Chapter 1 of 1

Chapter 1

「堺へいなう、堺へいなう」

深夜、安土城の庭から

奥の寝室に聞えてくる声

移し植ゑたばかりの

妙国寺の蘇鉄

毎夜のやうに言ふ

信長は手討にしなかつた

「あの蘇鉄を

堺へ帰してやれ」

話のついでに――

「晶子さん

あなたは堺へ帰りたいと思ひませんか」

「いいえ

よく出てきたと思ひます」

堺は古い街だ

古い街から

新しい人が生れた

晶子さんは、また

黙つて堺へ帰つてゐる

蘇鉄よ

私も、もう一度

堺へ帰らう

●図書カード

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