Chapter 1 of 1

Chapter 1

去年の木

新美南吉

いっぽんの木と、いちわの小鳥とはたいへんなかよしでした。小鳥はいちんちその木の枝で歌をうたい、木はいちんちじゅう小鳥の歌をきいていました。

けれど寒い冬がちかづいてきたので、小鳥は木からわかれてゆかねばなりませんでした。

「さよなら。また来年きて、歌をきかせてください。」

と木はいいました。

「え。それまで待っててね。」

と、小鳥はいって、南の方へとんでゆきました。

春がめぐってきました。野や森から、雪がきえていきました。

小鳥は、なかよしの去年の木のところへまたかえっていきました。

ところが、これはどうしたことでしょう。木はそこにありませんでした。根っこだけがのこっていました。

「ここに立ってた木は、どこへいったの。」

と小鳥は根っこにききました。

根っこは、

「きこりが斧でうちたおして、谷のほうへもっていっちゃったよ。」

といいました。

小鳥は谷のほうへとんでいきました。

谷の底には大きな工場があって、木をきる音が、びィんびィん、としていました。

小鳥は工場の門の上にとまって、

「門さん、わたしのなかよしの木は、どうなったか知りませんか。」

とききました。

門は、

「木なら、工場の中でこまかくきりきざまれて、マッチになってあっちの村へ売られていったよ。」

といいました。

小鳥は村のほうへとんでいきました。

ランプのそばに女の子がいました。

そこで小鳥は、

「もしもし、マッチをごぞんじありませんか。」

とききました。

すると女の子は、

「マッチはもえてしまいました。けれどマッチのともした火が、まだこのランプにともっています。」

といいました。

小鳥は、ランプの火をじっとみつめておりました。

それから、去年の歌をうたって火にきかせてやりました。火はゆらゆらとゆらめいて、こころからよろこんでいるようにみえました。

歌をうたってしまうと、小鳥はまたじっとランプの火をみていました。それから、どこかへとんでいってしまいました。

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