Chapter 1 of 5

1 中野重治

「ここは穴だ黒くて臭い」これは中野重治の生涯のスローガンだった彼は帝国ホテルのまん中で立停り鼻をいじりながらこう呟いたそれから機関車の後姿を見送ってうや/\しく敬礼しながらだがこの偉大な「大男」の煤臭いにおいにへきえきしてまたこう呟いた列車が雨のふる品川駅につくと彼は前衛の乗客を見送りながら大きく息をついて「さようなら」と言った中野はいつも「さようなら」と言いたがる

だが中野は党員である彼は投獄されると、はじめていつでも「いよいよ今日から」だとゆうそして多かれ少なかれがんばらない彼のグループの中で彼は最後までがんばることで有名である

中野は牢獄であらためてハイネを読みハイネはやはり自分よりまづいなと思うだが中野がハイネに対する長所と短所は彼が彼の美くしい同志である妻に対してハイネのような恋愛詩集を恐らく一生かかっても書けない所にある彼は酒をのみさながら党員であるかのように党員をサボタージュしているそしておっかなびっくり彼の妻に接吻しながら「おれは今夜お前の寝息をきいてやる」とゆう

Chapter 1 of 5