Chapter 1 of 1

Chapter 1

お母さんになつた小鳥が木の上の巣の中で卵をあたためてをりました。するとまた今日も牝牛がその下へやつて來ました。

「小鳥さん、今日は。」と牝牛がいひました。

「まだ卵は孵りませんか。」

「まだ孵りません。」と小鳥は答へていひました。

「あなたの赤ちやんはまだですか。」

「だん/\お腹の中で大きくなつてまゐります。もう十日もしたら生れませう。」と牝牛はいひました。

それから小鳥と牝牛はいつものやうにまだ生れてゐない自分たちの赤ん坊のことで、自慢をしあひました。

「牝牛さん、聞いて下さい。私の可愛いい坊や達はね。きつと美しい瑠璃色をしてゐて、薔薇の花みたいによい匂がしますよ。そして鈴をふるやうなよい聲でちる/\と歌ひますよ。」

「私の坊やはね、蹄が二つに割れてゐて、毛色はぶちで尻つぽもちやんとついてゐて、私を呼ぶときは、もう/\つて可愛い聲で呼びますよ。」

「あら可笑しい。」と小鳥は笑ひをおさへていひました。

「もう/\が可愛い聲ですつて。それに尻つぽなんか餘計なものよ。」

「何を仰有るのですか。」と牝牛も負けずにいひました。

「尻つぽが餘計なものなら、嘴なんかも餘計なものよ。」

こんな風に話をしてゐたら、お終には喧嘩になつてしまひませう。ところが喧嘩にならない前に、一匹の蛙が水の中からぴよんと跳び出して來ました。

「何をそんなに一生けんめいに話していらつしやるのですか。」と緑色の蛙は聞きました。そして、牝牛と小鳥からそのわけを聞くと、蛙は眼をまんまるくして、

「それは大變よ。」といひました。何が大變なのか牝牛と小鳥が心配さうにきくと、蛙はいひました。

「あなた方は赤ちやんがもうぢき生れるといふのに、子守歌を習ひもしないで、そんな暢氣なことを言つていらつしやる。」

牝牛と小鳥は、どうしてこんなにうつかりしてゐたのでせう。早速子守歌を習はなければなりません。ところで誰に習つたものでせう。

「ぢやあ、私が教へてあげます。」と蛙がいひました。牝牛と小鳥は大變喜んで、蛙に子守歌を教へて貰ひました。

けれども、こんなにむづかしい子守歌はありません。とてもむづかしくて牝牛と小鳥はちつとも覺えられませんでした。それはかういふ子守歌でした。

げつ げつ げつ

げろ げろ げつ

ぎやろ ぎやろ

げろ げろ

ぎやろ げろ げつ

牝牛と小鳥は、一生けんめいに習ひましたが、それでも覺えられないのでお終にはいやになつてしまひました。けれど蛙が、「子守歌を知らないでどうして赤ん坊が育てられませう。」といひますので、また元氣を出して、「げつ げつ げつ」と習ふのでした。そしてそれは夕方、風が凉しくなる頃までつづきました。

●図書カード

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