Chapter 1 of 2

風と木

広い野原は、雪におおわれていました。無情な風が、わが世顔に、朝から夜まで、野原の上を吹きつづけています。その寒い風にさまたげられて、木の枝は、すこしもじっとしておちついていることができません。しきりに振り起こされては、氷のような空気の中に無理やりに躍らなければなりませんでした。

「もし、もし、北風さん、そう私をいじめるものではありません。私は、いま、春になる前の用意をしているのです。あなたが、この野原をひとりよがりに駈けまわっていなさるのも、わずかな間です。北の遠い地平線のあちらへ、あなたは、やがて帰っていく身ではありませんか。そう、私をいじめるものではありませんよ。」と、木の枝は、風に向かって叫んだのです。

北風は、これを聞くと、からからと笑いました。

「春になれば、私は、それは北の遠くへ帰ってしまうのさ。そして、こんどは、南からやさしい風が吹いてきて、おまえさんたちの頭を軽く、しんせつになでてくれるよ。けれど、あちらの池にきている雁が頼んで、いうのには、どうかもうすこし、元気よく吹いていてくれ、あんなほおじろとか、うぐいすとかいうような、人間のおもちゃにされるような、女々しい、虚栄心の強い小鳥どもが、いばり出すのは、しゃくだというのだ……。」と、北風は、木の枝に答えたのでした。

木の枝は、北風が力んだので、二、三べんも、細い身を揺すらなければならなかった。

広い野原の上には、雲切れがして、青い鏡のような空が見えていました。木の枝は、それを見ると、無上になつかしかったのです。春になれば、毎日のように、ああした空が見られると思ったからです。そして、かわいらしい小鳥どもが、自分を慕ってやってくる。中にも愛嬌もののうぐいすは、どこからか、すばしこそうな、あめ色の翼を、朝の日に輝かせて、早くから飛んできて、

「おかげさまで、春がきました。あなたのいい香いは、野原の上をいっぱいに漂っています。ごらんなさい。空の太陽までが、うっとりとしてあなたに見とれているではありませんか。なんという、あなたはいい香いのする花でしょう。もしあなたが、この野原に咲かなかったら、この広い野原は、どんなにさびしいでしょうか。私ばかりでありません。ほかの小鳥たちも、この野原には、影をひそめて、いつまでもここは、冬のままの景色でいるにちがいないのです……。」

木の枝は、こういったうぐいすの言葉を思い出して、

「なに、私は、寒くたって、かまわないけれど、小さな鳥たちが冬に飽きています。私が、花を咲かせないうちは、こまどりも、うぐいすも、おしのように、どこかのやぶの中にすくんでいなければなりません。それを思うと、早く、花を咲きたいばかりに、ついあなたにも訴えたわけでした。」と、木の枝は、風に向かっていいました。

すると、北風は、さげすむように、ふたたびからからと笑いました。

「ほんとうに、うぐいすがそんなことをいった?」

木の枝は、なつかしそうに、

「愛嬌もののうぐいすは、ほかの鳥とちがって、美しいばかりでなく、心もやさしく、私には、しんせつなのです。」と、答えました。

北風は、かつて、雪を家来にして、野原を駈けていた時分、一本の棒の上に、うぐいすがとまっていて、北風を見て、さも感歎しながら、

「北風さん、なんというお勇ましいんでしょう。数限りない雪の家来がおありなさるほかに、あの大きな雁や、野がもまでが、みんなあなたの家来なのです。やがて、あなたが、北の故郷へ引き上げなさるときには、この雪も、野がもも、雁もあなたのお伴をして、いっしょにいってしまうのでしょう。ただ、不幸なことに、あなたには、私のような、かわいらしい唄うたいがお伴にいないことです。私は、あなたが去られると、この野原の女王になります。そして、私が、一声かけさえすれば、あのおじいさんのような、無骨な枯れ木までが花を咲くのですよ……。」といったことを、北風は思い出した。それで、北風は、木の枝をさげすむように笑ったのでした。そして、北風は、うぐいすのいったことを、木の枝に語ったのです。

木の枝は、うぐいすが、だれに対しても、いいかげんなことをいうので、びっくりしました。

「そんなことをいいましたか? 私をおじいさんのような無骨者だと……、そして、自分を、野原の女王だと……。」

木の枝は、そんなら、自分は、じっと寒い風をも我慢をして、いつまでも花を咲かずにおいてやろうと思いました。そうしたら、どんなにこの野原は寂しいかしれない。いつまでたったって、春がこないにちがいない。そうしたら、うそつきのうぐいすはどうするつもりだろう……。

「北風さん、私は、我慢をします。どうぞ、もっともっと強く吹いて、雪を盛んに降らしてください。」といいました。

北風は、それから、しきりに募りはじめました。

Chapter 1 of 2