Chapter 1 of 1

Chapter 1

ネコがネズミと知りあいになりました。ネコはネズミにむかって、これからきみをうんとかわいがって、なかよくしてあげるよ、と、さかんにうまいことをいいたてました。それで、とうとうネズミは、ネコとおなじうちにすんで、いっしょにくらすことを承知してしまいました。

「だが、わたしたちは、冬になってもいいように、用意をしておかなくちゃならないよ。さもないと、ひもじいめにあうからね。」

と、ネコがいいました。

「ネズミくん、きみはそこらじゅう、むやみに歩きまわることはできないだろう。ネズミとりにでもひっかかるとこまるものねえ。」

このしんせつな忠告どおりにして、ふたりはヘット(料理につかう牛の脂肪)のはいった小さなつぼをひとつ買いこみました。でも、そのつぼをどこへおいたものか、どうもふたりにはよくわかりません。それで、長いこと考えぬいたあげくに、とうとう、ネコがこういいました。

「こいつをしまっておくのにいい場所といったら、まず教会のほかにはないだろうよ。あそこなら、まさかぬすみだすやつもいまいからね。祭壇の下においといて、入り用なときがくるまでは、手をつけないでおくことにしよう。」

これで、つぼはだれにもぬすまれる心配はなくなりました。ところが、いくらもたたないうちに、ネコはヘットがなめたくてしようがなくなりました。そこで、ネズミにむかっていいました。

「きみに話したいことがあるんだがね、ネズミくん。じつは、わたしはおばさんから名づけ親になってくれってたのまれているんだよ。おばさんがね、白と茶色のぶちのむすこを一ぴき生んだもんだから、その子の洗礼にたちあってくれっていうのさ。だから、きょうはひとつ、わたしをでかけさせて、おまえさんひとりで、うちのことをやっていてくれないかね。」

「いいですよ、いいですよ。」

と、ネズミはこたえました。

「えんりょなくいってらっしゃい。あなたがなにかおいしいものでもめしあがるときには、あたしのことも思いだしてくださいな。産婦さんののむ、あまい赤ブドウ酒のようなものなら、あたしもひとしずくぐらい、いただきたいですよ。」

ところがこれは、ぜんぶでたらめなんです。だって、ネコにはおばさんなんてひとりもないんですからね。ですから、名づけ親にたのまれたなんて、とんでもない話なのです。

ネコは、そのまままっすぐ教会へいって、あのつぼのところへしのびこむと、さっそくピチャ、ピチャなめはじめました。そしてまもなく、ヘットのどろんとした上皮を、きれいになめてしまいました。それから、町の家いえの屋根の上を散歩して、あたりのようすをながめてから、こんどは日なたに長ながとねそべりました。そして、さっきのヘットのつぼのことを思いだしては、そのたびに、ひげをこすっていました。

日がくれてから、ネコはやっとうちへかえってきました。

「おや、おかえりになったのね。きょうは、さぞかしたのしかったでしょう。」

と、ネズミがいいました。

「うん、うまくいったよ。」

と、ネコがこたえました。

「赤ちゃんにはどんな名まえがつけられましたの。」

と、ネズミがたずねました。

「〈皮なめ〉さ。」

と、ネコは、そっけなくこたえました。

「皮なめですって。」

と、ネズミは思わず大きな声でいいました。

「それはまた、きみょうな、かわった名まえですのね。あなたがたのおうちでは、そういう名まえがよくつけられるんですの。」

「こんなのは、なんでもないさ。きみの名づけ子の〈パンくずどろぼう〉なんてのよりは、わるかあないぜ。」

と、ネコはいいました。

それからまもなく、ネコはまたまた、ヘットがなめたくてたまらなくなりました。そこで、ネコはネズミにいいました。

「ほんとに、きみにはすまないけど、もういっぺん、うちのことをひとりでやってもらわなきゃならない。じつは、また名づけ親にたのまれちまったんだよ。なにしろ、こんどの赤んぼうの首のまわりにゃ白い輪がついてるってことだから、どうしてもことわるわけにゃいかないのさ。」

心のすなおなネズミは、すぐに承知しました。ところがネコのほうは、町の石べいのうしろをとおって、教会のなかへしのびこみました。そして、あのヘットのつぼを半分ほどもたいらげてしまったのです。

「まったく、このうまさは、ひとりで食べてみなくちゃわからんて。」

と、ネコはいいました。そして、きょうはうまいことをやったもんだと、すっかり満足していました。やがて、ネコがうちにかえってきますと、ネズミがたずねました。

「こんどの赤ちゃんは、なんて名まえをつけてもらいましたの。」

「〈半分ぺろり〉。」

と、ネコはこたえました。

「半分ぺろりですって。なにをおっしゃるのよ。そんな名まえは、あたしまだきいたこともありませんわ。だいいち、そんな名まえ、人名簿にだってのっちゃいませんよ。」

ネコは、まもなく、またおいしいごちそうが食べたくなって、しきりに口のなかにつばきがたまってきました。

「いいことは三度あるっていうがね。」

と、ネコはネズミに話しました。

「じつは、また名づけ親になってくれっていわれているんだよ。こんどの子はまっ黒でね、足だけが白いんだよ。そのほかは、からだじゅうどこにも白い毛なんて一本もはえていないのさ。こんなのは、二、三年に一ぴきぐらいしか生まれないんだよ。だから、どうかわたしをもういちどいかしておくれ。」

「皮なめだの、半分ぺろりだのって、ずいぶんおかしな名まえなのね。考えてみると、なんだかへんだわ。」

と、ネズミはこたえました。

「きみは、そのネズミ色のあらっぽい毛の上着をきこんで、長い毛をおさげにして、いつもうちのなかにばかりひっこんでいる。おまけに、年がら年じゅう、くよくよしている。昼まそとへでないもんだから、そんなふうになっちまうんだね。」

と、ネコがいいました。

ネズミは、ネコのるすのあいだにうちのなかをきれいにかたづけて、きちんとしておきました。ところが、くいしんぼうのネコは、つぼのなかのヘットをすっかりたいらげてしまいました。

「みんなたいらげちまうと、やっと安心できるもんだ。」

ネコはこうひとりごとをいって、夜がふけてから、ようやく、大満腹でうちにかえってきました。ネズミは、さっそく、三ばんめの赤んぼうにつけられた名まえをきいてみました。

「こんどの名まえも、きみには気にいらないだろうよ。」

と、ネコがいいました。

「こんどのは、〈みんなぺろり〉というのさ。」

「みんなぺろりですって。」

と、ネズミは大声をあげました。

「そんな名まえが印刷されてるのは、まだ見たこともないわ。みんなぺろり。いったい、なんのことだろう。」

ネズミは頭をふりましたが、からだをまるくして、そのままねてしまいました。

それからは、もうだれも、ネコに名づけ親になってくれとたのむこともありませんでした。しかし、やがて冬がちかづいてきて、そとに食べものがなんにも見つからなくなりました。すると、ネズミはたくわえのことを思いだして、いいました。

「ねえ、ネコさん、ふたりでしまっておいたヘットのつぼのところへいきましょうよ。きっとおいしいわよ。」

「よしきた。」

と、ネコはこたえました。

「きっと、きみのそのうすっぺらな舌を、窓からだしたときのような味がするだろうぜ。」

そこで、ふたりはでかけました。むこうへついてみますと、たしかに、つぼはもとのままの場所においてありました。ところが、その中身がからっぽです。

「まあ。」

と、ネズミがいいました。

「いまこそ、あたしにも、よっくわかったわ。すっかりわけがのみこめてよ。あなたは、たいへんなお友だちだったのね。なにもかもきれいに食べちまってさ、名づけ親になるなんていっちゃあ食べて、はじめは上皮をなめ、それから半分ぺろりとやって、そのつぎには……」

「だまらないか。」

と、ネコがどなりつけました。

「もうひとこといってみろ、おまえをくっちまうぞ。」

「みんなぺろり」と、あわれなネズミが、舌の上まででかかっていたことばを、口にするかしないうちに、ネコはネズミめがけてひととびにおどりかかりました。そして、ネズミをひっつかむがはやいか、ぐうっとのみこんでしまったのです。

いいですか、世のなかってこんなものなんですよ。

●図書カード

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