Chapter 6 of 7
窓のムスメ
中窓の欄干にもたれて雨だれをみてゐるムスメがあつた。
肩揚のある羽織には、椿の模様がついてゐた。髪はおたばこぼんにゆつてゐたやうに思はれる。
俯向いてゐたゆえ、顔はどんなであつたかそれはわからない。
けれど、五月雨の頃とて、淡青い空気にへだてられたその横顔はほのかに思ひうかぶ。
戸外にはカリンの木がうはつて、淡紅の花の香が暗い雨の庭にたちまよふてゐた。
それが何時であつたとも、そのムスメが誰であつたとも今は知るよしもない。
母にきけど、そんな窓は見たことがないといふ。
姉にきけど、そのやうなムスメは知らぬといふ。
その頃よんだリイダアなどの絵の女かとおもふけれど、それもたしかでない。
ムスメはつひに俯いたまヽ、いつまでも/\私の記臆に青白い影をなげ、灰色の忘却のうへを銀の雨が降りしきる。