Chapter 1 of 2

ある山に一本のかえでの木がありました。もう長いことその山に生えていました。春になると、美しい若葉を出し、秋になるとみごとに紅葉しました。

町から山に遊びにゆくものは、その木をほめないものはなかったのであります。

「なんといういいかえでの木だろう。」と、子供も年寄りも、みなほめたのであります。

けれど、木はがけの辺に立っていましたので、みなは欲しいと思っても、取ることができませんでした。

あるとき、そんなに人々がほめるのを、かえでの木は聞いたところから、幹と葉とがけんかをはじめました。

「こんなに評判になったのも、俺が幾年もの間、こんなにさびしい険しいところに我慢をして生長したからのことだ。俺の姿を見てくれい。雪のためには、ある年はおされて危うく折れそうになったこともあり、また、ある年の夏には、大雨に根を洗われて、もうすこしのことで、この地盤が崩れて、奈落の底に落ちるかと心配したこともある。いま、おまえがたが、踊ったり、跳ねたり、のんきに太陽に照らされて笑ったり、風に吹かれて唄をうたったりすることができるのも、だれのお蔭だと思うか。けっして俺のご恩を忘れてはならんぞ。」と、幹は、葉に向かっていいました。

すると、木にしげっている葉はいいました。

「それは、一刻だって、あなたのご恩を忘れはいたしません。けれど私たちだって、ただ踊ったり、笑ったり、跳ねたりしているのではありません。いくらずつか、あなたのおためにもなっているのでございます。もし私たちがなかったら、やはりあなただって、そうしていつまでも達者に生きてはいられないのでございます。」

「そんなら、おまえたちは俺を守っているというのか。」と、幹は叫びました。

「さようでございます。」

「ばかばかしい。早く死んで失せろ。いくらでもおまえがたの代わりは生まれてくるわ。」と、幹は体を震わして怒ったのであります。

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