中へ入、所々すりまわりしが、其内に我寝入る也。

一、扨、十二日、昼九ツ時、上田次郎右衛門参り、魔除の札を書、四方の柱の上に張置しが、又、夕方八ツ時過、西江寺住持参り、是は薬師の御直筆の御判、大切なるものなれども、御用に立申べく候間、明日人をつれ、私方へ取に御出、其内、私留守にて御座候と申置候間、納所へ御申し、御請取被成候、と申。其事申参しが四方に張り置し札を見て、あの札書きたるは、上田氏と見る。能き魔除の札にては御座候へど、文字二所ほど違ひ御座候間、わたくし書替へ進じ申べく、とて、硯取出し、四枚かき候に付、直に糊付け、矢張り次郎右衛門が書たる札の上へ張置しが、西江寺帰るに付、こし送りに出、内へ入見れば、住持かき候札はなく、上田氏書きたる札の真中、四方ともに、輪違ひ書きこれあり。誠に六七間程歩行内也。夫より夜五ツ時前、蚊屋釣り、寝所に這入りしが、庄大夫、時分に重ねおきし葛籠、唐紙明け飛び出、やはり形は葛籠にて、前へ手付、どん蟇となり、蚊屋のまわり、あちらこちらと歩行しが、蚊屋の内へ這入、われ寝候上へあがりしを、下より手を出し、葛籠くゝりし紐を握り、其内に寝入候が、朝見れば、葛籠ばかり枕もとにころびあるなり。

一、扨、十三日、暮前より比原の狩人長倉まゐり、其外一家内六人居り候うへ、西江寺薬師御判借りに、長倉を連れ、私参り候処木全氏の藪動きしが、夫より小桶程なる黒きもの、我を目懸け眉間へあらむとせしを、われ刀をそり打、白眼み付ると、直に後におる長倉が胸へ打当る。長倉即座に倒れ、殊の外胸痛み得参り申さずに付、我肩へ手懸させ、内へ連れかへり其由を人々へ申。われ壱人、又かりに参り、取かへり、扨、長倉が胸へあたりし赤き石も、一緒に取り帰るなり。

一、扨、十四日、昼九ツ時過、つきもせぬ、小屋のから臼独りつく。扨此節はから臼借り人なく、こちらにも、われ壱人故、米もいらず搗ことなくに、何迚から臼搗なり、と小屋へ参り見れば、から臼の棹の上に、明俵、縄、叺ありしを、其儘置き搗く。一向止ざる故、棹おさへ候ても、われともにつく。夫、黒米取出し、七八升程入つかせ候へば、音かわりだん/\搗く。しばらく搗き候間、もし搗過粉になり候ては、と存じ、米取出さばや、としても、唯ものつき候へば、米出され申さずに付、から臼の棹外し、わきへ持居り候へば、搗く事ならず、夫から米あげ見れば、一ツもはげず候也。其夜は五ツ時まへ、蚊屋釣り寝。天井を見れば、天井一杯嫗の顔あつて、蚊屋をこし舌をのぞけ、わが顔を舐る。顔に手あて候へば、手を越しねぶる。其舌幅広く、先細くおもわれ候。ねぶる内に寝入也。

一、扨、十五日夜五ツ時頃、蚊屋をつり、這入しが、惣蚊屋白くなり、浪打ごとく、夫から畳白く、蒲団、臥筵、白くなり、蒟蒻をせゝる様なり。其内にわれ寝入るなり。

一、扨、十六日昼九ツ時頃、われは湯殿方参り内、影山庄大夫脇善六まゐりしが、表のがく、とんとここゝにと申。夫よりわれを呼び候へしが、三ツ申一ツわれ聞候に付、ふみ上げいたし、がくの打釘を外せば、鼠ふんとごみ、其中より、前へ見へ申さぬ、家来権平が脇差の鞘おち候也。夫より夜に入り、木全番五、津田市郎右衛門、内田源次郎と申人参り、此間御触は出候得共、われ/\別て懇意之事なれば、貴様よく寝入申事なれども、中々思ふ様には得寝入候まじ、とおもひ、三人申合、今宵はわれ三人伽いたし、早く寝入申させ申さんと思ひ、今市郎右衛門方にてよくしたゝめいたし酒など飲みて貴様、世話なきやうにして参り候間、はやく寝候へ、と申候へば、段々参存候。しかし私は毎夜よくふせり候間、まづ、それ宵口おん咄し申。夫よりはやくふせり申べし。しかし、先づ風呂へ茶入と申べく、とて、風呂炭の火おこし、ほふろく懸、茶煎らぬとすれば、番五、われいるべし、とて茶をいる。序に、いりものをせんとて、豆、米、沢山にとり出し渡せば、いり、大重箱へ入、茶も程なくにへしが、台所みな/\あがりし所、すす/\とふき出し声にてどんと落たる音聞へれば、三人仰天しければ、何の、あの位の事驚き給ふな、と申。まづ行燈の火をむけ、見候へば、珠程なる白きものあり。あれを御出、何か御覧候へ、と申せども、壱人も居らず。夫より、われ居り、握り候へば、じるきもの、手ににぎらせしが、行燈にて能く見れば、塩はゆき匂ひして、われ、二三日前、茄子沢山にとんぶりへ糠入、漬置きし小屋にある桶なり。皆茶を呑みしに、茶口とおもひ、持参りし也。なすび、五ツばかり取出し、洗ひのぞけれ共、みな、気味悪し、とて喰ずゆへ、われ漬しに違ひなく、と我喰見せ候てもくわず。夫から、蚊屋つり這入らばや、と思ひしが、いつもわれ釣る蚊屋は狭く、四人はゐり咄し候へば、表の間、蚊屋つり申べくとおもひ、大きなる蚊屋出し、釣りて拵へ、弐人先きに寝、我と弐人して蚊屋つりしが、何ほど釣りてあげ候ても、兎角蚊屋の天井あがらねば、内に居る人、まだひくし、と申に付、はや、是より高く相成らず、と申。よく/\蚊屋の天井を見れば、三人の刀、わきざしあげこれあるに付、蚊屋ひくきはづなり。明日迄、われ大小を御預け候へ。明日御帰りの時分、出し申べく、迚、其大小櫃へ入置きしが、人の寝間へ、薬師の御判懸おきしは如何、と思ひ、此間には置れじ、とて巻納め、箱に入、仏壇の内へ入置き、われも蚊屋へはゐらばや、と思ひ這入りしが、床に残るは机、其上に置し香炉居へながら、机、蚊屋廻り、こそ/\と歩行けば、皆/\あきれ果て、これはどふか、と狼狽候へば、あれはいつもの。いはでも無御座、まだいか様の事出候もしれ申さず、と申内に、香炉ばかり蚊屋の内へはいり、宙に駈廻れば、灰おり、目に入り困りしが、ある人の枕へ香炉あたり、二ツ割けると、外ある人、あまりの事ゆへ、むかづき出、寝たる人のあたまへ犬悦し、夫より耳へはき候もの入り、やれ御出、と水所へ連れ行に、残らずみな参り、水にて頭洗ひ、大そふどういたし候也。其内に夜明候へば、みな/\帰り候。其夜は、我一向に得寝入申さず候なり。

一、扨、十七日昼、石川文兵衛と申者の女房、名はくうと申者、昼四ツ半時頃参り、文兵衛、何卒あなたへ御見舞に居り呉候様、度々せがみ候へども、臆病ものゆへ、いまに参り申さずに付、御様子御尋に私参り候と申。台所の敷居口にて申候と、行水盥次ぎの棚より、おくうが方へころげしが、誠におらび、はだしにて駈出しが、其たらひ、おつ駈出る。われ跡より出て声掛ると、盥とまり、すわり候へば取帰る。おくうは其儘はだしにて直に帰る也。扨、其夜五ツ時過より、小坊主の天窓に串さしたるもの十ばかり鴫焼を見るごとく、差たるくし先き頭へぬけ出し、串にて飛び、頭ふたつ一と所へ付、また離れ、踊りおどるごとくにて面白く、一ツになり大なまずになり、我が(以下欠落)

一、扨、十八日四ツ時過、表の畳を残らず、魚釣糸にて天井へ釣たる。権八参り見付、下よりつくに被成。壱度に落ると浮雲し。わたくし踏上げをして卸し申べしとて、権八おろし、敷き置候也。扨夜に入候へば、尺丈三ツづゝ行先/″\に宙になる。其内に我ふせる也。

一、扨、十九日、御船奉行御勤申、向井次郎右衛門と申者、昼参り申候は、時に新八殿方へ参り申せしが、この前、松尾藤助と申人の所へ変化のもの出、いろ/\にしても止ず候に付、鳳源寺へ頼み、大般若読み、祈祷いたし候へば、其経宙に巻きあげ、又藤助、表より家来を呼ば又奥よりもよび、どちらへ参りても、旦那おり候へば、家来狼狽し事度々に付、十兵衛と申者の家に伝へし秘伝の罠御座候へば、十兵衛右の罠をかけしが、馬の三才子ほどある古狸取り候事、聞伝へ候間、其十兵衛へ右の罠懸けさせ見たく、其事、新八殿へ申候へば、何分貴様次第也。参り、其由申呉候へと申され候間、我申付候へば格別の礼も入申さず候間、夫故、鳥渡参り候と申。新八も承知に御座候へば、兎角、宜敷御頼み申といえば、直に、今晩参り候様に申付べし。必ず弁当は持まゐり候間、土瓶に茶わかし、茶碗一ツ御やりなされ、其外は何も世話御座なくと申、帰り候へば、其日七ツ時前より、大竹、樫杭、大綱箱、三人連にて持参り、下拵いたし、箱の内より張たる弓のよふなる物取出し、竹を綱にて引付掛しが、弐人掛仕舞候へば、明日はやく我共にまゐるべしとて帰り、十兵衛斗猪を突く鑓を持、のこり、湯殿前庭に莚を敷き居申せしが、何も見えぬに顔をなで、鼻を撮に付、湯殿へあがり候へば、猶空に握み付くよふにて忍へがたし。雪隠へ這入わたり居候へば、尻を髭手にてせゝりはや、こらへ兼て飛び出、なか/\今晩わたくしは、御家に居申事相ならず。明朝はやく参りて申候間、此罠へかゝらぬといふことは御座なく、かゝり候へば、此綱引付この杭木へ括り置て被下。扨、此弓へ日あたり候へば、一向用に立申さず候間、わたくし共はやく居りて仕候へ共、自然、其内少しにても日あたり申さずやうに、夜明け候へば、早速此所より御外し被成られ候様に相頼置、帰りける。扨、夫より程なく寝候へば、罠がた/\いわし、其上にて踊など踊るやうに聞ゆ。其内に寝入。夜明候と早速出見れば、大竹取杭木も多分抜き、右の頼置し弓はなし。綱は一ツに丸め脇に置きすて、其所へ十兵衛連れにて参りければ、其よし申候へば、夫にては相済ず申さず。先づ大切なる弓、日あたり候てはと申、床の下、樋合、其外、隣近所尋候へ共、一向無御座、はや、たづね候処なく、くつたくして家の棟を見れば、はや、日のあたるだんでなく、昼の九ツ時頃棟にさし居り。夫を取り諸道具持帰りける也。

一、扨、廿日昼九時前、女の声にてものもをかひ、扨、頃日女参り候事不思議也。女は扨おき、臆病なれば男にてもわれ方へは得参らずおもひ、不審ながら出候へば、十六七位の美女、浅黄小紋の帷子にくろ緒の帯せし、風呂敷包を持居り、わたくしは御屋敷の内中村平左衛門さま方より、ことづかり参りし也。嘸御淋敷御くらし被成候。是を差上可申と、右の風呂敷包を出しけるが、又跡へひかへ、わたくしは多葉粉好にて御座候間、おたばこ御呑せ被下候と申、上へあがりしが、我は煙ば子のみ申さず候へ共、随分煙草もあり候へば、のみ候へ、と丸き煙草盆に煙筒を付け、多葉粉入にたばこ入出し候へば、矢張、風呂敷包は我の前に置、多葉粉のむ/\色々の咄し、物たづね問候内、よく見れば風俗、手先、爪はづれまで、誠に是が美人と申もの。あれ程なる女、爰元におり候ものなれば聞及んと申事はあるまじ。其上、此処の者なれば、頃日の事聞及び、中/\、女、わが方へ参り候ことはあるまじ。近在のよき百姓の娘にて、一家内へ参りし者とおもわれ、夫が此辺へ参るに付、こと付おこし候とおもひ見る内、いろ/\の事尋、又は煙ば子のけむりわれにふきかけ候ても、そしらぬ顔して居申候へば、わたくしは帰りますと、右の風呂敷をのぞけ、私は使に御座候へば、此入物は御便りに遣わされ候へ、と申帰りしを、中/\はや、あれ程の美女と申は見ることなし、跡を追ひあがり口へ覗き見れば見えず、どちらへ帰り候共しれ申さず。夫より内へ帰り風呂敷包を明け見れば、大重箱へ拵へだちの牡丹餅沢山に入れ、すみへ白砂糖二勺ばかりも入あり。さゐわい、夕飯たきほしたるばかりにて何もたべ申さずに付、右の牡丹餅大かた喰ひ、夫故、夕飯は喰申さず。扨、其後二た月程過ぎ、脇善六、我が方へ参りしが、咄しいたし候内、押込の前に其時の重箱、風呂敷置候をつく/″\と見候ひしが、はやこらへかね、あの重箱と風呂しきは此方ので御座候か、と尋候故、此方のでは無之、夫に付だん/\咄しも有之候と申せば、善六、あれは大かた私方の重箱、風呂敷にて御座候。跡々月廿日、私母の親里祖父が年回御座候に付、親ざとに餅も搗候へ共、せめて牡丹餅をこしらへ、近所へもやり、親ざとへも遣し申すべしとて、親さとへ遣す分、格別砂糖もたんと入候て、程なく遣し可申おもひ候処、ぼた餅重箱とも一向なく、いろ/\尋候へ共、見へ不申不思議におもふ内、今日あなたへ参り、見候へば、扨よく似たるものゝあるものかと、段/\気を付見候ひしが、先づあなたへ御尋申みんとおもひしが、此方ので御座なきよし御申なされ、扨/\不思議なる事とて驚き入、重箱、風呂敷は後程とりに上げ申べしとて、帰りける。其夜はいつもの頃ふせり候処、蚊屋釣手四所壱度に落しが、起て釣り候へばまた落し。又釣候へ共また落候故、其儘にいたし置、寝候也。

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