Chapter 1 of 4

廃工場の町

少年たちは、遊び方に困っていたし、また遊ぶ場所もなかった。

家と道のほかは、どこも青々とした家庭菜園であった。道さえも、その両側がかなり幅をとって菜園になっており、その道を子供が歩くときでも、両側からお化けのように葉をたれている玉蜀黍や高粱をかきわけて行かねばならなかった。

そういうところを利用して、少年たちはかくれん坊のあそびを考えついたこともあったけれど、それは親たちからすぐさまとめられてしまった。せっかく作った野菜が少年たちによってあらされては困るからだった。

「つまらないなあ」

「なんかおもしろいことをして遊びたいね」

「ベースボールをしたいんだけれど、グラウンドになるような広いところがどこにもないね。つまらないなあ」

清君、一郎君、良ちゃん、鉄ちゃん、ブウちゃんなどが集まってきて、このおもしろくない世の中をなげいた。

「あ、あるよ、あるよ」

ブウちゃんが、とつぜんでっかい声を出してさけんだ。

「あるって、何がさ?」

「つまりベースボールがやれる広い場所さ」

「へえ、ほんとうかい。どこにある?」

「アサヒ軍需興業の工場の中さ。あの中なら広いぜ」

「なあんだ、工場の建物の中でベースボールをするのか」

この町をいつまでもきたならしい灰色に見せておくのは、そのアサヒ軍需興業の廃工場の群だった。

終戦後その工場は解散となり、それからは荒れるままに放っておかれ、今日となった。同じ形の、たいへん背の高い工場が、六万坪という広い区域に一定のあいだをおいて建てられているところは殺風景そのものであったし、それにこのごろになって壁は風雨にうたれてくずれはじめ、ところどころに大きく穴があいたり、屋根がまくれあがったり、どう見ても灰色の化物屋敷のように見えるのだった。

それにこの荒れはてた工場については、数箇月前のことであるが、恥の上塗りのようなかんばしくない事件がおこった。それはこの工場に隠匿物資があるはずだとて、大がかりな家さがしが行われたのである。その結果、一部のものは発見されたが、その捜査の第一番の目あてであったダイヤモンド入りの箱は、ついにさがしあてることができなかった。その宝石箱には、この工場で使うダイヤモンド・ダイスといって、細い針金つくりの工具をこしらえるその資材として総額五百万円ばかりの大小かずかずのダイヤモンドが入っているはずで、中にも百号と番号札をつけられたものは三十数カラットもあるずばぬけて大きいダイヤモンドで、これ一箇だけでも時価百五十万円はするといわれていた(このダイヤは、ある尊い仏像からはずした物だといううわさもあった)。なぜこのダイヤの箱が見あたらないのか。あまり大きくもない箱だから他の品物とまぎれて焼き捨てられたのかも知れず、あるいはひょっとするといつの間にか盗難にかかったのかもしれないということだった。だがそれほどの貴重なものを、わからなくしてしまうというのは、おかしいというので、工場は何回にもわたって厳重な捜査が行われた。だが、やっぱり見つからずじまいであった。終戦直後はみんなが生ける屍のように虚脱状態にあったので、ほんとうにうっかり処分されてしまったのかも知れなかった。とにかく今もその謎は解けないままに残されている。

作者は、百号ダイヤのことについて、あまりおしゃべりをすごし、かんじんの清君たちの話から脱線してしまったようだ。では、章をあらためて述べることにしよう。

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