薄日の崖
白菊
目にたちて黄なる蕋までいくつ明る白菊の乱れ今朝まだ冷たき
黄の蕋のいとど目にたつ白菊は花みな小さし咲き乱れつつ
さえざえと今朝咲き盛る白菊の葉かげの土は紫に見ゆ
独遊ぶ今朝のこころのつくづくと目を留めてゐる白菊の花に
菊の香よ故しわかねどうらうらに咲きの盛りは我を泣かしむ
咲くほどは垣内の小菊影さして日のあたり弱きしづもりにあり
独居はなにかくつろぐ午たけて酒こほしかもこの菊盛り
この垣内見つつ狭けど白菊のにほふおもてのかぎりなく澄む
籬の菊
鎌倉小町園にて日あたりの籬の白菊小町菊盛り過ぎつつなほししづけさ
白菊や香には匂へどうつつなしよにしづかなる日ざしあたれり
菊の影いくつしづけき真柴垣日は移るらしあたるとなしに
かの薫るは日当りの菊日かげの菊いづれともわかぬ冷たき菊の香
日向べは観てしづかなり菊の香のうつらかがよふひと日遊ばむ
草の穂
父母のしきりに恋し雉子のこゑ 芭蕉日当りと日影のすぢめ目につきてしきりにさびし穂にそよぐもの
かやの実
榧の木にかやの実の生り、榧の実は熟れてこぼれぬ。こぼれたる拾ひて見れば、露じもに凍てし榧の実、尖り実の愛し銃弾、みどり児が頭にも似つ、わが抱ける子の。
かい擁へかやの実ひろふ朝寒し子が掌にもしかと一つ持たしつ
かいかがみ拾ふ木の実のか青さよしみじみと置く今朝の露霜
みどり児が力こめたる掌に一つ手にぎる小さきかやの実
霜じみの一つかやの実押し据ゑて何ぞこの子があつき掌
かやの実も愛しとは思へかい撫でて吾がみどり児が愛し頭毛
みどり児の尖る頭よよく似ればあはれよひろふ凍てしかやの実
今朝も見てここだ現しきかやの実やほらよほらよと子に拾ひつつ
かやの根にかやの木地蔵ましまして子らも立ちたり霧の木しづく
地にころげここだ下凍むかやの実はかきさがすまも愛しかりけり
籐椅子の上
何あそびうつつなき子ぞ椅子の上にゆらぐ頭のうしろのみ見ゆ
うつつなく頭揺りをるうしろ影わが子ぞと見つつ息もつきあへず
独よく遊ぶ吾子や久しくを声ひとつたてず真日あかるきに
気にふかく遊ぶ吾子や後附きてうかがひほほえみ息つむ我は
あれの児が独あそびの幼くてはずみあまれば手を挙げ叫べり
葉鶏頭の種子
うらなごむ今日の日向や種子とると刈りて干したり了へし葉鶏頭
茎も葉もあかき葉鶏頭根刈りして地にたたきをり房の種子殻
掌の汗にしみみ粒だつ紅の種子葉鶏頭の種子は柔ら揉みつつ
ねもごろにけふも了へたり葉鶏頭の千金丹は布の袋に
薄日
いつしかと寒うなるらし見つつ行く薄日の崖の竹煮草のかげ
竹煮草の枯がれの葉のがさつき葉をりふしの風も陽もかげらしむ
枯れにけり今は芙蓉の実の殻の中干割れつつ光る絹の毛
冬晴
日あたりのうらめづらしき竜胆の蕾がふたつ開きつつゐる
日あたりの冬の薊に吹かれ来て揺れてゐる蝶の影のうつつなさ
月と孟宗
円かなる月の後夜としなりにけり孟宗の秀の大揺れの風
照りあかき月の夜にしてさわさわし孟宗の揺れのあの寒さはや
物すごき藪の月夜の時あかりかげるかと見れば騒ぐ葉の影
目のさめて悔しと思ふ祈りごころ許されざらむ月に対へり
榧と栗
この寺の老木の栗のいが栗はまたすがれたり榧の木の前
榧の木はさしも青けど落葉木の栗はあらはに枯れにけるかも
百日紅 試作
百日紅が咲いたさうなよほうら見ろ隣の寺の藁屋根のつま
百日紅が寺に咲いたぞひさびさだ遊びがてらに出て見よかなも
百日紅が紅う咲いてる寺のむすめが手まりついてるその花かげで
百日紅が紅う咲いたとながめてゐた紅う咲いたと誰か云つてゐる
柔かなは仏の掌であるほんのりした百日紅の紅みが射して
百日紅が紅う咲いたと知らしてあげなお母様でもお見えなさろで
出入りに紅いな紅いなとながめてゐるとなりの寺の百日紅を
百日紅の花のさかりも過ぎまするどれよはなれの障子でも張ろ
このお父さ 試作
このお父さ抱きあげ抱きあげほれ坊やよ紅い花がと何処迄行くぞ
ほれ坊やよ百日紅が咲いてましよ紅いな紅いなさしあげて見しよ
ほれ坊やよ海の向ふが見えましよが美しいでしよ差上げて見しよ
茶の花
まだ秋だに早やもお寺の茶の花はふつこぼれてる茶つ株のねきに
幽かなる茶の花よりも濃き青の厚葉がかなし一枝摘めば