Chapter 1 of 4

一 書斎の中のホームズ

ベーカー・ストリートの古びた部屋、そとにはロンドン特有の濃霧がたちこめている。室内には青白い瓦斯ランプがついており、ストーブにはかっかっと石炭が燃えている。書棚にはあらゆる種類の専門書がぎっしりとつまっており、色々な薬品や試験管などと共に陶器や各種の金属でこしらえた世界各国の骨董品が並んでいる。その中には、印度の仏像や、支那の古器や、南洋土人の手工品や、アフリカの食人種の部落からとってきた頭蓋骨などもあるといった具合。

ロンドン中の新聞はもとより、パリやニューヨークの新聞などがとりまぜて部屋中に散乱している。その中に、四十そこそこのがっしりした男が、パイプをくわえて、幾分にがみばしった顔つきをして座っている。そのそばには、主人公と同じくらいの年輩の紳士がすわって、二人で何か語りあっている。

ちょっと見るとこの部屋の主人公は医者のようでもあり、人類学者か考古学者のようでもあり、探険家のようでもある。また肉体だけを見ると、スポーツマンか拳闘手のようにも見える。ところが、これが、だいたい私の想像する、名探偵シャーロック・ホームズのグリンプス〔一見、一瞥〕である。そばにすわっている紳士は言うまでもなく彼の友人であり助手であるワトソンである。

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