Chapter 1 of 1

Chapter 1

あなたの懐中にある小さな詩集を見せてください

かくさないで――。

それ一冊きりしかない若い時の詩集。

隠してゐるのは、あなたばかりではないが

をりをりは出して見せた方がよい。

さういふ詩集は

誰しも持つてゐます。

をさないでせう、まづいでせう、感傷的でせう

無分別で、あさはかで、つきつめてゐるでせう。

けれども歌はないでゐられない

淋しい自分が、なつかしく、かなしく、

人恋しく、うたも、涙も、一しよに湧き出た頃の詩集。

さういふ詩集は

誰しも持つてゐます。

たとへ人に見せないまでも

大切にしまつておいて

春が来る毎に

春の心になるやうに

自分の苦しさを思ひ出してみることです。

詩集には

過ぎて行く春の悩みが書いてあるでせう。

ふところ深く秘めて置いて

そつと見る詩集でせう。

併し

季節はまた春になりました。

あなたの古い詩集を見せて下さい。

●図書カード

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