Chapter 7 of 8
戯縊
村人某、かねて無頼の性なりけり。村外に遊びけるをり、少婦の馬に乗りて来るを見て、同遊の者を顧みて謂く、おのれ彼の少女をして笑はしめむと言ふ。聞く者、そを深く信ずることなかりければ、賭を約して筵す。某、遽かに奔り出でゝ、馬前を遮り、連りに呼はるやう、いでいで己れ死なばやと。傍の墻より高粱の殻一本を抽きて、これを横たへて、帯を解きてその上に掛け、頭を引いて縊るる為したり。少婦はこの状を見て、果して哂ふ。衆のものも亦うちはやしぬ。婦去りて既に遠くなりぬ。しかるに某は身動だにせであるを、衆のものいよいよ可笑がりて、近づき視れば、何ぞ図らむ、舌を吐き目を瞑りて、呼息まことに絶えたり。高粱の殻にて縊れぬとは奇しからずや。※薄の徒の戒となすべしとなむ。