Chapter 1 of 1
Chapter 1
私ばかりしあわせな死に方をしてすみません。奥名とすこし長い生活ができて、愛情でもふえてきましたらこんな結果ともならずにすんだかもわかりません。山崎の姓に返ってから死にたいと願っていましたが……、骨は本当は太宰さんのお隣りにでも入れて頂ければ本望なのですけれど、それは余りにも虫のよい願いだと知っております。太宰さんと初めてお目もじしたとき他に二、三人のお友達と御一緒でいらっしゃいましたが、お話を伺っておりますときに私の心にピンピン触れるものがありました。奥名以上の愛情を感じてしまいました。御家庭を持っていらっしゃるお方で私も考えましたけれど、女として生き女として死にとうございます。あの世へ行ったら太宰さんの御両親様にも御あいさつしてきっと信じて頂くつもりです。愛して愛して治さんを幸せにしてみせます。
せめてもう一、二年生きていようと思ったのですが、妻は夫と共にどこ迄も歩みとうございますもの。ただ御両親のお悲しみと今後が気掛りです。
(注・この遺書は昭和二十二年八月二十九日付となっている)