Quay lại
墓地の殺人
Table of Contents
墓地の殺人
小酒井不木
Reading Settings
Cỡ chữ
18px
Giao diện
Sáng
Tối
Sepia
Bảo vệ mắt
Khoảng cách dòng
Chế độ đọc
Bản dịch Pagera AI
Nguyên bản Public Domain
Chapter 4 of 17

一

塚原俊夫君は実験室に帰るなり、死人から取ってきたシャツのポケットのごみと、耳垢と、爪の垢との顕微鏡的検査にとりかかりました。

そもそもこのごみや垢の顕微鏡的検査は最近の科学的探偵法のうちで最も肝要な位置を占めているのでありまして、ある場合には指紋などよりも重要な役目をつとめることがあります。

この方面の大家としては現にフランスのリヨン警察の鑑識課の主任を勤めているロカール氏が最も有名でありまして、氏によって幾多の難事件がきわめて容易に解決されましたが、それらの例は氏の最近の著書に詳しく書かれておりまして、もとよりすでに俊夫君の愛読書の一つとなっております。

試みに今その一二の例を挙げるならば、ある森の中で一人の若い女が、絞殺されておりました。間もなく犯人嫌疑者として一人の青年が逮捕されましたが、いろいろの情況証拠があったにかかわらず、青年はどうしても自白しませんでした。

そこで警察では直接証拠を得られないものかと、ロカール氏に依頼しました。するとロカール氏はまず女の死体をよく検査してみましたところ、女の首筋に犯人が首をしめる時につけたと思われる、爪でひッ掻いた痕がありました。そこでこんどは青年の爪の垢を取って調べましたところ、顕微鏡下に現れたものは、人間の皮膚の上皮層とある特種の白粉の粉でありました。

その白粉は通常の白粉と違って、殺された女ばかりが特に愛用している珍しい白粉でありましたから、証拠はもはや確実なものとなりました。この証拠をつきつけるとさすがの青年もついに包みきれずして自白したのであります。

またあるとき紙幣贋造団が検挙されました。しかしながらそのうちの誰が張本人で、どこで紙幣を贋造しているのか分かりませんでした。もとより彼らの誰もそれを白状する者なく、警察でも困ってしまって、ロカール氏に鑑定を依頼したのであります。

するとロカール氏は嫌疑者たちの耳の垢を取っていちいち検べてみました。その結果一人の男の耳垢の中から印刷インキの飛沫を発見したのであります。その男というのは、宿屋の主人でありまして、警察もまさかと思って家宅捜索をしなかったのでありますが、このロカール氏の発見によって直ちに踏みこんで検べてみると、果たして地下室に印刷機が発見されたのであります。

こういうように爪の垢や耳の垢の検査は時として確定的に証拠を与えるものであります。また前回にも述べましたように、爪の垢からその人の職業を知ることもできます。またその人がどこに住まっていたかをも知ることができます。

しかしながら犯罪探偵の際には、どの事件もこれらの例のように都合よく運ぶとは限りません。俊夫君はずいぶん意気ごんで、顕微鏡的検査にとりかかりましたが、およそ三時間ばかりすぎた後、出てきた時の顔には確かに失望の色が現れておりました。

「どうだ、何か有力な手掛かりが得られたかね」

と私が聞くと、

「駄目駄目、何の変わった所見もない、ただ右の拇指に胡椒の粉が少し着いていたくらいのものだ」

「胡椒?」

と私は言って考えました。

「考えるまでもないよ、大方西洋料理でも食べたんだろう」

と俊夫君はこともなげに言いました。

「耳の垢には何か珍しいものでもなかったかね」

「いや何にもない、シャツのポケットのごみの中にも、これというものが発見されない。僕は墓地で死体を見た瞬間、この事件は難物だと思ったが果たしてそうだった。この上は解剖の結果を待って、何かの手掛かりを得るより他に仕方がない」

そのとき入口のベルが鳴ったので、私が開けにいきますと、そこには他ならぬ小田刑事が立っておられました。

小田さんが中に入るなり、俊夫君は解剖の結果を尋ねました。

「あれからすぐ死体を警視庁に運んで解剖してもらうと、死ぬ二時間ほど前に、死人は洋食を食べたことが分かった」

私たちは思わず顔を見合わせました。小田さんは私たちに頓着なく言葉を続けました。

「それはビーフカツの消化の程度で分かったのだ。殺されたのがゆうべの十二時だとすれば、ビーフカツを食ったのはたぶん十時前後だと思われる」

「それではすぐあの近所の西洋料理屋を探させてくださいましたか」

小田さんは頷いて、

「ああ、すぐさま部下に命じて手分けをして死人の写真を持たせて、浅草付近ばかりでなく、できるだけ方々の西洋料理屋を探させてある。発見し次第こちらへ電話で知らせることになっているのだ。時に君は何か変わったことを発見したかね」

「今も兄さんと話していたことですが、さっぱり手掛かりが無いのです。右の拇指の爪の垢から胡椒の粉が発見されたんですけれど、これは今あなたのお話しになった、解剖の結果を裏書きしたにすぎません。とにかくこの事件の犯人はよほど運がいい奴か、さもなければよほど狡猾な奴に違いありません。

しかし死人が西洋料理を食べたということは、この際よほど有力な手掛かりです。多分どこで食べたかと言うことがそのうちに分かるでしょう。そうすれば誰と一緒に食べにきたかということも分かり、しぜん犯人の手掛かりも得られることになります」

このとき電話のベルが鳴ったので、私が電話口へ出てみますと、先方は男の声で小田刑事に出てもらってくれと言うことでした。さては、と思って小田さんに目くばせすると、やがて小田さんは受話器を受け取って、何やら興奮したらしい口調で話しておられましたが、電話を切るなり、

「俊夫君、分かったよ、死人がゆうべ立ち寄った西洋料理屋が分かったよ、これからすぐに行こうと思うが、君も一緒に来てくれないか」

Chapter 4 of 17
|