Chapter 1 of 1

Chapter 1

ある商人が、市へ行きました。うまく商売をして、もっていった品物を、みんな売ってしまいました。おかげで、さいふは金貨やら銀貨やらで、いっぱいにふくらみました。

商人は、日の暮れないうちに、家へ帰ろうと思いました。そこで、金貨をいれた旅行かばんを馬にのせて、でかけました。お昼になり、商人は、とある町でひとやすみしました。やがて、またでかけようとすると、その店の下男が、商人の馬をひいてきて、

「だんな。左の後足の金靴の釘が、一本ぬけていますよ。」と、いいました。

「いや、ぬけていたってかまわんよ。これから、まだ六時間ばかり乗っていくんだが、そのあいだぐらいは、金靴も落ちはしないだろう。わしは今、いそいでいるんでな。」

と、商人は答えました。

商人は、お昼すぎにも、また、馬からおりてやすみました。馬にも、えさをやらせました。

すると、その店の下男が、商人のいる部屋にはいってきて、いいました。

「だんな。あの馬の左の後足の金靴が、とれていますよ。鍛冶屋へつれていきましょうか。」

「いや、とれていたってかまわんよ。まだ、二、三時間は乗っていかねばならんが、そのくらいは、金靴がなくてもだいじょうぶだろう。わしは今、いそいでいるんでな。」

と、商人は答えました。

こうして、商人は、馬に乗ってでかけました。しかし、いくらも行かないうちに、馬は足をひきはじめました。足をひいているうちに、こんどは、つまずきはじめました。つまずきつまずき、行くうちに、とうとう、馬はばったりたおれて、足を一本折ってしまいました。

こうなっては、しかたがありません。商人は、馬をそのままにしておいて、かばんを馬からおろすと、肩にかつぎました。それから、てくてく歩いて、夜おそくなってから、やっと、家にたどりつきました。

「あの、いまいましい釘のおかげで、さんざんなめにあってしまった。」

と、商人はひとりごとをいいました。

”いそぐときには、まわり道でも安全な道をえらぶほうが、かえって早い。“というのは、このことですね。

●図書カード

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