第九章
早朝、N市で訪問時間と定められている時刻よりずっと早い頃、中二階と空いろの円柱のついたオレンジ色の木造家屋の扉口から、格子縞の粋なコートをまとった婦人が、幾重にも肩覆いを重ねた、金モール附きの外套に、ピカピカ光る円筒帽という扮装の従僕をつれて、あわただしく飛びだしてきた。婦人はすぐさま、玄関に待っていた軽馬車の蹈段を駈け上るようにして、大急ぎでそれに飛び乗った。従僕はさっそく、婦人の乗りこんだ後の扉をしめて、蹈段を折畳むと、革紐につかまって馬車の後部へ飛び乗りざま、馭者に向って、『やれ!』と叫んだ。婦人は、丁度いま珍談を聞きこんだばかりで、それを一刻もはやく、誰かに吹聴したいという抑え難い慾望に駆られているのだった。彼女はひっきりなしに窓の外を眺めたが、まだ道の半分も来ていないのを知ると堪らなくもどかしかった。どの建物もどの建物も、ふだんより長いように思われた。殊に、小さい窓の幾つもついている白い石造の養育院などは、どこまで続いているとも分らないような気がしたので、彼女はとうとう我慢がしきれなくなって、『まあ、なんていけすかない建物だろう、ほんとにどこまで行っても切りがないわ!』と口走ったものである。馭者はもう二度も『もっと早く、早くったらさ、アンドリューシカ! きょうはお前、どうしてそんなにのろくさやってるのさ!』と叱責を蒙った。それでも、ようやく目的の場所へ着いた。馬車は、濃い鼠色をした、やはり木造の一階建の家の前に停ったが、その家の窓の上には白い薄肉彫がほどこしてあり、窓の前には、長の高い木の四つ目垣をめぐらした、小さな植込があって、その四つ目垣のなかの細い樹々は、しょっちゅう町の埃をかぶるので、真白になっていた。窓の内側には、花をいけた壺と、籠の中で金環を嘴でくわえて躯をブランブランさせている鸚鵡と、日向ぼっこをしながら寝こんでいる二匹の小犬とが仄見えている。これは、今やってきた婦人の無二の親友の住いであった。ところで、一体この二人の婦人をどういう名前で呼んだら、従来のようなひどいお叱りを蒙らずにすむだろうかと、作者は内心甚だ当惑している。勝手にいい加減の名前をつけるのは危険千万である。どんな名前をでっちあげても、有難いことに、必らず我が帝国のどこかに、実際そういう名前の人があって、屹度かんかんになって腹を立てる。そして、あいつはいろんなことを探りに、故意とこっそりやって来たんだとか、作者はしかじかの人間で、これこれの外套を着ており、アグラフェーナ・イワーノヴナのところへ立寄ったとか、あいつは食いしんぼうだなどと、あられもないことまで言いだす。官等などを呼ぼうものなら、それこそ大変で、いよいよ以って危険千万だ。今日では我が国のあらゆる官等あらゆる身分の人々が、恐ろしく神経過敏になっていて、何か書物に書きでもすると、それを例外なしに自分のことだと思いこんでしまう。どうも、そういった雰囲気なのである。早い話が、或る町に一人の馬鹿な人間がいると、それだけ書けば――もうそれで或る人の人身攻撃をしたことになってしまい、見たところ分別ありげな紳士が、いきなり躍りあがって、『我輩だって人間なんだ、そうすれば我輩も矢張り馬鹿だということになるじゃないか』と喚き出す。要するに、何でもすぐ早合点をしてしまうのである。だから、凡てそういったことを避けるために、今お客に訪問された方の婦人は、N市で彼女のことを殆んど一様にそう呼んでいる通称でどちらから見ても気持のいい婦人と呼ぶことにしよう。この異名を彼女は至極妥当な方法で贏ち得た。というのは、自分を少しでも愛想よく見せるためには何ものをも吝まなかったのである。尤もその愛嬌の中には、女の持前の、あの際疾い抜目なさがちゃんと忍びこんでおり、又その気持のいい言葉の中にも、時には鋭い針が感じられたものである! こういった風な、あの手この手を用いて第一位を獲得したような婦人の憤激を買うようなことがあったら、それこそ大変である! だが、そういうものは凡て、ひとり県庁所在地にだけ見られる、あのいとも繊細な社交の中に隠されていたのである。彼女の一挙一動はいかにも雅やかで、そのうえ詩を愛したり、時にはうっとりと夢見るように首を傾げる術さえ知っていたので彼女が確かにどちらから見ても気持のいい婦人であるという事には、誰ひとり異論がなかった。もう一人の婦人、つまり、いま馬車で乗りつけた婦人の方は、性格に於いてそれほど多方面ではなかったから、我々も彼女のことを単に気持のいい婦人と呼ぶことにしよう。この客の到着で、日向ぼっこをしていた二匹の犬が眼をさました。いつも毛をもじゃもじゃにしている尨犬のアデリと、脚の細い牡犬のポプリだ。どちらもワンワン吠えながら、尻尾を輪のように捲きあげて控室へ駈け出して来たが、そこにはお客が今コートをぬいで、柄といい色といい、いま流行の衣裳に、頸から長い毛皮の尻尾を垂れて待っており、ジャスミンの匂いが部屋じゅうに漂っていた。どちらから見ても気持のいい婦人は、単に気持のいい婦人がやって来たと知るや否や、さっそく控室へ飛び出して来た。二人の婦人は手に手を取って接吻しあい、ちょうど二人の女学生が、学校を出たてで、まだ母親から、一方の娘の父親の方が片方の娘の父親より貧乏で、官位も低いということを聞かされる暇もない頃に、ばったり出逢って歓声をあげるように、ワッと叫び声をあげた。接吻の音があまり高かったので、二匹の小犬がまた吠えだしたほどであったが、その報いに犬どもは手巾で打たれた。そのまま二人の婦人は客間へとおった。それは言うまでもなく空色の部屋で、長椅子と橢円形のテーブルと、常春藤をからませた衝立まで具わっていた。二人の後から尨毛のアデリと脚のひょろ長いポプリが、くんくん言いながら駈けこんだ。『さあ、さあ、ここへ掛けて頂戴な!』そう言って、女主人は客を長椅子の隅に坐らせながら、『ええ、そうそう! さあ、クッションを当てて下さいな!』彼女はそういって、客の背中へクッションを押しこむようにしたが、それには、よく画布に刺繍してあるのと同じような騎士の絵が毛糸で刺繍してあった――つまり、鼻が段々になって前へ突き出し、唇は四角い形をしていた。『まあ、なんて嬉しいんでしょう、あなたがいらしって……。ふと、玄関に馬車の停った音を聞いて、あたしそう思ったの、こんなに早くどなただろう? って。パラーシャは、きっと副知事の奥さまですよって言うんでしょう。で、あたしも、じゃあ、あのお馬鹿さんがまた退屈をさせにやってきたんだわって言って、もう少しで居留守を使うところでしたわ……。』
お客はさっそく肝腎の話を持ちだして、例の珍談を吹聴しようと思ったのであるが、ちょうどその時、どちらから見ても気持のいい婦人のあげた叫び声が、急に話題を別の方向へ導いてしまった。
「まあ、なんて柄の面白い更紗でしょう!」と、どちらから見ても気持のいい婦人が、単に気持のいい婦人の着物を見ながら、叫んだ。
「ええ、ちょっと面白い柄でしょう。だけれど、プラスコーヴィヤ・フョードロヴナは、この格子がもう少し細かくて、点々が褐色の代りに空色だったら、もっとよかろうって仰っしゃるのよ。妹にも妾、服地を送ってやりましたけど、何とも口ではいえない位、そりゃ好い柄でしたわ。まあ、ちょっと考えても御覧なさい、空色の地に、細い細い、とても人間の頭では考えられないくらい細い縞があって、その縞のあいだあいだに、眼と蹠、眼と蹠という風に模様がはいってますのよ……。まあ一口にいえば、ちょっと類のないものでしたわ! ほんとに、あんなのは決して二つとない柄だと言うことが出来ますもの!」
「じゃあ、それはまだら模様なんでしょう。」
「いいえ、大違い! まだら模様なんかじゃありませんわ!」
「あら、まだら模様なんでしょう!」
この、どちらから見ても気持のいい婦人は、ちょっと唯物論者らしいところがあって、物事を否定したり疑ったりする傾向をもっており、何でも世の中のことは一応排斥する癖のあったことを注意しておかなければならない。
そこで単に気持のいい婦人は、それが決してまだら模様でないことを力説してから、「ときに、お生憎と今どき、あなたのように、そんな襞飾なんかつけてる人はありませんのよ。」と叫んだ。
「あらどうして?」
「襞飾のかわりにレースをつけますわ。」
「まあ、いやだ――レースなんて!」
「でもレースが大流行ですわ。肩布にもレース、袖にもレース、肩飾にもレース、下の方にもレース、どこにもかしこにもレースをつけますのよ。」
「だって、ソフィヤ・イワーノヴナ、そう矢鱈にレースばかりつけたら、おかしいでしょう。」
「ところが、まるで嘘みたいに、とても素敵なのよ、アンナ・グリゴーリエヴナ。間隔をひろく取って、二重に襞をつけ、その上から……。でも、それよりも、もっともっとお驚きになって、屹度こう仰っしゃいますわ……。そりゃ屹度びっくりなさいますわ、だって、思っても御覧なさいまし、コルセットの丈がずっと伸びて、下が岬のように尖り、前の鯨骨が突拍子もなく長くなりましたの。スカートは、丁度むかし箍骨を入れたように、まんまるくふくらまして、その上、後ろへも少し綿を入れて、すっかり申し分のない大女に見せようっていう寸法なんですの。」
「まあ、いやだわ、ほんとに!」と、どちらから見ても気持のいい婦人は、勿体ぶって首を振りながら言った。
「ええ、ほんとにいやですわ!」と、単に気持のいい婦人が相槌を打った。
「まあ、あなたはどうだか存じませんけれど、あたしは、どうしてもそんな真似をする気にはなれませんわ。」
「そりゃ、あたしだってそうですわ……。ほんとに流行なんて、飛んでもないことになるもので……。おしまいには何が何だか訳が分らなくなってしまうんですもの! あたし、ほんの笑い草に、妹にそう言って型紙を貰いましたの。うちのメラーニヤが縫いにかかっていますわ。」
「じゃあ、あなたは型紙をお持ちなんですの?」と、さすがに心の動揺を隠しきれずに、どちらから見ても気持のいい婦人が口走った。
「ええ、そうよ。妹が持って来たんですもの。」
「ねえ、あんた、それ、あたしに譲って下さいませんこと、後生一生のお願いですから。」
「あら、あたしもう、プラスコーヴィヤ・フョードロヴナにあげるって約束をしてしまったのよ。あの人の後でなくっちゃあ。」
「プラスコーヴィヤ・フョードロヴナが拵らえた後でなんか、そんなもの誰が着るもんですか! あたしを差措いてあんな人におやりになるなんて、よっぽど、どうかしてらっしゃるわ。」
「だって、あの人は、あたしの復従姉妹なんですもの。」
「おや、あの人があなたのどんな復従姉妹ですの、それも御主人の側のお身内というだけじゃありませんか……。いいえ、ソフィヤ・イワーノヴナ、そんなことあたし伺いたくもございませんわ。つまり、あなたはあたしに恥をかかせようとなさるんでしょう……。屹度あなたは、そろそろあたしに厭気がさしてきたんでしょう、屹度もう、あたしなんかとはお交際もして下さらないおつもりなんでしょう。」
哀れなソフィヤ・イワーノヴナは、一体どうしたらいいのか、さっぱり分らなくなってしまった。彼女はまるで、燃えさかっている火の中へ身を置くような気がした。それというのも、下らない自慢をしたからである! 彼女はつくづく自分の愚かさ加減が恨めしく、舌の根を針で突き刺したいような衝動に駆られた。
「ときに、例の伊達男はどうしまして?」と、その時、どちらから見ても気持のいい婦人が言った。
「あら、そう、そう! あたし、何をぼんやり、あなたの前に坐っているんでしょう! まあ、よかった! 一体あたしが何の用でお宅へ伺ったか御存じ、アンナ・グリゴーリエヴナ?」ここで客は、言葉が次ぎから次ぎへと、まるで隼のように後を追って飛びだして来そうになり、息もつけないほどであったから、その口を制するためには、そのとき彼女の親友が取ったような冷酷無情な態度を取るより他はなかったのだ。
「いいえ、どんなにあなたがあの人の肩を持ったり、褒めちぎったりなさいましても、」と女主人は、いつもよりずっとてきぱきした調子で遮った。「あたしははっきり申しますわ、ええ、あの人に面と向ってでもそう言ってやりますわ、あの男はやくざ者だって、ええ、やくざ者ですとも、やくざ者ですとも、やくざ者ですとも!」
「まあ、ちょっと、あたしの言うことを聞いて下さいな……。」
「あの男が好男子だなんて、もっぱら評判のようですけれど、あんな男はちっとも好男子じゃありませんわ、好男子どころか、あの鼻だって……。ずいぶん厭な恰好じゃありませんか。」
「まあ、それよりも、先ずあたしの話を聞いて下さいましったら……アンナ・グリゴリーエヴナ、先ずあたしの話をさ! だって、これは大事件なんですもの、お分りになって? ほんとに大事件なんですのよ、*1スコナペル・イストアールなのよ。」と客はもう、殆んど絶望的な表情をうかべて、まったく哀願するような声で言った。ところで、この二人の婦人が会話の中へ屡外国語を混ぜ、時には相当ながいフランス語の文句をさし挟んだことを指摘するのも妨げにはなるまい。けれど、如何にフランス語が我がロシア帝国に齎らす救世的利益を多とし、また勿論、祖国に対する深い愛情からではあるが、二六時中、フランス語を使っている我が国上流社会の称讃すべき風習を如何に徳とするにしても、それでもやはり作者は、このロシアの叙事詩の中へ、たとえどのような文句にしろ、外国語を引用する気にはどうしてもなれないのである。だから、ロシア語で先きをつづけることにする。
「大事件って、どんなことですの?」
「まあ、それがですよ、アンナ・グリゴーリエヴナ! ほんとに、あなたが少しでもあたしの出逢った立場を察して下さることが出来たなら! ね、どうでしょう、けさね、宅へお梵妻さんがいらっしたのよ、あのお梵妻さん、祭司長のキリール神父の奥さんがですよ、それでどうしたとお思いになって? あの温和そうな風来坊が一体どんな男だったとお思いになって?」
「まあ、あの人がお梵妻さんにいやらしいことでもしたと仰っしゃるの?」
「あら、アンナ・グリゴーリエヴナ、いやらしいことぐらいなら、まだまだ何でもございませんわ。まあ、あのお梵妻さんがあたしに話したことを聴いて下さいよ。あの女の話では、コローボチカとかいう女地主が、まるで死人のような真蒼な顔をして、ブルブル顫えながらやってきて、こんなことを話したんですって! ね、まあ、どうでしょう、まるで小説そっくりですわ。なんでも或る晩のこと、草木も眠る丑満時に、突然、それはそれは恐ろしい音をたてて、どんどんと門を叩く者があるんですって。そして、『あけろ! あけろ! あけなきゃあ、門をぶっ壊してしまうぞ!……』って呶鳴るんですとさ。さあ、あなたはどうお思いになって? そんなことがあったとしたら、一体あの伊達男はどうなるのでしょう?」
「で、そのコローボチカって、どんな女ですの? 若くて美人だとでもいうんですの?」
「ところが、それが大違い、よぼよぼのお婆さんなんですのよ。」
「あら、素敵だこと! じゃあ、あの男はそんなよぼよぼのお婆さんに手をつけたんですの? して見ると、この市の御婦人がたもよっぽど物好きなのねえ、そんないやらしい男に血道をあげるなんて!」
「ううん、そうじゃないってば、アンナ・グリゴーリエヴナ、そんなこととは、まるで違うのよ。まあ、どうでしょう、あの男は、まるで*2リナルドー・リナルジンみたいに頭の天辺から足の爪先まで物々しく身固めをして押し入るなり、『さあ、死んだ農奴をすっかり俺に売れ』って言うんですとさ。そこでコローボチカは、『そんな死んだものを売る訳にはいきません』って、如何にも尤もな答えをしたんですよ。すると、『いや、そいつらは死んじゃいない。死んでいようが、死んでいまいが、そんなことはこっちのことで、お前の知ったことじゃない、そいつらは死んじゃいない、死んじゃいないんだ!』と呶鳴るんですって。『死んでいるものか!』って。一口にいえば、飛んでもない乱暴狼藉をはたらいた訳ですわ。村じゅうの者が駈けつけて、子供は泣く、大人は喚くという騒ぎで、何が何やらさっぱり分らないんですもの、それこそ、ただもう、ほんとに*3オルリョール、オルリョール、オルリョール!って有様なの……。でも、アンナ・グリゴーリエヴナ、あなたにはこの話を聞いてあたしがどんなに吃驚したか、とてもお分りにはなりませんわ。『まあ奥さま』って、マーシュカがわたしに言いますのよ。『鏡を御覧なさいませ、お顔が真蒼でございますわ。』でも、あたしは、『鏡どころじゃないよ。すぐにアンナ・グリゴーリエヴナのお宅へ伺って、お話してこなくっちゃあ』って言いましてね、さっそく軽馬車の仕度を言いつけましたの。馭者のアンドリューシカが、どちらへ参りますかって訊ねても、あたし、何ひとこと物をいうことが出来ずに、まるで馬鹿みたいに、馭者の顔ばかりぼんやり眺めていたんですのよ。きっと彼は、あたしが気でも違ったのじゃないかと思ったかも知れませんわ。ほんとにさ、アンナ・グリゴーリエヴナ、あたしがどんなに吃驚仰天していたか、それがあなたにお分りになったなら!」
「でも、ほんとにおかしな話ねえ。」と、どちらから見ても気持のいい婦人が、口をはさんだ。「いったいその死んだ農奴って、どういう意味なんでしょうね? 正直なところ、あたしにはさっぱり訳が分らないんですの。その、死んだ農奴をどうかしたっていう話は、これでもう二度も聞きましたわ。それに良人なども、ノズドゥリョフは嘘つきだけれど、慥かに何か曰くがありそうだなんて言っておりますのよ。」
「ですけれどね、アンナ・グリゴーリエヴナ、あたしがその話を聞いた時の気持も察して頂戴な。『今でも妾は』って、そのコローボチカが言うんですって。『一体どうしたらいいのか、さっぱり分りません。妾に無理矢理、何か瞹昧な証文に署名させて、紙幣で十五ルーブリ投げつけておいて行ってしまったのです。妾は』って、そのお婆さんは言うんですって。『世間しらずの、寄辺ない後家のことで、何のことやら、さっぱり分りません……』って。事件っていうのは、まあ、こんなことですのよ! だけど、あたしがどんなに吃驚仰天したか、それが少しでも、あなたにお分りになったらねえ?」
「それはともかくとして、これには死んだ農奴そのものじゃなくって、何か裏があるのよ、きっと。」
「そういえば、そうねえ。」と、単に気持のいい婦人はちょっと眼を瞠って言ったが、すると忽ち彼女は、一体その裏には何が隠されているのだろうという強い好奇心を覚えた。で、彼女はためらいがちに言った。「それでは、どんな裏があるとお思いになりますの?」
「あなたこそ、どうお思いになって?」
「あたしがどう思うって?……正直なところ、まるであやふやですわ。」
「でも、あたしは是非、これに対するあなたの御意見が伺いたいの。」
しかし、単に気持のいい婦人は、てんで言うべき言葉を知らなかった。彼女はただ大騒ぎをするだけが能で、何か気のきいた推定を下す段になると、から意気地のない女であった。そういう訳で、他のどんな女性にもまして彼女には優しい友情と助言を必要としたのである。
「では、その死んだ農奴というのが、いったい何だか、それを一つお話しますわ。」と、どちらから見ても気持のいい婦人が言った。その言葉を聞くと、女客の全身はまるで聴覚器に変ってしまい、両の耳が自然に伸びて、彼女は殆んど長椅子の上にじっと坐っていられないように腰を浮かして前へ乗り出したが、どちらかといえば肥り肉の五体が急に、ちょっとの微風にでも空中へ舞いあがって行きそうな、鳥の羽毛みたいに軽い、ふわふわしたものになってしまったように思われた。
それはちょうど、犬ずきで狩猟ずきなロシアの貴族が、犬番や短気な猟師をつれて、森の方へ近づいて行くと、今しも森の中から勢子に追いたてられた兎が飛びだして来て、ハッとした瞬間にその貴族は、乗った馬と、振りあげた鞭もろとも、導火線の火が正に移ろうとする火薬も同じに変ってしまうと同じで、両の眼をくわっと見ひらいて、ぼんやり霞んだ虚空に注ぎながら、一散に獲物を追っかける彼は、どんなに物凄い雪の野原が行手を遮って、チカチカと星のように光る銀のつぶてを、口といわず、髭といわず、眼や眉はもとより、海狸の帽子にまで振りかけようとも、いっかな後へは退かず、目指す獲物をしとめずには措かぬのである。
「その死んだ農奴というのは……」と、どちらから見ても気持のいい婦人が言葉をついだ。
「さあ、何ですの、それは?」と客の婦人は、胸をわくわくさせながら後を促した。
「死んだ農奴だなんて!……」
「ええ、早く仰っしゃいよ、後生だから!」
「あれは、ただ人眼を誤魔化すために思いついただけのことで、ほんとうは、知事のお嬢さんをかどわかそうってのが、あの人の魂胆なんですわ。」
たしかにそれは、まったく思いもよらぬ、またどの点から見ても珍無類な断案であった。これを聞くと単に気持のいい婦人は、まるでその場で化石したように、さっと顔色を変えて、死人のように蒼ざめてしまい、まったく心から度胆をぬかれてしまったのである。『まあ、驚いた!』と、彼女は思わず手を叩いて叫んだ。『ほんとに、そこまではあたし気がつきませんでしたわ。』
「実はね、初めあなたからちょっと伺ったばかりで、ハハーンとあたし、すぐに気がつきましたのよ。」と、どちらから見ても気持のいい婦人が答えた。
「でも、そんなことだとすると、国立女学院の教育なんて当てになりませんわねえ、アンナ・グリゴーリエヴナ! だって、まだほんのねんねじゃありませんか!」
「ねんねなもんですか! あたしはあの娘の口から飛んでもない言い草を聞きましたのよ、正直なところ、あたしなんぞとても口に出す勇気もないようなことなんですのよ。」
「まあ、ねえ、アンナ・グリゴーリエヴナ、当節の若い娘がそんなにふしだらになったのかと思うと、ほんとに胸がつぶれますわ。」
「だのに、殿方たちといえば、もう、あの娘に夢中なんですものねえ。あたしに言わせると、正直なところ、あの娘なんぞに、ちっともいいところがあるとは思いませんわ……。」
「いやに澄ましてるばかりでねえ。」
「あら、澄ましてるんじゃありませんわ、アンナ・グリゴーリエヴナ! あの娘は石地蔵そっくりで、顔に表情というものがまるでないんですのよ。」
「いいえ、澄ましていますとも! 澄ましていますとも! ほんとに憎らしいほど澄ましているじゃありませんか! 誰に教わったのか、それは知りませんけれど、あたし、まだこれまでに、あんなに気どった女って、見たことがありませんわ!」
「そうじゃありませんわ! あの娘はまるで石地蔵みたいで、顔色が死神のように真蒼なんですもの。」
「あら、何を仰っしゃるのさ、ソフィヤ・イワーノヴナ、あの娘はやけに頬紅をさしているじゃありませんか。」
「まあ、あんなことを。あの娘の顔はまるで白墨みたいですわ、まるで白墨みたいですわ、正真正銘の、白墨そっくりですわ。」
「でもねえ、あたしはあの娘のそばに坐っていたんですが、紅をこってりと、そりゃ厚くつけていますのよ、だからそれがまるで漆喰のように、ぼろぼろと欠けて落ちるんですもの。あれはお母さんが淫婦なもんだから、それを見習ったのだけれど、娘さんの方が、役者が一枚うわてになった訳ですわ。」
「ええ、そりゃ、まあ、あなたはどんなにお請合になっても構いませんけれど、もしもあの娘が、紅をほんの一滴でも、ほんのちょっぴりでも、いいえ紅のべの字でもさしていたら、たった今あたしは、子供も、良人も、財産もすっかり投げだしたって構いませんわ。」
「まあ、変なことを仰っしゃるわねえ、ソフィヤ・イワーノヴナ!」そういって、どちらから見ても気持のいい婦人は手を拍った。
「あら、あなたこそ変なこと仰っしゃるのよ、アンナ・グリゴーリエヴナ! ほんとにあたし吃驚して、お顔を見つめるより他ありませんわ!」こう言って、単に気持のいい婦人も、同じように手を拍った。
このように、殆んど同時に見たものに就いて、二人の婦人が互いに別々の意見を抱いていたからとて、読者には別段不思議なことはあるまい。実際、こういったような事柄は世間には間々あって、或る婦人の眼には明らかに白く見える物が、他の婦人の眼には赤い赤い蔓苔桃のように見えるのである。
「そうそう、あの娘が真蒼な顔をしていたという証拠がまだありますわ。」と、単に気持のいい婦人が言葉をついだ。「あたし、今でもはっきり憶えていますが、あの時マニーロフさんのそばに坐っていて、あの方に、まあ御覧なさい、あの娘、なんて蒼い顔色なんでしょう!って言いましたのよ。ほんとに、あんな娘に血道をあげるなんて、この市の男たちぐらいの頓馬でなきゃ出来ない相談ですわ。だのに、あの伊達男ったら……。ほんとに、あの時のいやらしい態度ったらありませんでしたわ! ねえ、アンナ・グリゴーリエヴナ、あたしがどんなにあの男を忌々しく思ったか、とてもあなたにはお分りになりませんわ。」
「でも、大分あの男に御執心の夫人もありましたわねえ。」
「それ、あたしのことを仰っしゃるの、アンナ・グリゴーリエヴナ? ううん、決してあたしそんなこと仰っしゃられるような覚えはありませんわ、決して、決して!」
「おや、別にあなたのことを言ってるのじゃありませんわ、あなたの他には誰もいなかったかのように、妙なことを仰っしゃるのねえ。」
「だって、決して決してそんな覚えはないのですもの、アンナ・グリゴーリエヴナ! 口幅ったい申し分ですけれど、あたし、自分の身のほど位ちゃんと弁まえていますわ。そりゃね、どっかの奥様がたみたいに、乙に澄ましてツンとしていらっしゃる方たちのことは存じませんけれどさ。」
「ね、ちょっと、ソフィヤ・イワーノヴナ! あたし、憚りながら、まだ一度もそんな如何わしい真似をしたことはありませんわ。どなたか他の方ならいざ知らず、憚りながらあたしだけは決してそんな真似はしませんからね、それだけははっきりお断わりしておきますわ。」
「まあ、どうしてそんなに御立腹になるの? だって、あの時には、他にも奥様がたは幾らもいらっしたじゃございませんか。そればかりか、あの男のそばへ坐ろうと思って、躍起になって扉口の椅子を奪いあった方たちさえありましたわ。」
さあ、こんなことまで、単に気持のいい婦人が口外したかぎり、どうせ只では納まらないはずであった。ところが、驚いたことに二人の婦人は急に鳴りをしずめてしまって、全然なんの騒ぎもおこらなかった。どちらから見ても気持のいい婦人は、例の流行服の型紙をまだ手に入れていないことに気がつき、また単に気持のいい婦人の方は、自分の親友の発見した事柄を、まだ一向詳しく聴き取っていないことを思い出した。そんな訳で案外はやく和睦が成立したのである。もともとこの二人の婦人は、殊更相手の心を傷つけるつもりがあった訳ではなく、概して二人とも性質に於いてはそう意地の悪い方ではなかった、ただ話の行きがかりで、無意識のうちに、ちょっと相手をやっつけてやろうという、けちな慾望を起こしたまでである。いわば、どうかしたはずみに、ちょっと慰み半分に、『じゃあ、これでもあげますわ、さあ召しあがれ!』などというのと同じである。男性にしても女性にしても、いろんな慾望を心に持っているものである。
「でも、たった一つあたしに分らないのは、」と、単に気持のいい婦人が言った。「どうしてチチコフという男は風来坊のくせに、そんな大それたことを思いついたものだろうってことですわ。ひょっとしたら、これには共謀者があるのかも知れませんわねえ。」
「その共謀者がないとでもお思いになって!」
「じゃあ一体、誰があの男の尻押しをしたと仰っしゃいますの?」
「そりゃ、例えばあのノズドゥリョフあたりでしょうよ。」
「まあ、ノズドゥリョフがですって?」
「ええ、どうして? あの男のやりそうなことじゃありませんの。御存じのとおり、あれは生みの父親まで売り飛ばそうとした人ですもの、売るというより骨牌に賭けるといった方が当っていますけれど。」
「おや、まあ、なんて面白いことを伺うのでしょう! まさかノズドゥリョフがこの事件に関係していようなんて、あたし夢にも思いませんでしたわ!」
「ところが、あたしは始終そう思っておりましたのよ。」
「ほんとに、世の中には、何が起こるか分ったものじゃございませんわねえ。そうでしょう、そら、あのチチコフがこの市へやって来たばかりの頃にさ、まさかあの男が社交界でこんな変な真似をしようなどと、誰が想像したでしょう? まあ、アンナ・グリゴーリエヴナ、あたしがどんなに驚いたことか、あなたに分って頂けましたらねえ! でも、あなたの御好意と友情がなかったなら…… ほんとに、それこそあたし、飛んでもないことになるところでしたわ…… そうですとも! 宅のマーシュカなんか、あたしが死人のように真蒼な顔をしているのをみて、まあ、奥さま、まるで死人のように真蒼なお顔でございますよって言いますの、で、あたし、そう言ってやりましたわ。マーシュカ、あたしは今、それどころじゃないんだよって。まあ、そんなことでしたの! じゃあ、ノズドゥリョフまでが共謀になっていたのですわねえ! まあ、呆れた!」
単に気持のいい婦人は、くだんの令嬢誘拐事件に関する更に詳細な点まで、つまり、それの敢行される時間やその他についてまで、是非さぐりだしたいと思ったのであるが、しかし、それは少し慾が深すぎた。どちらから見ても気持のいい婦人は、正直に、それはよく知らないと言った。彼女は嘘をつくことが出来なかったのである。尤も或ることを推定するのは別問題である。それとても、その推定が内心からの確信に基く場合に限られていた。で、心にそうと確信を抱いていさえすれば、彼女はどこまでも頑張り通す。そういう場合には、他人の説を打ち破る才に長けた如何なる弁護士といえども、彼女と論戦を試みれば結局、内心よりの確信にはとうてい敵わぬことを発見したに過ぎないだろう。
二人の婦人が初めにただ、一つの仮定として想像したことを、しまいには確定的な事実として信ずるようになったからとて、それは何ら異とするに足りないのである。自から賢明な人間と称している我々一同が、やはりそれと殆んど同じようなことをやっていて、多くの学問上の論説がそれを証明している。初め学者が或る問題を論究せんとするや、非常に卑屈な態度でそれを取りあげ、小心翼々として、『これは一体どういうところからこうなったのだろう? 斯く斯くの国名はこの一角の名前から由来したのではなかろうか?』とか、また、『この文献はもっと別の、遥か後代に属するものではなかろうか?』また、『この人民というのは、これこれの人民の意味に解すべきではなかろうか?』などといった、極めて謙虚な質疑を以ってはじめる。それから間もなく、あれやこれやと古代の稗史小説を引合いに出して何か暗示を見つけるか、又は暗示を見つけたような気がすると、もうそろそろ彼はお調子に乗って大胆になり、初め遠慮がちな臆測から出発したことなどは、すっかり忘れてしまって、古代の著者達と不遠慮に言葉をかわしたり、彼等にさまざまな質問を課したり、それに自分で答えたりまでするのである。そして自分は何もかも会得しており、一切は明白であると思いこんでしまって、『つまり、事の起こりはしかじかであった、しかも、その張本人はこれこれの人種と解すべきである! 従って、そういう見地からこの問題を考察する必要がある!』といった風な言葉で断案を下してしまうのである。やがてそれが公然と演壇から叫ばれ、新発見の事実として世間にひろまりながら、追随者と崇拝者を集めることになるのである。
このように二人の婦人が、さしもこんぐらかった事態を手際よく見事に解決している間に、例の眉毛の濃い検事が、絶えず片眼をパチパチさせるだけで顔の筋一つ動かさずに客間へ入って来た。二人の婦人は先きを争って、すべての事情を彼に報告し、チチコフの死んだ農奴買入れの話から、知事令嬢誘拐の企らみに至るまで、逐一物語って、彼をすっかり煙に巻いてしまったので、相手は長いあいだ一つところに突っ立ったまま、左の眼をパチパチやりながら、手巾で顎鬚を叩き叩き、そこにくっついている煙草を払いおとしていたけれど、彼には何が何やらさっぱり話の意味がのみこめなかった。二人の婦人はそのまま彼を打っちゃっておいて、市中に一騒動おこさせるため、それぞれ志す方へと出かけていった。この企ては僅々三十分あまりで見事に達成された。果然、市中には囂々たる騒ぎが持ちあがって、鼎の沸くが如き大混乱を来たしたが、誰一人この事件の片鱗すら理解むことが出来なかった。二人の婦人にすっかり眼をくらまされてしまって、すべての人々、殊に役人連は、茫然としてなすところを知らなかった。最初のうち彼等のおかれた状態は、ちょうど寝坊をしていた中学生が、先きに起きた友達に、鼻の孔へ驃騎兵をつっこまれた時と同じであった。驃騎兵というのは、嗅煙草を包んだ紙搓のことであるが、眠っていた中学生は、夢うつつのこととて思いきりその煙草を鼻へ吸いこんで、はっと眼をさますなり、跳び起きて、寝ぼけ眼をみはり、馬鹿のように四方八方をキョロキョロと見しながら、自分が現在どこにいて何をしているのやら見当もつかないのであるが、やがてのことに、斜に日光のさしている壁をみとめ、部屋の隅に隠れてクスクス笑っている友達の声を聞きつけ、窓から覗きこんでいる朝の景色に気がつく――森は眼ざめて、無数の鳥の声に谺し、小川はキラキラと輝やきながら、曲りくねって、ところどころ細い葦のあいだに見え隠れしながら、呼びかわして水浴に戯れる素裸の子供たちで一杯になっている――その時になって初めて彼は、自分の鼻の中に驃騎兵が押しこまれていることに気がつくのである。最初のうちの市民や役人連の状態が丁度これにそっくりであった。誰も彼もが、まるで羊のように、ぼんやりと眼ばかり剥きだして立ちすくんでしまった。死んだ農奴と知事の娘とチチコフとが、彼等の頭の中で非常に変な具合にこんぐらかって、ごった返した。やがてのことに最初の放心状態が過ぎ去ると、彼等はそれを個々別々に切りはなして、その真相を究明しようとしたのであるが、問題がどうしてもはっきりしそうにないのを見て、今度は腹を立てはじめた。『まったく、その死んだ農奴なんて、いったい何だい? 死んだ農奴なんて、どだい理窟に合わないじゃないか、どうして死んだ農奴なんか買うのだろう? そんな阿呆がいったい何処にあるだろう? どんな死金を使って、そんなものを買おうというのだ? いったい何の目的があって、どこへおっつけるために、死んだ農奴など買いこむのだろう? 又それに知事の娘が何の関係があるのだろう? あの男が知事の娘を誘拐しようとしたからとて、それがためにどうして死んだ農奴など買わなければならないのだろう? また死んだ農奴を買い込んだからとて、何のために知事の令嬢を誘拐しなければならないのだろう? 死んだ農奴をあの娘にやろうとでもいうのだろうか? まったく、何という馬鹿げた話が市じゅうにひろまったものだろう? ちょっと身じろぎをしたかと思うと、直ぐにあられもない噂が持ちあがるなんて、一体、何という傾向だろう、それも何か意味でもあればだが……。しかし、こんな噂が流布された限り、それには何か根拠がある筈だ。それでは、死んだ農奴にどんな根拠があるのだろう? いや、根拠などというものはないのだ。これはただ、ひょっくり飛び出したゴシップか、根も葉もない流言蜚語といった類いの、馬鹿げた出鱈目なんだ、長靴の半熟っていうやつだ! そんなものはまったく、糞くらえだ!……』要するに、風説は風説を生んで、市じゅうの者が、死んだ農奴と知事の娘について、チチコフと死んだ農奴について、知事の娘とチチコフについて喋り出し、ありとあらゆるものが起ちあがった。それまでは仮睡んでいたような市が、まるで旋風のように沸きたったのである。何年も家にひっこんで、寝巻のままごろごろしていたような愚図や惰け者までが、のこのこと塒から這いだして来て、これまで外へ出られなかったのは、長靴を窮屈に作った靴屋のせいだの、仕立屋のせいだの、酔っぱらいの馭者のせいだのと弁解した。もう久しい前からあらゆる交際を断って、謂ゆる横寝五郎造氏とばかり懇ろにしていた連中、(これは『横臥する』とか『ごろごろしている』という動詞から出た有名な文句で白河夜舟氏を訪ねるなどという文句同様、横向き、仰向き、その他あらゆる恰好で、グウグウ鼾をかいたり、鼻を鳴らしたり、その他いろんな附随動作をやりながら、まるで死んだように寝こんでいることを意味して、我がロシアでよく使われる洒落であるが、)そういった連中や、また目の下五尺もある蝶鮫と、口の中でとろけてしまいそうなパイを添えた、五百ルーブリも金のかかった魚汁を御馳走するといっても、いっかな家から誘い出すことの出来ないような連中までが、一人残らず飛び出して来たのである――一口にいえば、成程この市もなかなか賑やかで、大きくもあれば、人口も相当にある事が分ったのである。スイソイ・パフヌーチエヴィッチだの、マクドナルド・カルロヴィッチだのといった、これまでついぞ聞いたこともないような人々が顔を見せたり、これまで見たこともないような、おそろしく背の高い、手に貫通銃創のある長身の男がにゅっと客間へ現われたりした。通りはまた通りで、幌をかけた弾機附馬車や、一向見たこともない大型の馬車や、喧ましいガタ馬車や、車輪のギーギー軋る馬車などで一杯になって、まるで芋をあらうようにごった返した。これがもっと他の場合で、事情さえこんなことでなかったなら、このような噂には誰ひとり耳を傾ける者はなかったであろうが、時あたかもN市には、もうかなり前から事件らしいものが全然なかったのである。殊にここ三ヶ月ばかりというものは、首都で疑獄といわれている類いのものさえ一つもなかった。この疑獄というやつは、周知のとおり、都会生活にとっては、恰かも適宜に供給される食料品と同じような役目を務めるものである。そこで市の輿論には、忽ち二つの全く相反する見解が現われ、二つの相対立する党派が形づくられた――男性派と女性派とである。男性派は、から他愛がなくて、死んだ農奴を重要視していた。それに引きかえ女性派の方は専ら知事令嬢の誘拐を問題にしていた。この党派は――婦人がたの名誉のために一言しておかねばならないが――断然、条理にもかない、注意も行届いていた。それは明らかによき主婦となり、一家を巧みに切盛りする彼女等の本分の然らしむるところであった。で、彼女たちのあいだでは、間もなく何もかもがはっきりした決定的な姿となり、一目瞭然たる形を具えて、ちゃんと解釈もつき、磨きもかけられてしまった――一口にいえば、最後の仕上げを施した一幅の絵が出来あがったのである。それによると、チチコフはもうずっと前から知事の娘と恋仲になっており、二人は月の夜に庭で逢曳までしていたのであって、知事自身も、チチコフがユダヤ人のような大金持であるところから、彼に娘をやるつもりであったが、端なくも彼の見棄てた細君から故障が出て、(一体どこからチチコフに細君があったなどということを婦人連が嗅ぎ出したのか、それは誰にも分らなかったが、)その細君が、もはや良人の愛を取り戻す望みを失って、苦しみもだえた挙句、知事に宛てて、惻々として胸を打つような一通の手紙を書き送った。それでチチコフは、とうてい娘の両親が結婚に承諾を与えないものと見て、いよいよ誘拐の肚をきめたというのである。また別の家では、その話が幾分ちがっていて、チチコフには細君などは全然なく、ただ狡獪で、金的を狙ってばかりいる実際家として、彼は、謂ゆる将を射んと欲せば馬を射よの筆法で、まず母親をくどき落して、ついに人目をしのぶ仲となり、それから徐ろに令嬢を妻に申し受けたいと切りだした、ところがそれを聞くと母親はびっくりして、宗教にそむく不倫の罪を犯すことを恐れ、且つ良心の苛責を感じて、きっぱりと相手の申出を断わってしまった、そこでチチコフは娘を唆かして駈落をしようと肚をきめたというのである。この風説がいよいよ高くなるにつれて、誠しやかにいろんな説明や訂正が施されて、とうとう場末のどんづめの横町まで伝わって行った。大体このロシアという国は、下層社会の者が上流社会で行われるいろんなゴシップの受売りをしたがる国だから、忽ちこの話は、チチコフのことなどは知りもしなければ、顔を見たこともない手合いの、荒ら家でまで云々されるようになり、いろんな尾鰭がつけられて、ずいぶん振った解説が加えられたものである。話の筋は刻々と面白味を増し、日毎に決定的な形式を整えて、最後にすっかり完成された形となって、知事夫人の耳に達したのである。知事夫人は、一家の母親として、またこの市第一の貴婦人として、且つまた、そのようなことは夢にも思いがけなかったこととて、その風評にすっかり気を悪くして、どの点から見ても至極尤もな憤懣の情に駆られたのである。で、哀れな金髪娘は、十六七の処女がたまさか母親から受ける、あの不快極まる tte--tte(膝詰談判)の憂目を忍ばなければならなかった。いろんな質問や、訊問や、叱責や、威嚇や、非難や、訓戒が、洪水のように降り灑がれたけれど、娘は涙にかきくれて、たださめざめと泣くばかりで、何を言われているのやら少しも頭へ入らなかった。門番にはチチコフがいつ、どんな触込みでやって来ても決して通してはならないという厳命が下された。
知事夫人の問題に一応片をつけると、婦人連は男性派に肉迫して、死んだ農奴なんていうのは実は好いかげんの出鱈目で、あらゆる疑惑を他に転じておいて、うまうまと娘を誘拐しようという肚にすぎないと断言して、彼等を味方に引きこもうと企てた。男たちの中には、その誘惑に負けて、女の党派に荷担した者も少なくなかったが、そういう連中は仲間から手厳しい非難を受けて、二本棒だのでれすけだのと罵られた――これは周知の如く、男子にとっては甚だ不面目な呼称である。
しかし、如何に防備をかため、抗争をこころみても、男子側には婦人側に見られるような秩序というものが全然なかった。彼等の仲間では、すべてががさつで、粗野で、拙劣で、無益で、不調和で、醜悪で、その頭の中には、思想的な混乱と、もつれと、錯雑と、不純が渦を巻いていた。一言にしていえば、男性としての無分別な本性が――野卑で、鈍重で、家事の切盛りにも精神的な確信にも向かない、懶惰で、しかも間断なき猜疑と永遠の恐怖に充たされた本性が、万事にそれと窺われるのであった。彼等は口を揃えて、そんなことは凡そナンセンスだ、知事の娘を誘拐するなんて、驃騎兵でもやりそうなことで、歴乎とした人間のやるべきことではない、チチコフがそんなことをする筈はない、それは女どもの譫言に違いない、だいたい女という奴は袋みたいなもので、何でも耳へ入れたら、そのまま次ぎへ持って行って喋ってしまうのだ。この際、何より先きに注意をむけなければならない重要な目標は死んだ農奴で、一体それが何を意味するのか、それはさっぱり分らないにしても、この言葉の裏には何か極めて卑劣な、よくないことが隠されているのだ、と言った。そんな卑劣な、よくない裏があるなどと、どうして男たちが考えたのか、それはすぐに分る。今度この県に新らしい地方総督が任命された――これは言うまでもなく、役人連を大恐慌に導く出来事で、いずれ調査が行われて、叱責だの、譴責だのという、長官が部下にふるまうところの、いろんな職責上の苦汁をなめさせられることになるのだ。『さあ、もしも』と、役人連は心に思った。『総督が、この市にこんな馬鹿々々しい風説の行われていることを知ったら、どうだろう? それだけで、もう一通りや二通りではなく、カンカンに怒ってしまうだろう。』医務監督は急に顔色を失った。というのは、実に奇想天外な想像が、ふと彼の胸に浮かんで、『死んだ農奴』というのは、その実、自分が責任者として適宜の処置を講じなかったために附属病院その他で、夥しく悪疫に斃れた病人のことではなかろうか、そしてあのチチコフはこっそりとそれを探索するために、地方総督の官房から派遣された役人ではなかろうかと揣摩臆測したのである。彼は早速それを裁判所長に話した。裁判所長は、そんな馬鹿なことがあるものかと答えたが、もしやチチコフの買いこんだ農奴がほんとうに死んだ農奴だったら、どうなるだろうと考えて、今度は自分自身が急に真蒼になってしまった。そういえば、彼は売買の登記を許可したばかりか、自分でプリューシキンの代理までつとめているのだ。こんなことが総督の耳に入ったら、一体どうなるだろう? 彼がこれだけのことを二三の連中に話しただけで、それを聞いた連中は忽ち顔色を失ってしまった。恐怖というやつはペストよりも感染しやすく、忽ち次ぎから次ぎへと伝播するものである。役人一同は急に我れと我が身を振り返って、本当に犯してもいない罪まで探しはじめたものである。そればかりか、『死んだ農奴(魂)』という言葉が甚だ漠然たる響きを持っているので、もしやこれは、つい最近にあった二つの不祥事件の犠牲者で、てっとりばやく埋葬されてしまった死人のことを暗示しているのではなかろうか、などと疑い出しさえした。その不祥事件の一つというのは、市の定期市にやって来た*4ソリウイチェゴーズスクの商人連が、商いのすんだ後、商売仲間の*5ウスチスイソーリスクの商人連を招いて酒盛をやった――ロシア流儀にドイツ式の工夫を加味した酒盛で、*6アルシャードや、プンシュや、芳香酒などが出た。例によって、この酒盛は乱闘に終り、ソリウイチェゴーズスクの連中はウスチスイソーリスクの連中をさんざんに殺めてしまった。尤も彼等の方も相手方から、脇腹だの鳩尾だの、顎だのに手痛い打撲を蒙ったものだが、それでみると、なかなかどうして、死んだ相手方も素晴らしく大きな拳骨の持主であったことが立証された。で、勝った方の一人などは、闘士仲間でいう『鼻潰し』を喰らって、つまり、鼻がすっかり叩き潰されてしまって、もう顔にはそれが小指の半分くらいしか残っていないという為体であった。商人どもは少し乱暴なことをしたと言って、自分たちの犯行を認めた。そして彼等は自白の際に、めいめい百ルーブリ紙幣を四枚ずつ役人に握らせたという噂であった。が、とにかくこの事件は有耶無耶になって、そののち行われた訊問や審理の結果、ウスチスイソーリスクの連中は炭酸ガス中毒で死んだことになり、従って炭酸ガスの中毒で死亡したものとして埋葬されたのである。もう一つ、最近にあった事件というのはこうである。ウシワーヤ・スペーシ村の御料農民が、ボロフカ村やザディライロヴォ村の御料農民と結託して、ドゥロビャージュキンとかいう巡査を殺して、駐在所の存在を有名無実にしてしまったというのであるが、その地方警察官、即ちドゥロビャージュキン巡査は、あんまりうるさく村へやって来るので、ともすれば疫病神のように嫌われており、何よりもこの駐在巡査には、素行上いささか欠点があって、村の女房や娘たちの尻ばかり追いまわしていたことが、どうやらその真因であったらしい。何でも百姓たちのあけすけに供述したところによれば、この駐在巡査はまるで狒々のように好色で手癖が悪かったので、彼等はもう一再ならず彼に警告を与えており、一度などは、夜這いに入っているところを丸裸のまま追い出したことさえあるというのであるが、しかし確かなところは分らない。勿論、この駐在巡査は素行上の欠点から天罰を受けるのが当然であったにしても、百姓達の方も、ウシワーヤ・スペーシの百姓にしろ、ザディライロヴォの百姓にしろ、事実上その殺害に荷担しているからには、やはり、その専断の行為は許される訳にはゆかぬ。が、事件は甚だ不明瞭で、駐在巡査の死体は往来の真中で発見され、その制服だったか燕尾服だったか、着ていた物は襤褸よりひどく引き裂かれて、顔などはまるで見分けもつかないくらい滅茶々々にされていたとのことだ。事件は地方裁判所で審理されて、ついには控訴院にまでまわされたが、そこで最初から秘密会議で次ぎのような判定が行われた。即ち百姓たちは多勢で、その中、果して誰が下手人であるかが不明であるし、ドゥロビャージュキンの方は既に死んでいるのだから、たとい彼に有利な判決が下されたとしても一向有難くもなかろうけれど、百姓どもはまだ生きているのだから、彼等にとっては少しでも有利な判決の下ることが重要だというので、結局ドゥロビャージュキン巡査はウシワーヤ・スペーシやザディライロヴォの百姓に不当な圧迫を加えて、自から墓穴を掘った訳であるが、その実、彼は橇で帰宅の途中、卒中で死亡したのであるという判決が下された。これでどうやら事件も円くおさまったように思われていたのであるが、どうしたものか役人連は、てっきり、そうした死せる魂が今、問題になっているのだと考えはじめたのである。こうして役人連が、さなきだに困惑している最中に、まるで故意とのように、県知事の許へ一度に二通も通牒が届けられた。その一つは、最近各所よりの情報によると、貴県に銀行紙幣の偽造犯人が入りこみ、さまざまの変名を用いて潜伏している筈だから、即刻厳重な捜索をしてもらいたいという内容であった。もう一つの方は、隣りの県の知事から来た報告で、その筋の追跡を免れて逃亡中の強盗犯人があるから、もし貴県に、身分証明書及び旅券を所持せざる不審人物が姿を見せたら、猶予なく逮捕して戴きたいというのであった。この二つの通報に一同はすっかり仰天してしまった。で、前に下された結論や推測は、又しても五里霧中へ逆もどりをしてしまった。無論そこに、仮にもチチコフの関係したことがあろうなどとは決して思われなかったけれど、一同がめいめい各自の立場から、よくよく考えてみると、彼等はまだチチコフが一体どういう人間であるかを知らないし、彼自身も自分の素性については実は瞹昧なことしか話さず、なるほど、勤務中にも真理のためには忍び難きを忍んだなどとは言っているけれど、随分それも漠然としている、それに彼が自分の生命まで狙っているような敵を多く持っているなどと語ったことを思い出すと、彼等は更に深い物思いに沈んでしまった。して見れば、彼の生命は非常な危険に瀕しているのかもしれない。或はまた追跡されている身の上かもしれない。従って、それだけの何か悪事をはたらいたのかもしれない……。第一に、彼は実際何者なのだ? 勿論、彼が銀行紙幣を贋造したり、まして、あの上品な風采からして強盗などをはたらくものとは、どうしても考えられないが、それはともかくとして、では実際のところ、彼はいったい何者なのだ? こうして官吏諸公は、そもそもの最初に、つまり我々の叙事詩の第一章に於いて起こさねばならなかった筈の疑問を、今頃になってやっと起こしたのである。そこで後れ馳せながら、彼に農奴を売った人々を訊き糺して、少なくともどんな塩梅に売買が行われたか、またその死んだ農奴とは果してどういう意味に解すべきであるか、ひょっと彼は何の気なしに、ほんの一寸でも、誰かに自分の本音を漏らさなかったか、誰かに自分の素性を話していないかどうかを、探り出すことになった。まず第一にコローボチカが槍玉にあげられたが、彼女からは大して得るところがなかった。彼が十五ルーブリで農奴を買取ったこと、鳥の羽根も買うといったこと、そしてまだいろんなものを買う約束をしたり、政府の御用で獣脂も調達しているように言っていたとのことであった。して見ると彼はてっきり詐欺師に違いない。というのは、前にも一人そういう男がやって来て、鳥の羽根を買ったり、政府の御用だと称して獣脂を狩り集め、人々をまんまとペテンに掛け、例の梵妻からなどは百ルーブリの余も巻きあげて行ったからである。それ以上は彼女が何を語っても、同じ事の繰り返しに過ぎず、役人連の知り得たところは、ただコローボチカが愚鈍な老婆だということ位に過ぎなかった。マニーロフは質問に答えて、パーウェル・イワーノヴィッチのことなら自分は首を賭けて保証する、自分はパーウェル・イワーノヴィッチの値打の百分の一でも身につけることが出来たなら、財産を全部なげだしても構わないと言って、あらん限りの讃辞を捧げて彼を褒めそやし、すっかりもう眼を細くして、友情に関する若干の意見をつけ加えたものである。無論、その意見は彼の胸のやさしい感動を充分に表明していたけれど、肝腎の問題を役人連に説明するには足りなかった。ソバケーヴィッチはまた、自分の見るところではチチコフという男は立派な人間だ、自分がチチコフに売ったのは皆、粒選りの農奴で、どの点から見てもピチピチした奴ばかりであるが、しかし、先きのことまでは保証の限りでない、もし移住の途中で何か困難に逢って彼等が死ぬようなことがあっても、それは自分の責任ではなく、ひとえに神のお思召である。なにしろこの世には、熱病だの、いろんな命とりの病いだのがざらにあって、全村ことごとく死に絶えるという例しもよくあることだから、と答えたものである。そこで役人連は更にもう一つの手段に訴えた。これは余り高尚な手段ではないが、まま用いられる手で、つまり側面から召使同士の馴染を介して、チチコフの下男たちが旦那の前身なり境遇について詳しいことを知っていないかと、いろいろ訊き糺してみたのである。が、やはり大して得るところはなかった。ペトゥルーシカからはただ、例のむさくるしい変な臭いを嗅がされただけであったし、またセリファンからは、『お上の役を勤めあげた人で、前に税関にいたことがある』ということ以外には、何も聞きだすことが出来なかった。こういう階級の者には実に奇妙な癖があって、何か肝腎なことを訊かれると、何一つ思い出すことも出来ず、頓と見当さえつかずに、ただ知らないと答えるだけであるが、そのくせ大して必要でもないことだと、恐ろしくきおい立って、こちらが知りたくもないことまで、いやに詳しくべらべら喋りたてるのである。で、役人連がありとあらゆる探索をした挙句、ようやく知り得たところは、チチコフの正体はどうしても分りっこないということ、それにも拘らずあの男は確かに曲者であるということだけであった。結局、役人連は、この問題についてもう一度よく相談して、少なくともこの際どうしたらいいか、如何なる手段を取るべきであるか、将又、彼は何者であるか、あの男が悪人として逮捕され拘束さるべき人間なのか、それとも、あの男こそ自分たちを悪人として逮捕し拘禁する権力を持つ人間なのか、それからして先ず決定することにした。それがためにわざわざ、あの、読者には先刻お馴染の、この市の慈父であり恩人であるところの警察部長の邸で集会が催されることになったのである。
*1 スコナペル・イストアール これはフランス語の ce qu'on appel histoire(謂ゆる大事件)の意である。*2 リナルドー・リナルジン 種々の山賊物語の主人公として用いられる伝説的な盗賊。*3 オルリョール、オルリョール、オルリョール! これはフランス語の horreur, horreur, horreur!(怖ろしや、怖ろしや、怖ろしや!)を訛って発音したのである。*4 ソリウイチェゴーズスク ロシアの東北地方ウォログダ県下の郡の首都で、ウイチェグダ川の河港。*5 ウスチスイソーリスク 前項と同県下の郡の首都。*6 アルシャード 一種の酒精飲料。