創刊の辞
会員の待望によって、『唯研ニュース』が創刊される運びになった。会員諸氏は多分之を喜んで呉れるだろう。然し或細心な会員達の内には、同時に財政上の困難が心配になると云う人がいるかも知れない。今まで出していたニュースは、「唯研」全体のものだったのに、事実上は「唯研」の研究組織部の研究予報に過ぎなかった。この不充分を補うために出たのが、この『唯研ニュース』なのだが、之を出すようになっても、矢張時々「号外」として研究会予報を会員の手許に送らねばならない場合が少くないだろう。そう考えればこのニュースを出すことによる経済上の負担はあまり小さいものではない。
然し多少の財政的な犠牲のために、会と会員とにとってニュースが絶対必要だという根本的事実を犠牲にすることは出来ない。
機関誌『唯物論研究』は相当多数の一般読者を持っているが、それにも拘らず何よりも先に夫が会員のものでなければならぬということは、今更ここで云うまでもない、処がこのニュースは、より以上に会員のものであり、より以上に会員の身辺に接近したものである。
例えば総会の詳しい記事とか、研究会の活々とした状況描写とか、会員の科学上の細かい様々な仕事とか、更に会員親睦の材料になるような身辺の消息とか、そう云った一種の私的な報道は、機関誌に載せることは出来ない次第だが、併し会員には極めて大切なニュースだろう。そういうニュースを送る役目を果す機関が、特にこの会には必要なのだが、この『唯研ニュース』でこの必要を充したいと考える。――で之は、会と会員とのための日記という意味を先ず第一に有たなければならぬ。
会員にとって割合私的な個人的な報道がこのニュースで送られるわけであるが、もう一つ指摘しておかなければならないこのニュースに独特な職能がある。それは機関誌発行と次の機関誌発行との間の期間に発生した臨時の問題で、機関誌の発行に先立って会員に報道したいものがある場合、これを逸早く載せることの出来るのは、このニュースでなくてはならぬ。迅速を要するアップ・トゥー・デートな記事はここに載せるわけで、仮にこの点から『唯研ニュース』は唯物論研究会の新聞と見做してもいいだろう。
会員の研究や形の整った考察は、各々研究会の方に廻すべきだし論説や討論や研究上のノート、コレスポンデンスなどは機関誌に載るだろう。処で会員の一寸とした思いつきや、希望や、凡そ感情や意志の形のままで現われるような内容には、このニュースがスペースを提供する。会員が会員に対してやや公式な然し私的な手紙を書こうとすれば、恐らくこのニュースを通じて行われる外はないだろう。そう考えれば『唯研ニュース』は会員に手紙として役立つだろう。
『唯研ニュース』は唯物論研究会とその会員とにとっての、日記であり、新聞であり、又手紙でもある。ただ、月に大体二度しか出ない(毎月五日と二十日発行)処に、特色と云えば特色、欠点と云えば欠点があるわけで、時を得たならば、或は本当の新聞にまで、本当の日誌にまで、手紙としては頻繁過ぎる程頻繁な手紙にまで、成長するかも知れない。
日記には普通あまり理屈は書かないものだし、手紙でも近代的な手紙には議論は書かない。単行本や雑誌の出版が小規模だった近世初期には、日記や手紙は論文や論争の形式を取ったものも多かったが、現代ではもうそうではなくなった。新聞でも近代新聞の現状では、理屈や議論は重大な役目を持っていない。わが『唯研ニュース』も亦、そういう意味での現代的な日記、手紙、現代式な新聞に、多分なるだろう。会員は角を立てずに四角ばらずに、自由に社交的に、この『ニュース』を利用出来るだろう。
尤も今度のこの『ニュース』は創刊号のことでもあり、又事務的な記事が多過ぎたので、一寸今云ったような理想的(?)な紙面を提供することは出来なかったが、問題は今後にあるのだ。
重ねて云っておきたいのだが、この『ニュース』は吾々会員自身のものだということを、念頭に刻んでおいて欲しい。だから各会員は、丁度、銘々が日記をつける義務があり、毎日新聞を読む責任があり、時々手紙を書く義理があると同じに、この『唯研ニュース』に対して義務、責任、義理を負担しているわけで、但しそれ以上の義務も責任も義理もないわけだが、とにかくそういう限度で、会員にとっては、この『ニュース』に対する負担が課せられているのである。素直に云い換えれば、会員各位が振って、本『ニュース』のために援助を与え、特に進んで御投稿あらんことを、期待して止まないのである。
「非常時」時局の折柄、わが唯物論研究会の研究活動は、弥が上にも意義の重大性を加えつつある。今日程「唯物論」が理解されず、今日程「唯物論」が誤解されている時代は、なかったとさえ云っていいかも知れない。世間の心ある人士はわが唯物論研究会のこの客観的意義をば最近頓に「認識」するに到った結果であろう、わが研究会は最近着々として有力なメンバーを加えつつある。『唯研ニュース』の創刊は期せずして、当会のこうした積極的な情勢を反映するものである。
(一号、一九三三・一一・二〇)