Chapter 10 of 14
大樟林
翌日。
昨日絹笠の展望岩から見下した山領谷の谷底にある大樟林が森林公園の予定地だというので、今日はそこを見るため、上野さんを東道役として、園さんと三人、早朝出立、木場道の中途まで自動車で行き、そこから急峻な谷間を分け下る。殆ど谷を降り尽したところに、その大樟林はある。面積は三町歩あまり、梢にいる小禽が高くて撃てぬと狩猟家である上野さんの説明通り樟はいずれも高くのびており殆ど純林をなしていて、木漏日が僅にさし、堆かいほど落葉が積んでおり、木の間に横たわっておる熔岩は悉く苔蒸し、羊歯が生え、天南星が大きな葉をひろげて、陰森幽邃な別天地を形作られる。
渓流の音が聞こえるので、そこへ降りて行くと、突然一羽の雉が私達を驚かして横さまに木の間を掠め飛び去ったのも、時に取っての一興であった。渓流は細いが、水は清冽で、その辺は巨大な岩石が重畳しており、樟に雑って大榎の茂っている薄暗い広場があって、そこにお誂え通り小やかな狐格子のついた山神の祠がある。樟林を出ると一方には妙見の山脚が絶壁をなして間近に迫って来ており、一方はまた絹笠の山脚がゆるやかに延びて、美しい傾斜面を作っている。それはこの一帯を包容する時、森林公園として、まことに適当の候補地であることを首肯させる。この谷間を登山鉄道が通過する予定になっているそうで、やがてこの地が雲仙名所の一に数えらるる日も遠くはあるまい。
谷深み五百枝大楠立ちならぶしゞまの森に雉子こもらふ
かさ/\と落葉ふみ行く大楠の森のこもれ日影の淡しも