Chapter 1 of 3

はるかなそりの跡

この村には七つ八つから十一、二の子供が五、六人もいましたけれど、だれも隣村の太郎にかなうものはありませんでした。太郎は、まだやっと十二ばかりでした。けれど力が強くて、年のわりあいに体が大きくて手足が太くて、目が大きく円くて、くるくるとちょうど、わしの眸のように黒くて光っていました。

だから、この村の子供はだれも太郎とけんかをして勝ち得るものはありません。みな太郎をおそれていました。

「今日君は太郎を見たかい。」

と、甲がいいました。

「僕は見たよ。」

と、丙が答えました。

「なにもしなかったかい。」

と、甲が丙を見て問いました。

「遠くだったから、なんにもしなかったよ。僕は急いで帰ってきたよ。」

と、丙が答えました。

「明日も学校へゆくときには、みないっしょにゆこうよね。そうすれば太郎がきたってだいじょうぶじゃないか。」

と、乙がいいだしました。

「しかし君、太郎は強いんだよ。」

と、丙がいいました。

「だってみんなでかかれば太郎一人なんか負かしてしまうね、僕は足を持ってやる。」

と、乙が力んでいいました。

「僕はぶってやるよ。」

丙がいいました。

「僕は雪の中へうずめてやろう。」

甲がいいました。そしてみんなで声をたてて笑いました。

その明くる日になると雪が降っていました。朝、甲・乙・丙・丁の四人の子供は、たがいに誘い合って学校へ出かけました。路ばたのすぎの木の枝は雪がたまってたわんでいます。そして、その下を通るときには、くぐってゆかなければなりません。寺の横を通ったときには、もう雪が地の上にますます積もって墓石の頭がわずかばかりしか見えていませんでした。子供らは自分の村をすこし離れたところに学校がある。そこへ歩いてゆくのでした。村を出ると、広々とした野原がありました。野原は一面に見渡すかぎりも雪にうずまって真っ白に見えました。そしてそこへ出ると、そりの跡も風にかき消されて、あるかなしかにしか見えなく、寒い北風が顔や手や足を吹いたのでした。

Chapter 1 of 3