Chapter 1 of 1

Chapter 1

女九歳

岸田國士

Y子はK病院で扁桃腺の手術をすることになつた。

Y子は九歳で、春夏秋冬、風邪をひいた。

Y子は母親と、K子叔母ちやまと、女中とに連れられて家を出た。

Y子はその日、平生よりもはしやいでゐた。そして、時々、溜息を吐いた。

裸にされ、手術室にはひると、そばに母親も、K子叔母ちやまも、女中もゐなかつた。

Y子は、一寸泣きたさうな顔をしたが、やがて、夢中で口をあいた。――母親が、鍵孔から、息をこらして、中の様子を見てゐることなど、勿論知らなかつた。

突然、Y子は泣き出した。喉がチクツとした。

「さ、もう一度、口をあいて……」

お医者さんが云つた。

母親は、鍵孔に眼を押しつけた。

Y子は泣きながら、大きな口を開いた。

こんどは、母親が泣きたくなつた。

そのことを、あとで、K子叔母ちやまと女中とに話したら、二人とも、また泣きたくなつた。

Y子は、喉に氷をあてゝ、ちよつと、得意さうに眼をつぶつてゐた。

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