Chapter 1 of 29

乖離

十月。秋神の即位。――金鶯一羽、廃園のエルムの樹に通ひはじめる。

道傍の亜灌木にある、水禽の糞。

湖からあがる風が、弧を描いて、水霜の葉におちる。

青い鶫が食卓にのぼりだすと、聖餐式のやうに澄んだ夜ごとが、展ける…

手帖に一篇天使園の薔薇といふ詩を、書きとつた。それから、パピィニの自叙伝を読んだ。そして、ひとりで眠つた。

「灰色の靴下を穿いた秋」が、わたしの精神の罅裂の隙き間から、潜りこんでくる。

霊感の屯。――たましひの寨。

福音書的とは、何といふことであらう。

海扇貝にみえる、支那団扇。

かれが年老いたアナクレオンのやうに、雨にうたれながら詩を吐き出す、――吐き出すことそれは、一向エヴァンヂェリックではない。

弗羅曼とよばれる、割烹店の中二階。孔雀草の群落。

わたしは水馬歯を刻んで、それへ該里の酒を滴らせる。秋ばかりは、金いろの時間が、燠のやうに燻つて。…

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