Chapter 1 of 1

Chapter 1

ふところには

びた一文もない

ここへ廻されたことも

誰れも知らないだらう

便りさえ

奪れている身だ

六日間

便器とカビと煤との

あらゆる臭いにむされながら

くさいめしを

無理につめ込んで

煤だらけの真っ黒い天井と

にらめっこして生きた

七日目

ふと、独房までも

つき抜ける声を聞いた

「ここに

Sと云う男がきている筈ですが

この本と金をやって下さい……」

思わず

俺は格子にすがった

Hの声だ

おお、五十里をはるばると

差入れにきた嬉しい仲間よ

それにしても

ここへ送られたことを

誰れが伝えたろうか?

そうだ!

俺達の支持者はどこにもいる

あのとき一緒にいた

チンピラか?

スリか?

酔いどれか?

とまれ

救援会と連絡がついたのだ

明日から退屈なしに生きられるぞ!

めったに

流れぬなみだが

このときばかりはにじみ出た

おおこれが

嬉しなみだと云うのだろう

(発表誌不詳 一九三一年八月戦旗社刊『一九三一年版日本プロレタリア詩集』を底本)

●図書カード

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