Chapter 1 of 1

Chapter 1

むかし、あるところに、おかみさんに死なれたひとりの男と、だんなさんに死なれたひとりの女とがおりました。この男には、ひとりのむすめがありました。女にもひとりのむすめがありました。むすめどうしはおたがいに知りあいでした。

ある日、ふたりはいっしょに散歩にいったかえりに、女のほうの家へよりました。すると、女が男のほうのむすめにむかっていいました。

「いいかい、あんたのおとうさんにこういっておくれ。わたしが、おとうさんのおよめさんになりたいってね。そうすりゃ、あんたにはまい朝牛乳で顔をあらわせてあげるし、ブドウ酒ものませてあげるよ。といっても、うちのむすめには水で顔をあらわせて水をのませておくけどね。」

むすめはうちへかえって、女のいったことを、そのままおとうさんに話しました。すると、おとうさんはいいました。

「どうしたもんだろう。よめをもらうのはうれしいことだが、そのかわり、苦労もあるからな。」

おとうさんは、どっちとも心をきめかねましたので、とうとう、じぶんの長ぐつをぬいで、いいました。

「この長ぐつをもってくれ。こいつには底に穴がひとつあいている。こいつを屋根うらべやにもっていって、大きなくぎにかけて、なかに水をつぎこんでみてくれ。もし水がもらなかったら、もういちどよめさんをもらうことにしよう。だが、もしももったら、よめさんをもらうのはやめだ。」

むすめは、いいつけられたとおりにしました。ところが、水のために穴がちぢまってしまって、長ぐつのなかは上まで水がいっぱいたまりました。

むすめは、おとうさんにこのことを話しました。おとうさんがじぶんでそこへのぼっていってみますと、たしかにむすめのいうとおりです。そこで、さっそくその後家さんのところへいって、よめになってくれ、ともうしました。

こうして、結婚式があげられました。

つぎの朝、ふたりのむすめがおきてみますと、男のほうのむすめのまえには、顔をあらう牛乳と、のむブドウ酒がおいてありましたが、女のほうのむすめのまえには、顔をあらう水と、のむ水がおいてありました。二日めの朝には、男のほうのむすめのまえにも女のほうのむすめのまえにも、顔をあらう水と、のむ水がおいてありました。そして三日めの朝になりますと、男のほうのむすめのまえには、顔をあらう水と、のむ水がおいてありましたが、女のほうのむすめのまえには、顔をあらう牛乳と、のむブドウ酒とがおいてありました。そしてそれからは、ずっとそのままでした。

女は、ままむすめが、ヘビかサソリのように、にくくてなりません。なんとかして日ましにひどくいじめてやろうと、そんなことばかり考えていました。それに、ままむすめは美しくてかわいらしいのに、じぶんのほんとうのむすめときたら、それこそみにくくて、ぞっとするほどでしたから、なおさらねたましくてならなかったのです。

ある冬の日のことでした。地面は石のようにかたくこおりついて、山にも谷にも、いちめんに雪がふりつもっていました。女は紙の着物をこしらえて、ままむすめをよんで、こういいました。

「さあ、この着物をきて、森へいって、かごにいっぱいイチゴをとってきておくれ。わたしは、イチゴが食べたいんだよ。」

「まあ、おかあさん。」

と、むすめはいいました。

「こんな冬に、イチゴなんかありゃしませんわ。地面はこおっていますし、おまけに雪がすっかりつもっていますもの。それに、どうしてこんな紙の着物をきていかなければいけないんですの。おもては、息もこおってしまうくらい寒いんですよ。こんな着物じゃ、風もすうすうとおりますし、イバラにひっかかってちぎれてしまいますわ。」

「また口ごたえをする気かい。」

と、まま母がいいました。

「さっさといっといで。このかごにイチゴがいっぱいになるまでは、二度ともどってくるんじゃないよ。」

それから、まま母はかたいパンをひときれわたして、

「これだけあれば、一日は食べられるよ。」

と、いいました。でも心のなかでは、

(そとへでれば、こごえて、うえ死にするだろうから、もう二度とわたしの目のまえにすがたをあらわすことはないだろうさ。)

と、思っていました。

むすめはおとなしくいうことをきいて、紙の着物をき、かごをもってでていきました。おもては見わたすかぎり雪ばかりで、みどりの草などはどこにも見えません。

むすめが森のなかにはいっていきますと、一軒の小さな小屋が見えました。そのなかから、三人の小人がのぞいていました。むすめは、こんにちは、といって、おずおずと戸をたたきました。すると、小人たちは、おはいり、といいました。そこで、むすめはへやにはいって、暖炉のそばのいすにこしをおろしました。そして、からだをあたためて、朝ごはんを食べようと思いました。

それを見て、小人たちがいいました。

「ぼくたちにもすこしくださいな。」

「あげますとも。」

むすめはこういって、パンをふたつにわって、半分をみんなにわけてやりました。

「この冬のまっさいちゅうに、きみはそんなうすい着物をきて、この森のなかでなにをするつもりなの。」

と、小人たちがたずねました。

「それがねえ、このかごにいっぱいイチゴをさがさなけりゃならないのよ。」

と、むすめがこたえていいました。

「イチゴをもっていかなくっちゃ、うちへもかえれないのよ。」

むすめがパンを食べおわりますと、小人たちはむすめにほうきをわたして、いいました。

「これでうら口のところの雪をはいておくれ。」

むすめがそとへでてしまいますと、そのあとで、三人の小人たちは相談をしました。

「あのむすめは、あんなにおとなしくして、しんせつで、それに、パンもぼくたちにわけてくれたんだ。なにをやったらいいだろうなあ。」

すると、ひとりがいいました。

「ぼくは、あのむすめが日ましに美しくなるようにしてやろう。」

二ばんめの小人がいいました。

「ぼくは、あのむすめが口をきくたびに、口から金貨がとびだすようにしてやろう。」

三ばんめの小人はこういいました。

「ぼくは、どこかの王さまがやってきて、あのむすめをお妃さまにするようにしてやろう。」

むすめは、小人たちにいわれたとおり、ほうきで小さな家のうしろの雪をはきのけました。ところでみなさん、このとき、むすめはなにを見つけたと思います? それこそ、じゅくしたイチゴの実ばっかり、もうすっかり赤黒くうれているのがいっぱい、雪のなかからあらわれてきたではありませんか。

むすめは大よろこびで、さっそくイチゴをかごにいっぱいつみとりました。そして、小人たちにお礼をいって、ひとりひとりに握手をしました。それから、まま母にのぞみのものをもっていってあげようと、走ってかえりました。

むすめがうちのなかにはいって、ただいま、といったとたんに、金貨が一枚、口のなかからとびだしました。それから、むすめは森のなかでおこったできごとを話しましたが、むすめがひとこというたびに、口のなかから金貨がとびだして、たちまちのうちに、へやじゅうが金貨でいっぱいになってしまいました。

「見てやってよ、あの高慢ちきを。」

と、まま母のつれてきたむすめが大きな声でいいました。

「あんなにお金をまきちらしたりしてさ。」

けれども、心のなかでは、ほんとうはそれがうらやましくてたまらず、じぶんも森へいって、イチゴをさがしてこようと思っていたのです。

「およしよ、おまえ。こんなに寒くっちゃ、こごえちまうよ。」

と、まま母はいいました。

けれども、むすめがあんまりうるさくせめたてるものですから、とうとうまま母もまけてしまって、りっぱな毛皮の着物をぬって、それをきせてやりました。それから、とちゅうで食べるように、バターパンとおかしももたせてやりました。

むすめは森へはいって、まっすぐ、あの小さなうちをめざして歩いていきました。こんどもまた、三人の小人たちがなかからのぞいていましたが、むすめはあいさつひとつしませんでした。そして、小人のほうなどは見むきもせず、ひとことのことばもかけないで、どんどんへやのなかにはいりこみました。そして、さっさと暖炉のそばにこしかけて、バターパンとおかしを食べはじめました。

「ぼくたちにも、すこしくださいな。」

と、小人たちがいいましたが、むすめは、

「あたしひとりでもたりないんだよ。ひとになんか、わけてやれるもんですか。」

と、こたえました。

まもなく、むすめがパンを食べおわりますと、小人たちがまたいいました。

「そのほうきで、うら口のそとのところをきれいにはいておくれ。」

「なにいってんのよ、じぶんたちでおはき。あたしはおまえたちの女中じゃないんだよ。」

と、むすめはこたえました。

むすめは、小人たちがなんにもくれそうにないと見てとりますと、戸口からそとへでていきました。すると、小人たちは相談しました。

「あのむすめはあんなにぎょうぎがわるいし、ひとにものもやらない根性まがりのねたみやだから、なにをやったらいいだろう。」

すると、ひとりがいいました。

「ぼくは、あのむすめが日ごとにみにくくなるようにしてやろう。」

二ばんめの小人がいいました。

「ぼくは、あのむすめが口をきくたびに、口のなかからヒキガエルがとびだすようにしてやろう。」

さいごの小人はいいました。

「ぼくは、あのむすめがみじめな死にかたをするようにしてやろう。」

むすめはそとでイチゴをさがしましたが、ひとつも見つかりませんので、ぷんぷんおこって、うちにかえりました。そして、口をひらいて、森でおこったできごとをおかあさんに話そうとしました。ところが、ひとこというたびに、ヒキガエルが一ぴきずつ口のなかからとびだしてきました。そのため、みんなは、このむすめをたいそういやがるようになりました。

こんなことがありますと、まま母はますます腹がたってきて、ただもうなんとかして、男のほうのむすめをひどいめにあわせてやりたいと、そのことばかり考えていました。ところが、このむすめの美しさは、日ごとにましてくるばかりです。

とうとう、まま母はおかまをもちだして、火にかけました。そして、より糸をぐつぐつ煮ました。糸が煮えますと、それをかわいそうなむすめの肩にかけて、それから一ちょうのおのをわたしました。そして、

「これをもって氷のはった川へいってね、氷に穴をあけて、このより糸をすすいでおいで。」

と、いいつけました。

むすめはおとなしくいわれたとおりに川へいって、氷に穴をあけました。こうして、むすめが氷をわっているさいちゅうに、王さまののっているりっぱな馬車がとおりかかりました。王さまは馬車をとめて、むすめにたずねました。

「おまえはだれだね。そこでなにをしているのかね。」

「あたくしはあわれなむすめでございまして、より糸をすすいでいるところでございます。」

これをきいて、王さまはむすめをかわいそうに思いました。しかも、見れば、たとえようもないほど美しいむすめです。

そこで、王さまはいいました。

「わしといっしょにいく気はないかね。」

「ええ、よろこんでおともいたします。」

と、むすめはこたえました。むすめにとっては、まま母や義理の妹の顔を見ないですむだけでも、うれしかったのです。

そこで、むすめは馬車にのって、王さまといっしょにいきました。やがて、お城につきますと、小人たちがこのむすめにおくりものとしてきめてくれたように、ご婚礼の式が、それはそれはりっぱにおこなわれました。

それから一年たって、わかいお妃さまは男の子を生みました。まま母はこのむすめがたいそうしあわせになっていることをききますと、じぶんのほんとうのむすめをつれて、あいさつにたずねてきたような顔をして、お城へいきました。

ところが、ある日、王さまがよそへいって、ほかにはだれもいないときのことでした。このわるものの女は、お妃さまの頭をつかみ、むすめには足をつかませて、ふたりがかりでお妃さまを寝台からひきずりだしました。そして、窓からそとをながれている川のなかへ、いきなりほうりこんでしまいました。

そうしておいて、こんどは、みにくい顔のむすめが寝床のなかにもぐりこみました。まま母は、その頭まですっぽりとふとんをかぶせておきました。

王さまがかえってきて、お妃さまに話しかけようとしますと、まま母があわてていいました。

「おしずかに、おしずかに。ただいまは、お話しなさってはいけません。ひどい寝汗をかいていらっしゃいますから。きょうは、そっとやすませておいてあげなければいけません。」

王さまは、わるだくみがあろうなどとは夢にも考えてみませんでした。ですから、あくる朝になってからようやく、またお妃さまのところへやってきました。

ところが、王さまがお妃さまと話をして、お妃さまがそれにこたえますと、ひとことこたえるごとに、まえには金貨がとびだしましたのに、こんどは、ヒキガエルがとびだしました。そこで王さまは、

「これはどうしたことなのか。」

と、たずねました。

するとまま母は、

「これはひどい汗のためですから、すぐおなおりになりましょう。」

と、もうしました。

ところがその晩のことです。料理番のわかいものが、台所の流し口から、一羽のカモがおよいではいってくるのを見ました。ところが、そのカモがこんなことをいいました。

王さま あなたはなにしていらっしゃる

おやすみですか おめざめですか

わかいものがなんともへんじをしませんので、カモがまたいいました。

あたしのお客はなにしているの? それをきいて、わかいものがこたえました。

お客はぐっすりねているよ すると、カモがなおもききました。

あたしのぼうやはなにしているの? わかいものはこたえていいました。

ゆりかごで すやすやねているよ すると、カモはお妃さまのすがたになって、あがっていきました。そして、ぼうやにお乳をのませ、小さな寝台をゆすって、ふとんをよくかけてやりました。それから、またカモのすがたになって、もとの流し口からきえていきました。

こんなふうにして、カモはふた晩やってきましたが、三日めの晩に、料理番のわかいものにむかっていいました。

「王さまのところへいって、こういってくださいな。王さまが剣をぬいて、敷居の上で三度ほど、あたしの頭の上でふってくださるようにって。」

そこで、料理番のわかいものは王さまのところへ走っていって、このことを話しました。すると、王さまは剣をもってやってきて、このあやしげな鳥の上で三度ほどふりました。

と、三度めをふりおわったとたんに、お妃さまがすぐ目のまえにあらわれたではありませんか。しかも、まえとおなじように、いきいきとした元気なすがたをしているのです。

王さまは、心のそこからよろこびました。けれども、赤ちゃんが洗礼をうけるはずになっている日曜日まで、お妃さまをひとへやにかくしておきました。そして、洗礼がすんだところで、王さまはいいました。

「ひとを寝台からひきずりおろして、川のなかへほうりこむような人間は、どんなめにあわせたらよかろう。」

「そんなわるいやつは――」

と、まま母がこたえていいました。

「たるのなかにおしこめて、それをくぎづけにして、山の上から川のなかにころがしおとすのがいちばんでございますよ。」

それをきいて、王さまはいいました。

「おまえはじぶんをさばいたわけじゃ。」

そうして、そういうたるをもってこさせて、まま母とむすめとをそのなかにいれさせてしまいました。それから、たるのふたをくぎづけにして、山の上からゴロゴロころがしおとしましたので、とうとうたるは川のなかへころがりこんでしまいました。

●図書カード

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