Chapter 1 of 5

「来た来た!」

「やあ、来たぞ来たぞ!」

「汽車だ汽車だ!」

「みんな用意をしろツ! この汽車には張作霖が乗つてるんだぞツ!」

子供たちは線路の中に躍り上りました。気の早い子はもう尻をまくり上げ、はだしになつて、その草履をふところや、脊中の帯の下にねぢ込みました。

「さあ気を落ちつけて、そして大急ぎにバクダンを埋めるんだ! いゝか? 大急ぎにやるんだ! すんだら早く飛び出せ!」

大将の吉はレールに飛び上つて命令しました。小さい大勢の子供たちは尻を突つ立つて、大騒ぎしながらレールの下に団栗を埋めにかゝりました。

まつ直ぐな一本道の線路です。草の茂つた原つぱのまん中です。線路の一方の端は賑やかな霞んだ町に続き、一方の端は青々と茂つた杉林の中に入つて消えてゐます。

汽車は町の方からだん/\近づいて来ます。初めは鉛筆の尖で突いたほどの黒い点でしたが、だん/\大きくなつて豆粒ほどになり、甲虫ほどになり、それから急にムクムクツと尨犬のやうに大きくなつて、目も鼻も短い足までも見えるやうに近づいて来ました。

みんなはバタ/\ツと線路の外へ飛び出して行きました。そして土堤に平れ伏しました。けれど大将の吉はまだ一人線路に残つてゐました。

吉は張作霖よりもその汽車といふ奴が気にくはぬのでした。そいつはいつも子供を馬鹿にして、「こゝは俺さまの道だ、どけ/\!」と云つた風に、とても威張つて、畜生のやうに鼻息荒く、ピヨン/\跳ね上つて、脊中をゆすつて突進して来るからです。

「よし、今日はきつと止めてやる!」

吉は一間ばかり汽車の来る方へ駈け出して行きました。そして汽車に向つて目を見張り頻りに十文字を切り結びました。そして「うウん!」と一つ唸りかけました。

だがその忍術は駄目でした。汽笛がピイツと一つ鳴響いた時、小さい忍術使は吹き飛ばされたやうに線路を飛び出し、みんなと同じやうに土堤の芝生にしがみついてゐました。

汽車は地響を立てながら、鼻先を地面にすりつけるやうにしてドカドカツと近づいて来それから脊中をくねらし尻をふり/\大威張りに杉林の方へ過ぎて行きます。

「逃がしたか張作霖!」

「みんな不発弾だあ!」

ワツと土堤の上に子供たちは躍り上りました。秋の陽はキンキラと照つてゐます。

「えゝい、かくなる上は是非におよばず。ものどもつゞけえ!」

吉は右手を高く差上げて叫ぶと、先頭に立つて線路堤をまつ直ぐに杉林の方へ駈け出しました。みんなその後につゞきました。

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