Chapter 5 of 46
●覆面
覆面を着けたる形と見ゆる土偶五六個有り。覆面は皆面の全部を覆ふ假面形のものにして、粗布を以て作られたるが如し。製作の精なる方より始めて是等土偶の出所及び所在を列記すれば次の如し。(第一回の圖參看)
一、常陸國河内郡椎塚發見 理科大學人類學教室藏
二、常陸國相馬郡上高井發見 岡田毅三郎氏藏
三、下總國 平山村發見 帝國博物舘藏
四、武藏國荏原郡下沼部發見 理科大學人類學教室藏
五、同前 同前
何れも面部の周圍に沿て横長き橢圓形の隆まり有り。且つ額の部には輪廓の上縁より多少下の方に向ひて延たる隆まり有り。一見鼻の如くなれど其位置上部に寄り過ぎたり。是等土偶の素面ならざる事は面部輪廓の隆まりと兩眼及び口の部の異形とに由つて推知するを得れど、一、二に二個に於ては兩眼の下に小點數個或は横の並行線數個有るが故に覆面の性質は殊に著名に表示されたり。抑も斯かる覆面は何の爲に用ゐらるるかと言へば、故らに面貌を奇にする爲か他人に面貌を示さざる爲か然らざれば寒氣を防ぐ爲なるべし。思ふに第三種の用こそ此場合に於ける眞の用ならめ。此考へにして誤無からんか、是等の覆面は氣候の寒冷を示すものにして前項記載の頭巾と能く釣り合を保てるものと云ふべし。
兩眼の部には恐らく小孔有りて此所より外界を窺ふを得る樣に成し有りしならん。
覆面は如何にして面部に着けられしや。精しく言ふ能はざれど、第五の土偶にては左右兩側に紐を付けて頭に結び付けたるが如く、他の四個の土偶にては左右兩側に輪を設けて耳に掛けたるが如し。土偶 頭髮の形状より考ふれば是等の覆面は女子の用ゐたる物と思はるるなり。