Chapter 1 of 29
乖離
一
十月。秋神の即位。――金鶯一羽、廃園のエルムの樹に通ひはじめる。
二
道傍の亜灌木にある、水禽の糞。
湖からあがる風が、弧を描いて、水霜の葉におちる。
青い鶫が食卓にのぼりだすと、聖餐式のやうに澄んだ夜ごとが、展ける…
三
手帖に一篇天使園の薔薇といふ詩を、書きとつた。それから、パピィニの自叙伝を読んだ。そして、ひとりで眠つた。
「灰色の靴下を穿いた秋」が、わたしの精神の罅裂の隙き間から、潜りこんでくる。
四
霊感の屯。――たましひの寨。
五
福音書的とは、何といふことであらう。
海扇貝にみえる、支那団扇。
かれが年老いたアナクレオンのやうに、雨にうたれながら詩を吐き出す、――吐き出すことそれは、一向エヴァンヂェリックではない。
六
弗羅曼とよばれる、割烹店の中二階。孔雀草の群落。
わたしは水馬歯を刻んで、それへ該里の酒を滴らせる。秋ばかりは、金いろの時間が、燠のやうに燻つて。…