下
誇る可きかな常闇に
長き沈黙を圧したる
権力を驕るほゝゑみに
いまはた、呼吸に世を甦生す
巨人のごともうなづきて
我、鐘楼によぢのぼり
夜は余ありとく醒めよ
全都の霊よ、活動の
一指に天を覆へす
威勢しめせと大撞木
闇にひと振、渾心の
力らをこめて鐘撞くや
響殷々、澄みわたる
大気揺がし乱るれば
鳥は驚き友をよび
緑天蓋ゆるがして
百千に乱れ、白銀の
箙背に負ふ神将が
引き番へ射る千束矢の
白羽のごとく光射し
紫雲揺曳びく九重の
大宮めぐり鳴きかはし
靄の御幕ひきかゝげ
東をさせば天津宮
闇の夢戸を押ひらき
いま日の神のいでましに
光白駒、飛ぐるま
万の栄光、千々の彩
百の照姫従へて
白銀の輪の小軋に
雲は彩湧く時をのせ
まづ仄白む東雲を
天に薄するゝ星くづの
光の権者、霊清よく
地に蘇る響音の
幽かに更らにひそやかに
力こもりぬ、ほの/″\と
朝明の霧に動ぎつゝ
九百九町はやはらかに
醒むるよ。嘗つて夜を高み
天ゆくだせし洗礼の
雪に五濁をそゝげばか
六根清く晶らかに
離垢の法土を現ずるよ
されば朝の気朝の声
清くすゞしく爽やかに
水に輪うち波をつたへ
山の皷膜にひゞくかな
それ日の本は神ながら
神づまります古国の
秀真の国の朝ぎよめ
四方清しき宮霧に
烏帽子、水干白彩の
禰宜が拍手、寒祝詞
朗らに澄むや神殿の
大気森たり朝神楽
はや鼕々とうちいづる
時に聖は先覚の
慈眼めぐらし数珠操りて
うつや鉦皷の律幽に
霧にむせびて三宝の
清きほこりは雲に入り
澄みて菩提をさそふべう
伽藍の朝は磬の音に
はた鐘の音におのづから
清し浄土のかしこさを
涙にあふぐ市びとが
耳をよぎりてあきなひの
声はなやかに、辻々の
車の軋、鈴の音
足駄、華靴、雪に鳴り
繁く急忙しくなりゆけば
いまか市場は武蔵野の
果実、青物、北国の
紅は林檎に、極熱の
禾木、花ぐさ、花たまき
彩に人よぶ賑ひに
美し子らは入りみだれ
朝眼すゞしく惑ふらむ
さては魚河岸舟つくや
江戸は勇健の肌の彩
美くし脛に手に活きむ
魚の幾千溌溂と
銀の鱗をひそらかし
海の新香を飛ばすらむ
こなた森なる学堂の
雪の門守、ねそびれし
寝惚がほなる笑止さに
閂ぬけば夏海の
潮のごとくひたよせて
乱れ入る子の後ろかげ
幸と希望に光る見よ
と見る真紅は朝ぞらの
雲を彩どり譜をそめて
霧にながるゝ美くしさ
時いま、百の工場に
軋轆の音うまるれば
黒煙のぼるよ笛鳴るよ
朝はいよ/\新たらしく
生存の力をどよもして
霧晴れゆけば遠海の
朝の青はや、眉せまる
秩父遠山、筑波山
富士、白雪の冠に
玲瓏として玉のごと
朝に臨むよ。この都
あはれ不滅の精力に
歓喜あれよ幸あれよ
驕盛あれよ光栄あれよ
いま悠々と高照り
驕慢栄ゆる天日は
時の白駒駆りすゝめ
白銀の鞭、金の馬具
輪車軋らす光道の
十方かけて煌々と
投ぐる金の矢銀の矢に
赫奕として照りかへす
朝の光に新たまる
都の声よ。戞然と
いま噪然と囂然と
あら蘇る活動の
力、火となり熱となり
電力となり、生類の
血となり燃ゆる肉となり
茲に全都の繁栄と
高き権威を永久に
人を円満にすゝむると
千万の声雑然と
遂に溢ふれて漲りて
天部貫ぬく激しさに
あゝ地に匍匐る六尺の
短躯にひそむ精力の
偉大不滅をまさに見る
高台の朝、樹下の人
あゝ讃嘆と青春の
感涙せちにうちむせぶかな
●図書カード