毒殺の計
翌日から私は地形を見にまわった。なるほどカランポーの谷は、土地の高低があって、川の流れも多く、とても馬や猟犬でおおかみを追いまわせそうもないところだ。
「毒か、わなを用いるほかない。」と、私は友に語ったのだが、大きいわなは持ってゆかなかったので、まず一服毒を盛ることにした。
私は、わかい牝牛の腎臓脂肪へチーズを交ぜ、それを陶器皿に入れてとろ火で煮た。金物の臭いを避けるために、中の骨を小刀がわりに使った。この煮物をさましていくつもの塊に切り、その切り口へあなをあけて、毒薬を詰め、その上へチーズを厚くぬってふたをした。このご馳走をつくるあいだ、私は人間の臭いがつかないように注意して、牛のほふったばかりの温かい血へ浸した手袋をはめ、また私の息がこの餌の肉へふきかからないように、マスクをかけた。こうして丹念につくったご馳走を、同じ血へ浸したわらづとの中に入れた。それを持ってカランポーの谷を一巡し、一粁おきぐらいに一つとずつを草のあいだへおいてきた。狼群は鉄砲をおそれて日中はあまりでないし、また人間の姿が見えると、さっさと逃げてしまうので、この日は別段危険もなかった。
その夜、たしかにロボのほえる声が聞こえたというので、私は大喜びで翌朝早く結果を見にでかけた。
はたしておおかみの足跡はたくさんある。ロボの足跡は、普通のおおかみよりは大きいのですぐわかった。その足跡から推すと、背の高さ一メートルにちかく、体重も六、七十キロくらいはたしかにある。おそろしくたくましいやつらしい。
やがて最初の餌の肉のところへくると、大きな足跡が、そこへ立ちどまった形に残っていて、肉塊はなくなっている。
「しめた!」
私は胸をおどらして、ついてきた者達にほこった。
「やっこさん、一、二粁も先にきっとかたくなっているぞ。」
私どもは馬に一むちくれて、威勢よくつぎの餌肉のところへいった。はたしてそこにもない。私は狂喜して、
「ロボばかりでなく、あの畜生ども、枕を並べて往生しているにちがいない。」と叫んだ。
その付近を見まわったが、しかしおおかみの死体はなかった。足跡ばかりたくさんに残っている。第三番目の餌肉へきてみたが、ここにも肉塊はなくて、足跡はさらに第四番目へつづいている。
私は「はてな。」と思った。と同時に疑いと喜びとがごっちゃになってきだした。
私たちはだんだん心配になって、第四番目の餌肉のところへきてみると、おどろいたことには、肉に手をつけてないばかりでなく、そこへ、前の三か所の餌肉も一緒に並べてあるではないか。しかもごていねいにも第五番目の餌肉までが、ちゃんと持ってきて積みあげてあるではないか。
「ヘー!」と、私は全身の血をぬき取られたような気持ちになった。りこうぶった私の計略は、狼王ロボのためにすっかり裏をかかれてしまったのである。
「とてもこれは毒で退治られる代物ではない。」
と私はさじを投げ、大型のわなを郷里へ注文してその到着を待った。