Chapter 1
今宵電車は進行を止め、バスは傾いたまゝ動かうともせぬ沿道の両側は雪崩れうつ群衆、提灯と小旗は濤のように蜒り歓呼の声が怒濤のように跳ね返るなかをおれたちは次々にアーチを潜り、舗道を踏んでいま駅前の広場に急ぐ
おゝ、不思議ではないかかくも万歳の声がおれたちを包みおれたちの旅がかくも民衆の怒雷の歓呼に送られるとは!
春の街は人いきれにむれ返り銃を持つ手に熱気さへ伝はる火の海のやうな市街を見詰めながら、おれはふと思ふおれたちこそ苦闘する中国の兄弟に送られた××(1)の×(2)軍国境を越えて共に暴圧の鎖を断ち切る自由の戦士!いま丘を越え海を越えて武器を携え急×(3)に赴くおれたちではないかと
けたゝましく響く喇叭の音におれはふと我に返る (……蒋介石ごときは問題ではない (わが敵はただ第十九路軍……砂風の吹き荒れる営庭で、拳を固めて怒鳴った肥っちょ聯隊長の姿が、烈しい憎悪と共にまざ/\と眼の前に浮ぶおゝ第十九路軍屈辱と飢餓の南京政府を蹴飛ばして下からの兵士の力で作り上げた×(4)衛軍狼狽する蒋介石を尻目にかけ、敢然と××(5)政府に戦ひを宣した英雄的な中国のプロレタリアートと貧農の決死隊きみらの隊列の進むところ××××(6)の××(7)は惨敗し土豪・劣紳・買弁が影を潜めたよし!×(8)仏英米の強盗ともが、君たちに陣地を棄てよとジュネーヴから命じようとよし!妥協した帝国主義者共の大軍が君たちに襲ひ掛からうと君たち第十九路軍の背後には中国ソヴェート政府が厳存し君たちの前には全世界の同志の差し出す無数の腕がある
歩廊に整列しスナップを踏んでおれたちは乗車するおれの頭を掠めるは残された同志あの路地の屋根裏でKは今夜もガリ版を切りDは円い眼鏡の奥から、人なつこい笑いを覗かせながらビラを刷りTは膝の上に「無新」を載せ、黙りこくって糊を煮てゐるだらうおゝ――それともきみらは今宵群衆の中に潜り込み栗鼠のようにすばしこく、人人の手から手へ反×(9)のビラを渡してゐるのか
欺かれた民衆よ粧われた感激よ祝福された兵士たちの何と顔色の蒼いことか万歳の声に顔をそむけて眼鏡を曇らすおまへ白布にくるんだ銃を杖に突いてぢっと考へ込むおまへとってつけたやうな哄笑で話題を女の話に外らせようとするおまへそして恐らくは彼方の車の中で、ごった返す荷物に腰を下ろし馬の首を抱いて泣き濡れてゐるであらうおまへ枯れた田地と失業に脅える工場を後に残して一枚の召集状でむりやりに×××(10)行かれるおまへらにとって、顔色の蒼いのは無理ではない―――だが今宵おれの胸は嬉しさに膨らみ心臓は喜びにどきんどきんと鼓動をうつおれの喜びは、生れて始めてすばらしい武器を手にしたプロレタリアートの喜びだ!おれの嬉しさは戦場といふ大仕掛けの職場の中で兵士の不平を××(11)させる導火線軍隊×××(12)となった嬉しさだ!
鎖が鳴り汽笛の音が早春の夜空に消える風は駅頭の歌声を消して行き街の灯は次第にかすかになるゆくてに明滅する赤いシグナルを見詰めながらおれは心に誓ふ!
けふたった今からさりげない調子で兵卒のひとりひとりに話し掛け××(13)を覆う神聖なヴェールを引っぺがし中国ソヴェート建設の×(14)のものがたりをきみらの胸に沁み込ませ
やがて怒濤を蹴って港を離れる船の中できみらの不平の先頭に立ち
明日上海の塹壕で××(15)委員会の旗幟をたかく掲げ士官らを壁に×(16)たせ全東洋被圧迫大衆の春の歌を高らかにうたふ、揚子江の河べりに十九路軍の兵士と××××(17)……おゝ、おれは×(18)衛軍の一兵卒!
明後日幸におれが(よし、おれが××(19)士官の銃先に斃れようとその時はおれの屍を踏み越えて更にすぐれた、更に多くの同志たちが)×(20)旗を立て大衆の心からの歓呼を浴びてなつかしい故郷へ帰るとき残された同志らよ苦闘にやつれた君たちが×(21)旗を振って万歳を唱へるときおゝその時こそ共に歌はうぞ××××××××××(22)建設の歌を!
―一九三二・四―「赤い銃火」詩・パンフレット第一輯
(1)革命 (2)援 (3)援 (4)赤 (5)日本 (6)帝国主義 (7)軍隊 (8)日 (9)戦
(10)つれて (11)爆発 (12)内細胞 (13)軍隊 (14)党 (15)兵士 (16)立 (17)手を握り (18)赤 (19)帝国 (20)赤 (21)赤 (22)日本ソヴェート共和国
●図書カード