Chapter 1 of 21
第一場
(舎衛城郊外の池、呪術師の娘水を汲みに来り、水甕を水に浸せし儘、景色に見入りて居る。)娘 ――(独白)光は木々の葉に戯れ、花は風に揺られて居る。大地と空とが見交す瞳の情熱の豊さ、美しくも妬ましき自然――おお私にも心を迎えて呉れる清らかな胸が無いものか。(阿難、鉢を持って行乞の戻りの姿、池を見て娘の傍に近づく。)阿難 ――女人よ。水を一杯供養して下さい。娘 ――(急ぎ木蔭に身を隠す。)尊きみ僧に水を差し上ぐるは容易い御用で御座ります。(しばらく躊躇して)が、わたくしはあなた様方にとって、けがれた職業の者の娘で御座います。阿難 ――何の御職業か存ぜぬが私達は人に高下をつけません。ましてや世の営みの職業なら、何なりとも尊い事に存じて居ります。娘 ――でも……。阿難 ――それほど御遠慮なさるなら、では斯うなさって下さい。私も仏の御弟子という資格を捨てて水を頂戴致しますから、あなたもお職業の娘という資格を捨てて水を振舞って下さい。そうすれば、けがれる、けがれぬの心配もありませぬ。唯渇いた人間に、同情ある人間が水を与える。――之こそ本当の布施の道に適った行で御座いましょう。娘 ――有難う御座います、では差し上げさして頂きます。(娘、わななく手で水甕を差出す。阿難、飲み終り礼して去る。娘、いつまでも阿難の姿を見送る。)