Chapter 1 of 7

「本当にそうか。」

と、聞かれると、そうで無いとは云え無い。く、とは確に聞いたのだから、これは断言できる。然し次の、る、はそう云ったような、云わないような、何うも明かで無いが、自分が唯一の証人で大勢の中で、美しい寡婦の悄然としている前で

「くる、と確に聞いた。」

と、云った言葉を

「本当か。」

と、念を押されると、今更、いや一寸まってくれ、もう一度、耳に聞いてみるからとも云え無い。それに死人に口無し

「くる、と確に聞いた。」

と、断言したって、それは一寸良心が二三分間疑を挟んでみるだけで、お俊始め、列座の面々はきっと自分の手柄に感謝するにちがい無い。だから

「本当ですとも。」

と、云い切ってしまった。

「来馬では無かろうか。」

と、一人が一人にこっそり耳打した。そしてその一人は頷いた。

「君が、何んと声をかけた時に、くる、と云ったのだ。」

と、もし聞く人があったなら、来馬への懸疑はいくらか薄くなったかも知れぬが

「対手は? 手懸りは?」

とばかりしか考えていない若侍共に、そうした探偵法は気がつかなかった。そして、耳打から、小声になり、一番思慮の無い男が

「来馬で無いか。」

と云うに到って事いささか重大となってきた。

「来馬に限って。」

と、云う人もあったが

「一応は聞いてみてもよかろう。」

と云う説も甚だ尤もであって反対の余地はなかった。

「お俊とは昔恋仲だったと云う噂も――いや事実もあるからな。」

と、多くの人は、自分の説に根拠を置いた。そして、三人の選ばれた人、お俊の弟と、親族の一人と、来馬の相弟子とが、来馬の家へ向った。

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