Chapter 1 of 7

「求縁――インデアナ州ラ・ポウト郡の風光明媚なる地域に、収穫多き農園を経営する美貌の寡婦、最も便宜なる近き将来において財産と人生を併合する意思の下に、相当以上の資財ある紳士との御交際を求む。文書の御照会は自由なるも、時日を約して自身御来談の誠意あるに非ざれば、当方も真剣に考慮する能わず――姓名在社」

個人欄の広告である。

読み終ったフレデリック・コウツは、銜えていた煙管をとって、ぷうと煙りを吹いた。

インデアナの北隣り、オハイオ州トレド市のコウツの家だ。新聞は、同市で最高の発行部数を有するトレド「通信蜂」紙で、毎夕のようにコウツは、晩食後自分の居間に引き篭って最終版の新聞に眼を通しているのだが、その、求職、求人、売家、貸間などの細字がごたごた並んでいる個人広告面にはついぞ注意を払ったこともないのに、何うした訳か、今夜に限って、ふとこの「求縁」の文字が彼の視線を捉えたのだ。

考えてみると、以前にも二、三度、同じ紙上で、これとおなじ広告を見たような気もするのである。

いやに開き直ったような、固苦しい文句――特徴のある調子だ。

インデアナ州なら、このオハイオからほんの一足南に下ったところ。そこのラ・ポウト郡の景色の好い土地に、可成り金になる農場を有っている美しい未亡人がある――コウツは、何時の間にか無意識に、一生懸命その広告文を読み返している。「最も便宜なる近き将来において財産と人生を併合する意思の下に」――「財産と人生を併合する意思」――コウツは首を捻った――「財産と人生を併合する?」

人生を併合する――と呟いて、コウツはにっこりした――何だ、鳥渡気取った言い廻しだが、求縁とある通り、要するに結婚のことじゃないか。そしてこの美しい未亡人の相手は、単なる人生のほかに財産をも併合し得る、「相当以上の資財ある紳士」でなければならないとある。先方に金があるのだから、空手で入り込むというのは少し虫が好過ぎる。ここは矢張り、資格として、お婿さんのほうからも幾らかの持参金があって然る可きところだろう。成程。いや、尤もな条件だ――コウツは頻りに合点いて、新聞を片手に、深い思案と安楽椅子の底へ、一緒に沈み込む。

手紙で聞き合わせて、何れ日が決まると、こっちから出掛けて行って会う段取りになる。この広告主が余程慎重な態度を採っていることは、「――自身御来談の誠意あるに非ざれば、当方も真剣に考慮する能わず」と明言しているのでも、其の他、全文面の遠まわしな警戒的な表現でも窺われるのである。求縁とはあるものの、不注意に読過したのでは一寸何のことか判らないほど、気を付けて物を言っているのだ。金のある美しい未亡人が、広く再婚の相手を物色するのだから、全くこれは危険な事業だといっていい。そんなところへ転がりこんで遊んで暮そうと、そういう口を狙っている男は世の中にごろごろしている。要心に要心を重ねないと、自ら狼に門戸を開いて喰われて終うようなことになる。これだけの広告でも、さぞ考え抜いた末だろう。無理もない。その真面目な意図は十二分に察しられるし、それと同時に、善い相手がありさえすれば結婚を急いでいることも、想像に難くないのだ。

コウツは、もう一度パイプのけむりを天井へ吹き上げて、一層「真剣に考慮」し出した。

フレデリック・コウツ――四十一歳。窓掛け及び絨毯類の仲買いみたいなことをしている。謂わば小市民的成功者で、トレド市商業会議所の役員などもやったことがあり、一部の商人階級には先ず売れている顔だが、稼業のために若い日のすべてを犠牲にして来たとでもいうのかこの年齢になるまで独身の、まあ、ちょっと偏屈なところのある人物。

うつくしい未亡人と財産を持寄って、空の蒼いインデアナの田舎で田園生活をする――近頃めっきり生活の疲れを感じ出した中年男にとって、これは絶大な魅惑だったに相違ない。姉が一人あるので、それとも相談してコウツは広告に応じてみた。手紙を出すと、一週間程して日日を指定して来たから、後のことは一時姉に任せて、フレデリック・コウツは年甲斐もなく処女のように胸をときめかせながらいそいそとインデアナへの旅に上る。

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