Chapter 1 of 1

Chapter 1

村から、町へ出る、途中に川がありました。子どもは、お母さんにつれられて、歩いていました。

橋をわたりかけると、子どもは、欄干につかまり川を見おろしました。水が、あとから、あとから、流れてきて、くいにぶつかっては、うずをまき、ジョボン、ジョボン、と、音をたてていました。子どもは、ふしぎそうに、それを見まもり、

「お母ちゃん、水が、なにかいっていますね。」と、いいました。

「早く、道草をとらんで、いらっしゃいと、いっているのですよ。」と、お母さんは、答えました。

「この水は、どこまでいくの。」

「そうですね、村や、町を通って、海へいくのですよ。」

二人は、話しながら、また、歩きだしました。岸の、ねこやなぎは、まだ赤いずきんをかぶって、ねていました。

今年の、遠足は、昔の、城あとを見にいくのでした。

ぼくたちは、田んぼの、小道を歩いて、森のある村を通り、そして、さびしい小山のふもとへ出ました。

そこが、城あとでありました。わずかにのこるものは、当時、とりでにつかったという、青ごけのはえた、大きな石と、やぶにかくれた、池くらいのものです。その池には人のいないとき、金の蔵が浮くという、いいつたえがありました。

「みなさん、池はあぶないから、気をつけるんですよ。」と先生は、いわれました。

くまざさをわけて、下をのぞくと、水のおもてが、青黒く光って、それへ、まわりの木の枝から、たれさがる、むらさき色のふじの花が、美しいかげをうつしていました。「ドボン。」と、どこかで、かえるのとびこむ音がしました。

ぼくたちの、泳ぎにいく川は、村の近くにありました。水が、いつもたくさんで、きれいでした。浅いところは、そこにうずまる、白いせとものや、青い石ころまですきとおって見えました。橋のところから、川下へいくにつれて、だんだん、深くなりました。

くるみの木のあるあたりが、いちばん深くて、ぼくたちの背は、立ちません。ここでは、よく大きなふなや、なまずなどが、つれました。

今年も、いつしかたのしい、泳ぎの季節となりました。おばあさんが、

「きゅうりの、初なりを、水神さまにあげなさい。」と、おっしゃったので、ぼくは、畑から、みごとなきゅうりを、もいできて、それへ、自分の名を書きました。そして、それを川へ流しにいきました。

ぼくは、ひさしぶりで、なつかしい川のにおいをかぎました。水も、ぼくを見て笑えば、太陽まで、きら、きらと、よろこんで、歓迎してくれました。

地主は、縁側で、庭をながめながら、たばこをすっていました。そのとき、きたないふうをした、旅僧が、はいってきて、

「どうぞ、水を一ぱい、いただきたい。」と、もうしました。すると、地主は、つれなく、

「この井戸の水は、金気があって、のめない。どうぞ、よそへいきなされ。」と、ことわりました。

旅僧は、そのまま、だまって、木戸口を出ていきました。

旅僧は、こんど、村はずれの、小さな百姓家へはいって、たのみました。

「おやすいことです。さあ、たくさんめしあがれ。」と、いって、あるじは、わざわざ井戸から、つめたい水をくんでくれました。

僧は、よろこんで、お経をあげて、たちさりました。

それからというもの、どんなひでりつづきで、ほかの井戸が、かれても、この家の井戸は、ご利益で、水のつきることは、なかったといいます。

ある夜、わたしが、町を歩いていると、広場の、くらがりに、人々があつまって、なにか見ていました。

わたしも、そのそばへ近づくと、おじいさんが、大きな望遠鏡をすえつけて、お金をとって、月を見せているのでした。

「どうです、よく見えませんか。あの雲のようなのが、山脈で、ぼつ、ぼつが、噴火口のあとです。月の世界には、水がないから、生物もいない。死んだ世界ですよ。」と、おじいさんは、説明しました。

「ああ、それで、月は水がのみたいのか。」と、わたしは、思いました。

だから、どんな小さな水たまりにも、また、細い流れにも、月が、姿をうつしていました。

わたしが、町を出て、さびしい、小道をいくと、畑で、虫がないていました。まだ、夜ふけともならぬのに、いもの葉に、もう露がおりていました。そして、その露の玉にも、やはり、月のかげが、やどっていました。

秋の、うららかな日でした。

畑から、とってきた菜の花を、母親は、前の小川で洗っていました。

少年は、そのそばに立って、見ていました。毎年、いまごろになると、どこの家でも、冬の用意に、菜をつけるのでした。

「まだ、なかなか。ぼく、おなかがすいた。」と、少年は、いいました。

「もう、ちっとがまんをおし、じき終わりますからね。そうしたら、はいって、ご飯のしたくをします。」と、母親は、答えました。

日が、だんだんと、西へかたむいて、水の上が、かげりはじめました。

そのとき、川上から、新しい菜の葉が、流れてきました。

「お母さん、どこで、菜を洗っているんでしょうね。」

「さあ、どこの家でしょうね。どこでも、このお天気のうちに、菜をつけるんですよ。きっと、このあとは、雪がふりますからね。」

ふと、このとき、少年の頭に、ほかでも、こうして、母親をまっている、子どものあることが、うかびました。

庭先の、大きな水盤には、夏から、秋へかけて、まっかな、すいれんの花がさきました。

また、きんぎょと、めだかが、なかよく、泳いでいました。

そのころ、毎日、一ぴきのはちが、水をのみに、とんできました。はちは、すいれんの、まるい葉のまん中へ、おりました。それから、水にひたる、葉のふちまで歩きました。

いつしか、秋が深くなると、すいれんの葉は、黒くくちて、水の底へしずみました。また、はちも、どこへいったか、こなくなりました。けれど、水盤の中では、あいかわらず、きんぎょと、めだかが、泳いでいました。

とうとう、こがらしのふく、季節となりました。すると、水盤の水は、氷のように冷たかったのです。ある日、子どもは、魚たちを、かわいそうに思って、小さな入れ物へうつし、あたたかな、自分のへやへもってきました。しかし、冷たくとも、すみなれた場所のほうが、よかったのか、一晩のうちに、いくひきか死んでしまいました。子どもは、おどろいて、あとの魚たちを、ふたたび、水盤の中に、もどしました。

●図書カード

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