Chapter 1 of 6

Chapter 1

丸一日続いた沈黙が破れた。「見えます。ああ見えた。見えてきましたよ」と言った。「冷たい。水だな、これは」と言った。言ったのは超能力者である。日本語だったことに皆驚いた。「流れています」と流暢な日本語で続けた。驚きは声にはならなかったが、次に、ははあ川かと誰かが口走って慌てて別の誰かにふさがれた。近くで、あるいは遠巻きに全部で十一、二名ほどの人々が取り囲んでいた。昨日、「何が見えるんですか。坊やは無事ですか。今どこにいるんでしょうか」と女が思わず声をあらげてしまい、肩をゆすってしまい、この超能力者のやる気を完全に喪失させてしまったのだった。昨日はそのためそこでおひらきとなり、温泉へ連れてゆき、ご機嫌を取らなければならなかった。通訳も雇っており一日のびればその分だけコストがかさむので事務局はやきもきしていたようである。さて今日になり、超能力者は昨日と同じ椅子に座り、皆を遠ざけて、目を閉じた。お香が焚かれて皆をリラックス空間へと導いた。長い沈黙が始まり、すでに触れたがその沈黙が丸一日続いたのである。そしてさっき、見えましたとようやく口を開いたわけだった。それが日本語だったことに皆が驚いたこともまたすでに触れた通りである。人は、何度でも同じことを言うのをもう恐れてはならないのである。市民の尽力によって来日したこの超能力探偵は瞼を伏せたまま手を床すれすれにおろし、かき混ぜるようなゼスチャーをしたのち、軽く振ったのはおそらく水のしずくを払ったのだろうと思われた。次にズボンをまくり、裸足になって、歩き出したのは、川にジャブジャブ入ったことを意味するように思われた。「まさか、息子は川の中に」と、見守っていたうちの一人の男がそう言いかけて倒れ込んだのを別の一人が支えたのである。「橋が見える」とか「人が見える」とかその後も何かと断片的に日本語で告げたけれどもその口から出るのは全国どこにでも当てはまってしまいそうな一般的なものばかりであり、皆を失望させた。もっと決定的な、場所をここだと特定できるような豊かな描写を皆は待った。「いったいどこの川なんですか」と、皆、喉のここのあたりまで出かかっていたのであるが、我慢して言葉を飲み込んだ。

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