Chapter 1 of 9

昭和二十六年

緑竹に蒼松にある冬日かな

一月四日 ホトトギス、玉藻、花鳥堂社員来。

旧正の草の庵の女客

羽子つこか手毬つこかともてなしぬ

二月一日 まり千代、小くに、五郎丸、小時、実花来。

白梅の光り満ちたる庵かな

二月二十六日 句謡会。草庵。

鵯の木の間伝ひて現れず

三月二日 明女、久子等静岡勢来る。

我君と共に老いたり梅も亦

三月十三日 泊月句集序句。

鶯のしば鳴く庵と答ふべし

三月十六日 偶成。

藪の穂に春日遅々とわたりをり

三月十九日 土筆会。草庵。

ゆらぎ見ゆ百の椿が三百に

汝に謝す我が眼明かいぬふぐり

三月二十一日 鎌倉玉藻会。英勝寺。

いぬふぐり空を仰げば雲も無し

三月二十六日 大崎会。英勝寺。

家桜顧みしつゝ立ち出づる

落椿土に達するとき赤し

三月三十日 東京多摩会。英勝寺。

ふと春の宵なりけりと思ふ時

四月四日 全国医師大会俳句会。向島、大倉。

花の館われ住むべくもあらぬかな

独り居る館の二階や山桜

四月八日 葉山、嵯峨邸。

庭に下り話しつゞける蝶は飛ぶ

四月九日 大崎会。英勝寺。

諸事は措き牡丹に心うつしけり

四月十一日 即事。

落花土に帰し蟻の這ふ地となれる

この牡丹卑しけれども杖を立て

四月十三日 句謡会。草庵。

牡丹の日々の衰へ見つゝあり

牡丹に所思あり稿を起さんと

四月二十五日 草樹会。大仏殿。

卯の花を仏の花と手折りもし

五月七日 大崎会。英勝寺。

新緑の瑞泉寺とやいざ行かん

五月二十日 草間新市長祝賀俳句会。

不思議やな神鳴るなべに菌生え

五月二十三日 草樹会。大仏殿。

建増や軒端の梅は移さずに

五月三十一日 句謡会。笹目、立子俳小屋開きを兼ね。

手を頬に話きゝをり目は百合に

六月二日 日本銀行大仏句会。大仏殿。

鉄線の蕊紫に高貴なり

六月十日 鎌倉玉藻会。寿福寺。

梅雨晴間絶えて久しき友来る

六月二十日 土筆会。草庵。

温泉に入りて唯何となく日永かな

六月二十二日 米和歌にあり。

朴散華而して逝きし茅舎はも

くちなしを艶なりといふ肯はず

六月二十五日 九羊会。茅舎を偲ぶ会。立子俳小屋。

夏花とて先づ手近なるものを剪り

六月二十八日 句謡会。立子俳小屋。

鉄線の花は豪雨に堪へゐしか

七月三日 即事。

洗髪束ね小さき顔なりし

七月七日 艶寿会。

ひろ/″\と富士の裾野の西日かな

七月二十七日 昨日より山中湖畔下り山、山廬滞在。稽古会。

山荘もこぼたずありし来れば涼し

うつし世の老いし柳に心とめ

下り山柳の家と尋ね来よ

山風に吹きさらされて昼寝かな

老柳に精あり句碑は一片の石

七月二十八日 山中湖畔下り山、山廬滞在。稽古会。

避暑の宿落葉松林とりかこみ

七月二十九日 新蕎麦会有志合同、稽古会。

朝寝して今朝が最も幸福な

七月三十日 句謡会。

山の避暑かはりがはりの泊り客

七月三十一日 句謡会。

避暑の宿迎への車疾く来り

八月二日 午後二時五十分出発。自動車にて帰鎌。八時著。

まだ書かぬ七夕色紙重ねあり

八月七日 七夕竹を立つ。子孫集る。

朝顔の雨や書屋を開け放ち

八月二十二日 土筆会。草庵。

或る菊にある我が情人や知る

八月二十四日 大崎会。英勝寺。

涼しく居思ひはろけくある身かな

八月二十九日 草樹会。大仏殿。

涼しくも生きながらへて紅つけて

九月十三日 午前九時横浜乗車西下。年尾、立子、泰、憲二郎と共に。食堂車給仕田中嬢に贈る。先年大負傷をせし由。

月を思ひ人を思ひて須磨にあり

九月十四日 須磨、保養院の跡を訪ひ、須磨寺小集。

子規忌へと無月の海をわたりけり

九月十五日 年尾居にあり。年尾、立子、泰、憲二郎とこがね丸に乗船。

旅といへど夜寒といへど姪の宿

月を待つ立待月といふ名あり

九月十七日 波止浜に行く。観潮閣泊り。

秋の蚊や竹の御茶屋の跡はこゝ

ふるさとの此松伐るな竹伐るな

九月二十一日 東野を通る。

思ひ出となるべき秋の一夜かな

九月二十二日 伊丹、あけび亭。坤者招宴。一泊。

秋風の伊丹古町今通る

九月二十三日 鬼貫の墓に参る。

虫の音に浮き沈みする庵かな

九月三十日 艶寿会。

柿取るにまかせ庖丁縁にあり

十月二日 句謡会。草庵。

千鳥飛べば我あるものと思ふべし

十月十九日 日御岬燈台、内田稲人に送る。

今はある虹の彼方に娘と共に

十月十九日 石川言成子追悼句帳に。

扮し得たり幼き源氏鬱金香

十月二十五日 鉄線花会招宴。木挽町田中家。岩井半四郎来。「蘭情春酒鬱金香の句あり」

見るうちに多くなりけり菊の虻

十月三十一日 七宝会。

草庵を菊の館とも誇りけり

十一月二日 句謡会。草庵。

菊日和虻の饗宴蜂の饗宴

十一月五日 土筆会。草庵。

贅沢をせんかと思ふ明けの春

十一月十九日 偶成。

山並の低きところに冬日兀

十一月二十八日 鎌倉玉藻会。長谷、光則寺。

この冬を籠りて稿を起こさんと

十一月二十九日 大阪くるみ会員来る。第二回、立子俳小屋。

文筆の女主の羽織かな

同日 第三回、葉山、嵯峨居。

古き家によき絵かゝりて冬籠

忘れゐし事にうろたへ冬籠

欠伸して頭転換冬籠

十二月一日 句謡会。草庵。

元朝や座右の銘は母の言

十二月五日 土筆会。草庵。

書痙の手冬日に伸ばしさすりをり

十二月十二日 大崎会。英勝寺。

無駄な日と思ふ日もあり冬籠

十二月二十五日

冬枯の庭を壺中の天地とも

十二月三十日 七宝会、いぬゐ、すゝむ、丶石来。

賽の目の仮の運命よ絵双六

十二月三十一日

Chapter 1 of 9