Chapter 1 of 47

海底の美しい景観のなかに、若い海女が一人、自由奔放な姿で現れる。腰に綱をつけてゐるのがはつきりわかる。海女は、岩の間を潜り、海草の茂みを分け、アハビ貝を探してゐる。アハビを二つ腰にさげた網に入れる。そして、綱を激しく手で引く。綱は上から手繰りあげられ、やがて、海女は水面に顔を出す。

水面には、一艘の小舟が待つてゐる。海女が舟べりに手をかけるのと、小舟の上の男が両手で彼女の腕をとるのと同時である。

「えらくひまどつたな。心配させるなよ」

男は、海女の夫、浦島太郎である。

「もう、このへんには、いくらもないよ」

海女の名は、サヾエ、まだ新婚の初々しさを失つてゐない。舟に上り、ぐつたりと夫の肩にもたれかゝるやうにして、

「今日はこれくらゐにしておかうか」

「うむ、無理をせんがいゝ。どれ、おまへ、顔色がよくないぞ。早う、帰らう、帰らう」

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