Chapter 1 of 1

Chapter 1

白樺の梢に冬眠は引き裂くような雪肌を蒙古颪に冷めたくとぎすましているどんよりな雪雲に包まれた部落彼方へずうと永く続き切っている地面房々と綿の実ったような雪ころ蹴ちらされた足跡がいとなけき者の生活をしのぶ様に……

「おっ母よ」寒さに冷えきった体に飯の空っぽにすいた胃袋をたたきのめしながらまるで木乃伊のように滑走ったおっ母の乳下へかけずりよったつるし柿の様にしなびたおっ母の乳房から唐芋汁のべったりついたような乳汁がなめなめとたれこめてゆく……飯の腹一杯喰らえないおっ母の乳汁は酢っぱっこく俺のシタにふれたぞ……だがそれは俺に取ってどんなに美味かったか汗っぽく酢っぽい乳汁をすってる時のど笛をギュギュ鳴らしながら胃袋を波打たせ百両腸をガタガタ振わしているおっ母はかちばんだ菜っ葉刻のしじけこんだ両手で薄っぺにひしげこんだ藁蒲団をかかえこんで俺をだきしめて……俺は甘える様におっ母の胸板に頭をこすりつける……ドギドギと喰い入る様に心臓はむせび腹はギュギュゴロゴロと喰いものを求めるように喚いている血の気のない口唇より流れ落ちる唾液をうまそうにおっ母はすうっとすってしまうおっ母は年頃よりショボケ切った眸をじがつかせて凍り切った掌を俺の頭にあてた手のかすかなる温かみが血脈にひれ伏すようににじんで来る……

剣銃でひきしめられた藁小屋よ木枝の端くれで組み合されたものそれはあまりにも惨めな国を持たぬ俺達の懐……囲炉裏の火をカチカチ凍り切った空気を狂気じみに突きのめしたえず薪から薪へ燃え拡らんと群り起っている……白樺の梢の下に無数の飢えた民族の姿がまざまざと映じられ闘かいへかりたてるかの如く夜鷹がギャギャと雪白き夜の部落を襲って来る…………この一篇を朝鮮民族の友に与う……(一九三四年九月二十九日作 『詩精神』同年十一月号に発表)

●図書カード

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