Chapter 1 of 5

第1圖 大雪に埋れた農村

わが國には昔から「六花豐年の兆」という言葉があって、大雪の年は豐作だといって喜んだものである。しかしそれは何も科學的なよりどころのある話ではない。實際に冬の間に降った雪の量と、その年の秋の收穫とを調べてみると、大雪の年に米がたくさん穫れるというようなきまった關係は無い。

東北地方や北海道などでは、むしろその反對の場合が多いのであって、春さきになってもなかなか雪がとけない年は、作付がおくれて凶作になることの方が多いようである。大雪と豐作とを結びつけて考えたのは、華北や滿洲のように春さき乾燥して水が不足して困る地方のことであろう。ひょっとすると「六花豐年の兆」というのも中國から傳った言葉かもしれない。或は日本でも暖國地方にはそういうこともあるのかもしれない。そういうところならば、冬寒くて雪が多いと害蟲が死ぬというようなこともあり得る。しかしそれもちゃんと調べてみなければほんとうかどうか分らない。昔からの言い傳えというものは、決して馬鹿にはならないが、そうかといって、そのまま信用することも、もちろんいけないのである。

いずれにしても、東北地方や北海道のように雪の多いところでは、春さき雪の消えるのがおくれることは、農家にとって非常に困ることである。夏の短い北國では、春さきの作付は一日を爭うものである。馬鈴薯などは、朝植えたのと夕方植えたものとでは、もうちがいがあるといわれているくらいである。それはもちろん譬えであろうが、何にしてもそれくらい春の作付というものは、急ぐものなのである。それならば、何とかして春さき人間の力で早く雪を消して、作付をずっと早めたら、大増收になりそうである。實際のところその通りなのであって、今後の北陸東北北海道などの雪の多い地方の科學農業では、この雪消しの問題が、大切な研究題目の一つとして浮び上って來たのである。

ところが考えてみると、雪消しの問題は、單に東北や北陸、又は北海道だけのことではなく、全日本的な問題なのである。

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