B 立山
二月九日 曇 九・二〇千垣 一〇・〇〇芦峅 一〇・一五藤橋 二・二〇材木坂頂 四・〇〇ブナ坂避難小屋
藤橋の手前でスキーを履く。積雪二尺。例の雪崩の出るところはちょっと悪い。あの附近は高山と違って真冬でも温度が高く、かつ南斜面だから太陽の直射でよく雪崩れる。材木坂より上は積雪量が相当にあってどこでも楽に歩けた。山毛欅坂もスキーによい斜面となっていた。霧が巻いてきたので山毛欅坂避難小屋に泊る。気持のいい小屋だ。炭俵がたくさんあり、その中に入っていると温かい。アルコールは便利だ。コッヘルにて餅を炊く。とてもうまい。また干柿もいい。この附近積雪量五尺くらい。
十日 雪 七・〇〇発 〇・〇〇弘法小屋 雪が降っている。しかし風がないので幸いだ。弘法附近は積雪七尺くらい、南側の下の窓より入る。一月より寒いのか炊事場の水は表面が凍っていた。例の炉辺に寝る。午後七時頃よりときどき風の音を聞く。
十一日 雪 滞在 何もすることがないので入り口の戸を開けて道を掘ってみた。すぐ埋ってしまうので中止。夜中より吹雪となり物凄く風が唸っている。
十二日 吹雪 滞在 朝になっても吹雪は止まず、いつまでつづくことかとちょっと心配になる。一月福松が口癖に雪の立山、雪の立山と言っていたが、ほんとにその感じを深くする。しかしさすがの吹雪も午後五時頃よりおさまり、その夜は寂莫。静かな雪が落ちているのみ。
十三日 晴 八・四〇発 一・〇〇室堂 二・一五一ノ越 三・〇五立山頂上 四・一〇室堂 六・一五弘法
朝起きて見ると白い雲が走っていて、ときどき青空が見える。雪もチラチラ降っている程度なので大丈夫と思って出かける。この雲は二〇〇〇メートル以下のもので、鏡石より上は快晴であった。思うにこれら雪雲は雪線について上下し、たいてい春秋は山頂附近に、冬は山麓に止まり、その附近に多く雪を降らすのであろう。天狗平の上は余り高く巻くと雪が堅く不愉快だ。室堂附近の積雪量は、一月と変らぬ。それとも風が強くてこれ以上は吹き飛ばされるのか。一ノ越から頂上までも一月と同様簡単に登れる。黒部谷をへだてて針ノ木―鹿島槍が雄大に見える。劔岳もまた凄く聳えている。風が強くなかなか寒い。写真を二枚撮って下る。
十四日 晴 六・四〇発 一一・三〇―〇・一〇藤橋 二・三〇―三・〇〇芦峅 三・三〇千垣
藤橋で水量を計っている組についていた芦峅の案内らしい人が僕に向って、君が一人で登ったので大変心配したと言った。僕の行動がまるで知らない人にまで心配をかけたのは全く恐縮の次第だった。それから発電所の方へ渡って例の雪崩の出るところを避け、また右岸に返って芦峅に下った。