Chapter 1 of 1
Chapter 1
南の国の黄昏れ、
空は紅き笑ひを残して静かなり。
想思樹の葉のねむたげにうなだれ、
かすかなるうめきをやする。
ああ淋しみ、心をなす、植民地の黄昏!
椰子の並木を縫ひて、
灯火は紅き花と見まがう。
その時我が耳に訪づれし悲歌の哀さよ。
小暗き森の奥に、
時々もれくる鬱憂の月影。
木の葉は眠りより醒めて、
あやしき夜色に顫へ出す。
忽ち響く恐ろしき獣の声!
よろづのものは皆醒めはてぬ。
声かれて歯白ろき、獣と思へば、
吾はたゞ恐怖の為めに伏して在るのみ!
白き墓たちならぶ国!
まへには荒磯の潮騒、………
絶えず訪づれ、
うしろには歓楽の歌きこえて、
また墓石を濡す、
哭泣の哀れも湧く。
こゝにして、悲しめる者相集ひ、
匂ひよき酒を椰子の実に盛り、
互に口をすぼめて飲む時の
うれしさよ!
死は遂に吾れを慰め、………
人生の極みをのぞき見る。
小鳥は、秋の空にさ迷ふ、
吾れは、一つの悲哀をとらへ、
小さき胸に隈なく乱る。
迷ひ、悲しみ、何の益ある、
小鳥よ来れ!手に手をとりて、
花咲き笑ふ南へさらむ。
●図書カード