Chapter 1 of 7

五月の雉

風の旅びとがこつそり尾根道を通る

ここはしずかな山の斜面

一匹の雌きじが 卵を抱いている

青いハンカチのように

夕明かりの中を よぎる蝶

谷間をくだる せせらぎの音

ふきやもぐさの匂いが

天に匂う

(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)

一番高い山の端に陽がおちる

乳いろのもやが谷々からのぼつてくる

やがて、うす化粧した娘のような新月が

もやの中からゆつくりと顔を出す

――今晩は、きじのおばさん――

平和な時間がすぎてゆく

きじの腹の下で最初の卵がかえる

月かげにぬれてひよこがよろめく

親きじがやさしくそれをひきよせる

(どこからも鉄砲の音などきこえはしない)

Chapter 1 of 7