Quay lại
イーリアス 03 イーリアス
Table of Contents
イーリアス 03 イーリアス
ホーマー
Reading Settings
Cỡ chữ
18px
Giao diện
Sáng
Tối
Sepia
Bảo vệ mắt
Khoảng cách dòng
Chế độ đọc
Bản dịch Pagera AI
Nguyên bản Public Domain
Chapter 4 of 24

第四歌

オリュンポス山上神々の評議。 天王クロニオーンはアカイア、トロイア兩軍を和せしめんとす。 天妃ヘーレーの怒。 クロニオーンの答、トロイアは天妃の意の儘亡滅せしむべし、然れども同樣に天王は他日天妃の愛する城市をも其意の欲する時は破滅すべしといふ。 天妃の承諾。 天王はアテーネーをトロイア軍に遣はし、先の約定を破らしむ。 使の神女はトロイアの將パンダロスに勸め敵王メネラオスを射て負傷せしむ。 其出血を見てアガメムノーン悲む。 輕傷なることを告げてメネラオス兄を慰む。 軍醫マカオーンの施藥。 アガメムノーンの戰の準備。 陣中を巡り勇者を勵まし、怯者を責む。 諸將の態度。 兩軍の形勢。 混戰の敍述。 アーンチコロスの奮戰。 エレペーノールの死。 ロイコスの死。 オヂュシュウスの怒。 敵王の庶子を討つ。 アカイアの勝利の叫び。 トロイアの困難。 トロイア勢を勵すアポローン。 ヂオーレスの死。 パイロオスの死。 兩軍相互の討死。

こゝにヂュウスを中心に黄金の床に坐を占めて、

群神評議行へる――中に*ヘーベー端麗の

神女かれらにネクタルを捧げれば相つぎて、

金の盃ほしながらトロイア城を眺めやる。

其時直ぐにクロニオーン天妃ヘーレーの胸の中、 5

瞋恚を起すつらき言紆餘曲折に宣んし曰ふ、

2 ヂュウスとヘーレーとの女、宴席に侍するもの。

『二位の女神はアカイアの王メネラオス助くめり、

そは*アルゴスのヘーレーと*アラルコメネーの・アテーネー。

されど二神は遠ざかり、たゞ傍觀を喜べり、

之に反してパリスには、嬌笑好むアプロヂ,テー 10

絶えず伴ひ、運命の非なるを常に拂ひ除け、

今はた最期覺悟せる彼の一命助けたり。

されども正に戰勝はアレースめづるメネラオス。

その終局をいかにせむ、この事われら計らはむ。

更に新たに殘虐の奮戰苦鬪起さんか? 15

或は平和を兩軍の中に今更來さんか?

若し今すべて衆こぞり和議を喜び納るべくば、

プリアモス王領有の都府は豐かに榮え得ん、

又メネラオス、ヘレネーを勝利の家に伴はむ』

8 二神の崇拜は此二都を中心とす。

しか宣すれば向ひ坐し、トロイア軍の禍を 20

計らひ居たるアテーネー、ヘーレー共につぶやきつ、

*アテーナイエー默然と口を閉してもの曰はず、

激しき憤怒身を焚きて父なる神にいきどほる。

されどヘーレー胸中の怒抑へず叫び曰ふ、

22 アテーネー又アテーナイエー。

『あゝ恐るべき*クロニデー、今何事の仰せぞや、 25

わが心勞と流汗を(疲勞の故の流汗を)

君今空しくなさんとや? プリアモス等の一族を

絶やさんためにわが戰馬人間に似て皆疲る、

よし爲さば爲せ、他の諸神斷じて之を讃し得ず』

25 クロニデース(クロノスの子)の呼格。

雷雲寄するクロニオーン怒りて彼に答へ曰ふ、 30

『非道の汝、プリアモス並に其子何程の

害を汝に加へしや? 汝はげしくイリオンの

堅固の都城倒すべく願へる迄に加へしや?

其城門を城壁を崩して汝、生き乍ら

プリアモス王及び子ら、及び其他のトロイアの 35

民を貪り食ふ時、汝の怒癒されむ。

汝の望むまゝに爲せ。この爭は此後に

我と汝の間との難題たること無かれかし。

我また汝に別に曰ふ、汝心に銘じおけ、

我また情願切にして、汝のめづる民族の 40

住まへる都城壞ぶるべく望まん時に、汝わが

怒止むること勿れ、任せよわれに一切を。

わが意に反し行ふを今日は汝に許すべし。

日輪及び天上の諸星の下に人間の

住む一切の都府の中、高き聖なるイ,リオンを、 45

プリアモス王及び其槍術まさる民族を、

我は其他の一切に優りて痛く愛で思ふ。

彼等は我に祭壇を捧げ、供物を怠らず、

神酒犧牲を怠らず、こは神明の受くる禮』。

その時牛王の目を持てるヘーレー答へて彼に曰ふ、 50

『あらゆる都城の中にしてわが最愛のものは三、

*アルゴス及びスパルテー、更に廣街のミケーネー、

君憎惡の的たらば此等すべてをくつがへせ!

よしわれ怒り其破壞禁ぜんとても效あらじ、

怒るも何の效あらじ、君の力はいや優る。 55

されどもわれの辛勞を無效に歸すること勿れ、

われは神なり、其本は正しく君と相同じ、

巧智に富めるクロノスの至上の子とし生れし我、

彼の子にして又君の正配の名を呼ばるれば、

二重に崇し、君は又神明すべてを皆率ゆ。 60

さは當面の此事についておの/\讓るべし、

君は此の身に、身は君に、而して他は皆從はむ。

トロイア、アカイア兩軍の戰場中にアテーネー

今速に遣はして試みしめよ、いかにして

トロイア軍は眞先に盟に背き、戰勝の 65

アカイア軍を破るべく、其開端をいたさんか』。

52 アルゴスは一般にグリース國全部を指す、されどこの行のは一都市の名稱。

しか宣すればクロニオーン人間並びに神の父、

之に從ひアテーネー呼びて直ちに彼に曰ふ、

『今迅速にトロイアとアカイアの軍さして行け、

トロイア軍の眞先に盟にそむき、戰勝の 70

アカイア軍を破るべき其方法を試みよ』

しかく宣んしてアテーネー(素より之を望みたる

神女)を激し勵ませばウーリュンポスの高きより、

彼は飛び降る、譬ふればクロノスの子の降す星、

爛々として海人に、又軍隊に兇兆を 75

なすもの、而して光芒を四方に遠く放つ者、

神アテーネー之に似て大地の上に飛び降り、

二軍の中に現はるる、之を眺めて驚くは

馬術巧みの*トローエス、脛甲堅きアカイオイ。

各之を眺め見て近きに隣る者に曰ふ、 80

『更に新たに殘虐の畏怖の戰起らんか?

或は人間の戰の審判者たるクロニオーン、

トロイア、アカイア兩軍の間に平和來さんか?』

79 トロイア人=トロース、又トローオス其複數はトローエス。

アカイア及びトロイアの各人かくぞ陳じたる、

今トロイアの陣中をあまねく巡るアテーネー、 85

アンテーノールの子ローダコス勇士の姿借り來り、

英武恰も神に似るパンダロスを探し行き、

*リュカーオーンの剛勇の子のたゞずむを見出しぬ。

彼を圍むは盾持てる精悍無比の若き子ら、

アイセーポスの流れより彼に伴ひ來る者、 90

即ち彼に近寄りて羽ある言句述べて曰ふ――

88 II 826.

『リュカーオーンの勇武の子、君今我に聽くべきか?

勁箭飛ばしメネラオス王を射ること能くせずや?

能くせばトロイア全衆の感謝並に賞贊を、

特にもアレクサンドロス・パリスのそれをかち得べし。 95

彼れ眞つ先に莫大の恩賞君に與ふべし。

アートレ,デース、軍神のアレースめづるメネラオス、

君の飛箭に斃されて火葬の堆に登る時。

いざ立て、立ちて光榮の敵王目がけ矢を放て。

さはれアポローンに先づ盟へ、リキエー生れの銀弓の 100

神に初生の子羊のすぐれし牲を捧げんと、

聖なる都ゼレーアに君の歸郷のあかつきに。』

しかく宣んするアテーネー、淺慮の彼は從ひて、

*直ぐに光澤うるはしき弓をとりいづ、其弓は

山羊の角より成れるもの、彼れ其むかし岩窟に 105

埋伏しつゝ飛びいでし獸の胸を貫きて、

地上に仰に倒れしめ頭よりいづる右左、

十六束の長さなる二條の角を得たる時、

良工巧みに其角を合せ整へ滑かに、

磨き終りて黄金の端を上下に附せるもの、 110

其剛弓を張り終へて之を地上にさしおけば、

勇武の友ら其前に盾を並べて押し隱くし、

アレースめづるメネラオス敵の勇將射る前に、

アレースめづるアカイアの健兒の襲なからしむ。

かくして彼れの箭筒より蓋を開きて一條の 115

新たの羽箭――恐るべき苦痛の本を取り出し、

弦上直ちに慘酷の飛行の武器をあてがひつ、

聖なる都ゼレーアにおのが歸郷のあかつきに、

清き初生の子羊の牲捧ぐべく銀弓の

神アポローン――リキエーに生れし神に盟かけ、 120

弦――牛王の筋と共矢筈を取りて引きしぼる、

弦は胸許、鋼鐵の鋭き先は弓端に。

かくて大弓滿月の如くに張りて射放てば、

弓高らかに鳴りひびき弦は叫んで鋼鐵の

鏃するどき勁箭は、衆軍の上翔けり飛ぶ。 125

されど不滅のもろ/\の神は汝を、メネラオス、

忘れず、特にアテーネー、戰利の司ヂュウスの子、

汝の前に身を進め飛箭の害を減ぜしめ、

安らに眠る小兒より蠅を慈愛の母拂ふ

跡見る如く、勇將の身より飛箭をはづれしむ。 130

神女即ち佩帶の金の締金、胸甲の

*二重の上に合ふ處、こゝに勁矢の路を向く。

今慘毒のつらき矢は飛んで帶のへ進み來つ、

其精妙に造られし帶を貫き跳り入り、

同じく共に精妙の胸甲、更に金屬の 135

胴衣を穿つ――、其胴衣矢を防ぐべき身の護り、

至上の護り彼は着る、是をも飛箭貫ぬきて、

今肉體の外の端、皮膚を破れば忽ちに、

黯紅色のすごき血は疵口よりし流れ出づ。

104 レッシングの「ラオコーン」十五章十六章に此一段を評す。132 體の上部を蓋ふ鎧、下部を蓋ふ鎧と合する處。

*メーオニス又*カアイラのとある女性が、染料の 140

赤きを以て純白の象牙の馬具を色どりつ、

こを室内に陳すれば多くの騎士は憧憬の

目を光らせど求め得ず、たゞ帝王の珍寶と

なるのみ、彼れの乘る駒の飾、並に御者の榮――

かくこそ染むれメネラオス、汝流せる紅血は 145

眞白き汝の股と脛、更に下りて足首を。

140 III 401, II 864.140 II 867.

その黯紅の血の流れ疵より出づるを眺め見て、

アガメムノーン、衆の王、愕然としてをののけば、

アレースめづるメネラオス、同じく共に身は震ふ。

されどつゞいて*附け紐と矢じりと共に體外に 150

あるを認めてメネラオス其沈着を取りもどす、

アガメムノーン、然れども、其弟の手を取りて、

僚輩もろとも叫喚の聲もはげしく陳じいふ、

150 鏃を箆に固着せしむる紐なるべし。

『あゝわが弟、トロイアと戰はんため陣頭に

汝を立たせ盟ひしは汝にとりて死なりしよ、 155

トロイア人は神聖の盟を破り、汝射ぬ。

さはれ盟と子羊の血と純粹の*灌奠と

信頼おける握手とは遂に空しきものならず。

よし迅速ならずとも、ウーリュンポスの神靈は

遲くも必らず成し遂げむ、彼等は重く賠はむ、 160

彼等の頭、また妻子すべてを擧げて賠はむ。

此事今我明かにわが胸中に感じ知る、

*聖なるイリオン・プリアモス及び鎗術秀いでたる

かの族擧げて一齊に亡滅の時來るべし。

高き玉座に、天上に宿れるヂュウス・クロニオーン、 165

彼等の不信いきどほり黒暗々のアイギスを

彼等すべてに動かさむ、此事必ず効あらむ。

さはれあゝわがメネラオス、汝亡びて一生の

運命こゝに閉づべくばわれの苦惱はいかばかり、

かくて乾けるアルゴスに責むべき我は歸らんか、 170

直ちにアカイア軍勢は祖先の郷にあこがれん、

プリアモス王、トロイアの誇のまゝにアルゴスの

ヘレネーこゝに殘し行き、汝の骨は地下に朽ち、

成すべき業は成らずしてトロイアの地に葬られ、

かくして無慙のトロイアのあるもの、譽のメネラオス 175

其墳上に飛び上り跳り叫びて斯く曰はむ、

「こゝに空しくアカイアの軍勢率ゐ來し如く、

アガメムノーンの一切の怒の果は斯く成らむ、

見よ善良のメネラオスこゝに殘して、空虚なる

船に乘じてなつかしき故郷に彼は去り行けり」 180

他日あるもの斯く曰はむ。――大地その時*身を掩へ』

157 II 341.163 VI 447 に同樣の豫言ヘクトールの口に述べらる。臨終者の豫言はXVI 851 に。181 その時は予は死を願ふ。

その時金髮メネラオス彼を慰め答へ曰ふ、

『悲しむ勿れ、アカイアの衆を嚇すことなかれ、

鋭き鏃、幸に急所を外づれ、佩帶は

表にわれを防ぎ得つ、下に胸甲また胴衣、 185

銅工巧みにわがために造りたるもの、身を救ふ。』

アガメムノーン・*クレーオーン其時彼に答へ曰ふ、

『しかあれかしと我念ず、あゝ友愛のメネラオス、

さはれ負傷を調べ見て上に良藥貼すべく、

辛き苦痛を救ふべく今一人の醫を呼ばむ』 190

しかく宣んして傳令のタルチュビオスに向ひ曰ふ、

187 「權威あるもの」。

『タルチュビオスよ速かにこゝにマカ,オーン呼び來れ、

アスクレーピヨス――すぐれたる名醫の息を呼び來れ、

來りて彼は檢すべし、アカイア軍の首領たる、

アレースめづるメネラオス、トロイア或はリキエーの 195

軍の弓手に射られたり、彼の光榮わが苦痛』

しか宣んすれば傳令使、命を奉じて誤らず、

銅冑うがつアカイアの軍を横切り、すぐれたる

マカーオーンを探しつゝ、やがて佇立む彼を見る、

彼を圍むは盾持てる健兒一團、トリケーの 200

地より、良馬の産地より彼に從ひ來る者、

即ち傍に近寄りて羽ある言句を陳じ曰ふ、

『馳けよアスクレーピヨスの子、アガメムノーン、君を呼ぶ、

往きて宜く檢すべし、アカイア軍の主領にて

アレースめづるメネラオス、トロイア或はリキエーの 205

軍の弓手に射られたり、彼の光榮、わが苦痛』

しかく陳じて胸中の彼の心を動かしつ、

アカイア族の大軍の列を二人は過ぎて行く。

かくて金髮メネラオス飛箭に打たれ疵つける

地點に着けば、諸の將軍彼を取り圍む、 210

すぐれし軍醫マカ,オーン、妙技は神に似たる者、

眞中に立ちて負傷者の帶より直ぐに其矢拔く。

鋭き其矢拔き去れば鋭き鏃碎け落つ。

光る佩帶やがて解き、つゞいて下の胸甲と、

青銅の具を作りなす工人の手になる胴衣、 215

解き、慘毒の矢の射りし疵をくわしく檢し了へ、

血を吸ひ出し、熟練の醫は妙藥を其上に

貼しぬ、むかしケーローン、彼の父愛でたびしもの。

衆人かくて豪邁の將メネラオスいたはれる、

其時かなたトロイアの盾持つ軍勢寄せ來る、 220

アカイア同じく戰鬪を思ひ再び武具を帶ぶ。

そこに見るべし英邁のアガメムノーン怠らず、

畏れず、荒ぶ戰鬪に對し避易敢てせず、

光榮得べき奮戰をめがけ激しく苛つを。

戰馬並びに青銅のいみじき戰車彼は棄つ、 225

ペーライオスの孫にしてプトレマイオス生める息、

ユウリュメドーンは扈從して、喘ぐ双馬を傍らに

駐むれば王は命下し、傍離れず近く立ち、

諸隊經り指揮の果、疲勞の折に備へしむ。

かくして歩足に諸の部隊を王は巡り行き、 230

駿馬を御するアカイオイ勇みはやるを望む時、

其傍に近寄りて痛く勵まし宣んし曰ふ――

『アルゴスの子ら、勇しき英氣弛むること勿れ、

天父ヂュウスは虚僞の子を絶えて援くることあらず、

眞先に盟破り棄て暴を行ふ不義の者、 235

鷙鳥彼らの柔かき肉喰ふべし、其愛づる

妻女並びにいとけなき子らは我らの兵船に

運び去るべし、イーリオン陷落なさん曉に』

之に反して戰鬪にためらふ者を望む時、

憤怒の言に激しくもアガメムノーン責めて曰ふ、 240

『あゝ、汝らアルゴスの怯れたるもの恥ぢざるや?

いかなれば斯く茫然と鹿の子の如佇立むや?

廣き大野を翔け走り疲るる時に立ち停り、

勇氣は絶えて胸中に湧かざる子鹿見る如し、

汝ら斯くも茫然と立ちて戰鬪に加はらず。 245

クロニーオーン手を延して救ふや否や見んが爲め、

白浪寄する海の岸、我が兵船を曳き上げし

ほとりに近くトロイアの軍近くを待たんとや?』

諸軍諸隊に命令を傳へて斯くて巡り行き、

クレーテー人豪勇のイドメニユウスを取り圍み、 250

軍裝しつゝある處、諸隊を經つつ王は訪ふ。

イドメニユウスは先頭の中に猛き猪見る如し、

メーリオネース彼のため後陣を勵まし進ましむ。

アガメムノーン、衆の王、これを眺めて喜びて、

甘美恰も蜜に似る言に直ちに讃し曰ふ、 255

『駿馬を御するダナオイのすべてに優り君をわれ、

イドメニュウスよ尊べり、戰場並びに他の役に、

又宴席に尊べり、アルゴス軍の諸頭領、

その盃中に宿老の酌むべき美酒を混ずる時、

他の髮長きアカイアの族は酌むべき分量に 260

限りあれども只君と、我と等しく充ち溢る

盃つねに前にあり、心の儘に酌み得べし、

いざ戰鬪に奮ひ立て、先に高言せし如く』

クレーテー族率ゐたるイドメニュウスは答へ曰ふ、

『アートレ,デーよ其むかし約し盟ひし時の如、 265

君に對してとこしへに我忠誠の友たらむ。

他の長髮のアカイア族、さはれ勵ませ迅速に

鬪はんため――盟約を踏みにじりしはトロウエス、

彼を未來に待つものは死と荒廢の二つ也。

彼は眞先に約破り我に禍害を加へたり』 270

しか陳ずれば喜びてアートレ,デース過ぎ去りつ、

次ぎに隊伍を經りてアイア,スの許訪ひ來る、

アイア,ス二人、鎧ほひて歩兵の群は雲に似る。

山羊を牧ふ者、展望の高き場より海のうへ、

*ゼピュロス吹きて驅り來る飛揚の雲を望む時、 275

漫々として限りなき潮を下に瀝青の

色を深めて寄する雲すごき颶風を誘ふ時、

牧人震ひ慄きて洞窟のもと群を驅る、――

其雲に似て勇猛の二人アイア,ス取り圍み、

ヂュウスの系の少壯の密集の隊物凄く、 280

盾と鎗とを振りかざし戰場さしてゆるぎいづ。

275 西風。

アガメムノーン、權勢の王は眺めて喜びて、

彼らに向ひ口開き羽ある飛揚の言を曰ふ――

『青銅鎧ふアカイアの衆を率ゐる*アイアンテ、

君に指令の要を見ず(君を鼓舞する不可なれば) 285

君は衆人勵まして戰鬪はげしく勉めしむ。

あゝわが天父クロニオーン、又アテーネー・アポローン、

斯くある心意一切の人の胸中存し得ば!

プリアモス王統ぶる都府今迅速に陷らむ、

わが軍勢の手よりして劫掠受けむ荒されむ』。 290

284 呼格。

しかく宣んして其場に彼らと別れ他に進む。

次に見たるはネストール、ピュロスの首領、朗々の

聲を放ちて戰鬪に軍を整へ進ましむ。

かたへに立つはペラゴーン、アラストール、クロミオス、

王ハイモーン更にまたビアス、諸民の主たるもの、 295

戰馬兵車を備へたる騎兵まさきに進ましめ、

後陣は勇氣凛々のあまたの歩兵、戰ひの

防壁として守らしめ、劣れるものを中央に

据えて斯くして好まずもやむなく戰鬪勉めしむ。

彼は眞先に命令を騎兵に下し警めて 300

軍馬を制し、隊列の中に亂入なからしむ、

『誰しも馬術と勇氣とに信頼なして他の前に

ひとりトロイア軍勢と戰ふことを求むるな、

又何人も退くな、しかせば汝弱からむ。

さはれ誰しも戰車より敵のそれへと移るもの、 305

槍を揮ひて衝き進め、此事遙かに優るべし。

正に等しくいにしへの勇者は彼の胸中に

かかる思と心とを具して都城を破りにき』

戰術永く善く知れば老將かくは勵ましぬ、

之を眺めて喜べるアガメムノーン、權勢の 310

王は即ち彼に向き羽ある飛揚の言をいふ、

『老將軍よ願くは君の心の望むまま、

雙脚君にしなやかに、勇力君に強かれよ、

しか念ずれど老齡は他における如君を打つ、

あゝ他の誰か代り得て、君少壯の勇ならば!』 315

ゲレーニャ騎將ネストール即ち答へて彼に曰ふ、

『アートレ,デーよ我も亦切に望めり、その昔

*エリユウタリオーン斃したる其日の如くあれかしと。

さはれ*諸神は人間にすべてを同時與へ得ず、

ああ少壯の身は昔、――今は老齡身を襲ふ、 320

さはれ我尚ほ騎兵らの列に加はり、忠言と

*論辯を以て令すべし、これ老齡の分たらむ。

その年齡の若きよりわれに優りて武具を取り

その精力にたよるもの宜しく鎗を揮ふべし』

318 VII 133 以下。319 XIII 729. XVIII 328.322 II 53.

其言聞きて喜びてアートレ,デース過ぎ去りつ、 325

ペテオースの子、強き騎士メネスチュウスの立つを見る。

彼を圍むはアカイアの鯨波の叫び高き群、

其傍に近く立つ聰明智謀のオヂュシュウス。

ケプァレー人の剛強の群、將軍を圍み立つ、

彼らは未だ衆軍の擧ぐる鯨波の音聞かず、 330

戰馬を御するトロイアとアカイアの軍もろともに

今辛うじて起ち上がる其形勢を見る彼ら、

アカイア軍の他の部隊トロイア軍を敵として

奮ひ進みて戰鬪を初むるを待ち佇立めり。

アガメムノーン、衆の王、之を眺めて叱り責め、335

即ち彼に打向ひ羽ある飛揚の言を曰ふ、

『ペテオースの子、あゝ汝ヂュウスの系の王の子よ、

あゝ又汝策謀に富みて僞多き者、

汝らなどて離れ立ち、怖れ慄ひて他を待つや?

先鋒中に身を措けば汝ら宜しく身を起し、 340

奮戰苦鬪のたゞ中に勇みて進むべからずや!

アカイアの人、宿老のために酒宴を開く時、

其宴席にいや先きに汝二人を余は招く、

そこに汝等燔肉の美味を口にし、蜜に似る

甘き芳醇酌み干して、欲する儘につねに飽く。 345

さるを汝に先んじてアカイア軍の十部隊

劔戟取りて戰ふを汝等空しく眺むるや?』

智謀に富めるオヂュシュウス目を怒らして彼に曰ふ――

『アートレ,デーよ何らの語、君の齒端を洩れ出づる?

我れ戰鬪を棄つるとや? 軍馬を御するトロイアの 350

衆に對して*アレースをアカイア人の醒ます時、

欲せば或は念頭に置かば君また眺むべし、

テーレマ,コスの父は善く軍馬を御するトロイアの

先鋒めがけ鬪はむ、空し君の語、風に似て』

351 アレース(軍神)を醒ますとは戰をなすこと。

アガメムノーン・クレーオーン彼の怒を認め知り、 355

先きの言句を打消して笑を含みて彼に曰ふ――

『ラーエルチアデー、神の裔、智謀に富めるオヂュシュウス、

我は過分に君責めず、過分に君に指令せず。

君胸中に明策を蓄ふことを我は知る、

君の心に思ふこと我も同じく亦思ふ。 360

いでや此事此後にわれら善くせむ、若し辛き

言句わが口洩るとせば――神明すべてを打ち消さむ』

しかく宣んしてその場に彼らと別れ他に進み、

チュウデュウスの子、剛勇のヂオメーデース、堅牢に

組まれ戰馬に曳かれたる兵車の上に立つを見る、 365

其傍に立てるものカパニユウスの子ステネロス。

アガメムノーン・クレーオーン彼等を眺め叱り責め、

羽ある飛揚の言放ち彼に向ひて宣んし曰ふ、

『軍馬を御する豪勇のチュウヂュウスの子ああなんぢ、

何故恐れ慄くや、戰場眺め怖るゝや? 370

汝の父は畏怖知らず、常に親しき同僚に

先んじ進み戰鬪を敵に挑むを喜べり、

その戰場に勤むるを眺めしものの曰ふ如し。

我は彼見ず彼知らず彼の優秀人は説く。

彼その昔客としてミュケーネーの地往きて訪ひ、 375

ポリュネーケースもろともに從軍の徒を呼び集め、

(二人その時*テーベーの聖なる都市と戰へり)

すぐれし援軍與ふべく彼らに切に乞ひ求む、

ミュケーネー人諾ひて彼等の請を贊せしも、

ヂュウスは之をひるがへし、不吉の兆を現はしぬ。 380

二人は斯くて辭してたち行路進めてアソーポス、

高き蘆荻と青草の繁れる郷にたどり來ぬ。

そこにアカイア衆民の令を奉して使者となる

彼チューヂュウス、カドモスの多くの子らの飮宴を

エテオクレース勇將の居館の中に認め得つ、385

馬術巧みのチューヂュウス彼たゞ一人客として、

カドモス族の數多き最中にありておののかず、

彼等に競技挑みつゝ、容易に彼等一切に

勝を制せり、アテーネー神女の助けかしこかり。

カドモス族は憤懣にたへず、其歸路伺ひて、 390

五十の少壯誘ひ來て密に埋伏の陣を布く。

其五十人率ゐるは二人の勇士、其一は

ハイモニデース・マイオーン、不滅の神に似たる者、

アウトポノスを父とするポリュポンテースまた強し、

されども之に打勝ちて無慘の運に終らしめ、 395

神の示驗をかしこみて只マイオーン一人を

許して國に歸らしめ他を一齊に打ち取りぬ、

アイトーリオス、チュウヂュウスかかりき、生める彼の子は

武勇は父に劣れども辨論の上彼に勝つ』

377 即ち七門を有する城市 408.

しか宣んすれど豪勇のヂオメーデース物曰はず、 400

高き王者の叱責を默然として惶みぬ、

されど名譽のカパニュウス産める*子答へて王に曰ふ、――

『アートレ,デーよ僞りそ、事明かに知り乍ら。

父に遙かに優れりとわれら自ら誇り曰ふ、

諸神の示驗かしこみて、ヂュウスの助け蒙りて、 405

ただ少數の軍勢をアレースの壁潜らせて、

*城門七つ備へたるテーベーの都市取りし我。

しかして敵は愚かにも氣の錯亂に亡び去る、

されば同じき光榮にわれと*父とを置く勿れ』

402 ステネロス。407 十年後再び攻めてテーベーを取る。409 父に優ると自讃す。東洋的ならず。

しかいふ彼を豪勇のヂオメーデース睨め曰ふ、 410

『叟よ默して坐に返り我の言句を受け容れよ、

脛甲堅きアカイアの軍、戰場に驅り立つる

アガメムノーン總帥をわれ豈に敢て咎めんや?

アカイア軍勢打ち勝ちて聖地イリオン陷いれ、

トロイア軍を亡さば光榮彼の身にあらむ、 415

アカイア軍勢敗れなば大哀彼の身にあらむ。

そはともかくも我れ二人身の豪勇を省みむ』

しかく宣んして兵車より大地の上に飛び降る、

其將軍の穿ちなす青銅の武具鳴りひゞき、

倔強の勇士なほ聞きて其心肝を冷やすべし。 420

譬へば海の潮流の鞳として岸の上、

西吹く風に驅られ來て波また波と碎け散り、

始めは沖に高まりてやがて大地に打ちつけつ、

怒號はげしく更に又岬のめぐり、波がしら

立てて泡沫飛ぶ如し――正に其樣見る如く、 425

ダナオイ族の軍團は隊また隊と休みなく、

つゞいて戰場さして行き、諸將おの/\令下し、

*兵は無言に進み行く、かかる多數の軍勢の

胸裏に聲の有り無しを人の疑ふばかりにも、

默然として肅々と進む衆軍、身に穿つ 430

種々の武裝は燦爛とあたりに映じかゞやけり。

之に反してトロイアの軍は豐かの村人の

獸欄の中、數知れぬ牝羊――乳を搾られて、

立つ時兒らの聲を聞き、絶えずも叫び鳴く如し。

斯くトロイアの大軍の中に叫喚湧き亂る、 435

衆の叫びは一ならず、又唯一の聲ならず、

種々の言語は相混じ種々の人種は相交る。

アレースかなた勵ませば更にこなたを勵ますは

藍光の目のアテーネー、『畏怖』と『恐懼』と入りまじる。

渇のはげしき『不和』も起つ、そは人殺すアレースの 440

姉妹又友、*そのはじめ小さく育てど天上に

今は頭を支へしめ、脚は大地を踏みて立つ。

彼また群衆横切りて爭あまねく其中に

投じ亂して衆人の呻吟苦叫起らしむ。

彼ら斯くして一齊に進みて、とある地に着けば、 445

獸皮の盾は相拍ちて、長槍及び青銅を

鎧ふ勇士の猛勇と*飾鋲ある大楯と、

互に當り相拍ちて轟々の音湧き起り、

撃たるる者と撃つ者の歡呼或は叫喚の、

音一齊に喧びしく紅血地上を流れ行く。 450

白雪融けて量増せる二條の流れ山降り、

怒號の水をもろともにその源泉の高きより、

深く凹める峽谷に合流なして注ぐ時、

離れて遠き山上に牧童その音聞く如く、

混じ戰ふ軍勢の中より音と畏怖と湧く。 455

428 III 8 に同樣の敍述あり。441 不和は小なる原因に生じ大なる結果を來たす。447 盾の外面の中央に隆起す。

タリシュオスの子エケポ,ロス、トロイア軍の先陣の

中にすぐれし勇將を、アーンチロコス先づ斃す、

馬尾の冠毛振りかざす甲の天邊打碎き、

鋭刄凄く骨に入り、其額上を貫けば

一命亡び死の暗は忽ち彼の目を蔽ひ、 460

亂軍中にどうと伏し塔の倒るる見る如し。

その倒るるを脚取りて*エレペーノール曳き來る、

カルコウドーンの生める息、*アバンテースの族の長、

亂箭中より引き出し其軍裝を迅速に

剥ぎ取るべくと望みたる其勞遂に空しかり、 465

屍體を曳ける彼を見て敵の勇將*アゲノール、

槍を飛ばして盾の側かがめる彼の脇腹の

隙を覗ひて打當てつ、*手足の力弛ましむ。

斯くして去れる彼の魂――彼をりてトロイアと、

アカイア二軍、猛烈の技を演じて群狼の 470

如く、人々飛びかかり人々互に相撃てり。

462 II 540.463 II 542.466 アンテーノールの子、XII 93, XIV 425, XV 340, XXI 595.468 死すること。

かなたアイア,ス、テラモーンの子は花やかの若き武者

アンテミオーンの若き息、シモエーシオス打ち取りぬ、

イデーの嶺を降り來し其母むかし、兩親に

附きて羊群守るべく、來りし時にシモエース、 475

流のほとり彼を生み、シモエーシオスと名を呼びぬ、

慈親に受けし養育の恩を酬ゆる遑なく、

命薄うしてアイア,スの槍に斃され亡び去る。

其前方に進み行く彼を、胸のへ右側の

乳房に添ふてアイア,スの鋭槍酷く刺し通し、 480

青銅肩を貫けば大地に斃れ塵に伏す。

譬へば廣き沼澤の地に白楊の生え出でゝ、

幹滑かに、頂きに近く枝葉のしげるもの、

車匠は之を耀ける斧を揮ひて切り倒し、

造る華麗の車駕のため曲げて輪縁となさんとし、 485

乾燥のため川流の岸に晒しておく如し。

斯くの如くに英豪のアイア,スの手に斃さるる

シモエーシオス塵に伏す、其アイアース目ざしつつ、

プリアミデース・*アンチポス群集中に槍飛ばす、

覘は外れてオヂュシュウス率ゐたる伴リュウコスを、 490

屍曳きずるままに打つ、鼠蹊のほとり丁と射て。

リュウコスかくて倒れ伏し屍は彼の手より落つ。

其殺されし伴のため忿然としてオヂュシュウス、

光る冑に身を固め先鋒中に進み出で、

敵に近づき立ち停り、あたり見し、燦爛の 495

投槍飛ばす――かくと見てトロイア軍はあとしざる。

槍は空しく飛ばざりき、デーモコオーン――アビドスの

駿馬産するほとりより呼ばれ來りし一勇士、

プリアモス王うみなせる庶子を鋭刄うちとめぬ。

伴の死滅をいきどほり、槍もて彼の顳を 500

うつ豪雄のオヂュシュウス、其青銅の槍凄く、

穗先かなたに貫ぬけば暗黒かれの目を蔽ひ、

倒るる時に地はひゞき介胃彼の上に鳴る。

先鋒並びにヘクトール斯くて後陣に退けば、

雄叫びすごきアカイアの衆は屍體を曳きずりて 505

なほ奮進を續け行く――之を怒れるアポローン、

ぺルガモスより見おろしてトロイア軍に叫び曰ふ、

489 プリアモスとヘカベーとの子後アガメムノーンに殺さる。(XI 104)

『駿馬を御するトロイアの汝ら奮へ、アカイアの

軍に敗る勿、彼らの身岩石ならず、鐵ならず、

肉を劈ざく鋭刄に打たれて堪うるものならず、 510

髮美はしきテチスの子、ペーレーデース戰を

休み、水師の中にして其憤悶を養へり』

かく城壁の高きより怒に燃ゆるアポローン、

こなたアカイア軍勢の弱り見る時、群衆の

間をり勵ますは*トリートゲネーア・アテーネー。 515

515 トリートニス湖上に生る。

アマリンケース生みなせるヂオーレスいま命つきぬ。

鋭き石は踝のほとり右脛を猛に*打つ、

イムブラソスの子、ペーロオス、*トレーケースの族の長、

アイノスよりし來るもの尖る石もて彼を打つ、

無慘の石に筋二條並びに骨を碎かれし 520

彼は斃れて塵に伏し、天を仰ぎて双の手を

其僚友にさしのべつ、最後の息を引き取れば、

馳せ近きてペーロオス、槍とり直し、しかばねの

腹部のもなか突通す、無慘や臟腑悉く

溢れ地上にひろがりて暗黒彼の目を閉ざす。 525

其ペーロオスを更に又アイトーロスの將*トアス

槍を飛ばして打ちたほし、鋭刄肺を貫ぬけり、

トアスつゞきて近寄りて、倒れし敵の胸部より

其大槍を拔き取りつ、更に鋭利の劒をとり、

彼の腹部の中央を切りて生命奪ひ去る。 530

されど甲冑剥ぐを得ず。髮を結べるトレー,ケス

族の同僚長槍を手中に取りて圍み立ち、

身の丈高く勇猛の著名の敵を追ひ拂ふ、

爭ひかねて悄然とトアスうしろに引き返す。

かくて二將は並び伏す、エペーオイ族青銅を 535

鎧へる者と其敵のトレーケースの族の長。

之をめぐりて數多く他も亦共に亡び去る。

幸にして青銅に射られず絶えて創受けず、

戰場中を巡る者――アトリトーネー・アテーネー

其手を取りて導きて猛き飛刄を外らしむる―― 540

かくある者は陣中にありて戰鬪恨むまじ。

*此日トロイア、アカイアの衆勢ともに相並び

ともに地上に斃されて等しく塵の中に伏す。

517 II 622.518 II 844.526 II 638.542 最後の二行全く衍文。

Chapter 4 of 24
|