Chapter 1 of 20
一
もう十年前のことであるが、昭和十一年の秋に、北海道に大演習があり、天皇陛下が北海道に行幸されたことがあった。
その時に一日北大へ行幸の日があった。そして私は低温室の中で、雪の結晶の人工製作を天覧に供するという光栄の機会を得た。それが表題の『雪今昔物語』の機縁の起りである。
それから十年後の今年、昭和二十一年の暮に、私は東宮殿下への『雪』の御進講に上京し、引き続いて天皇皇后両陛下、さらに義宮様及び内親王様たちに、同じく『雪』の御進講を申し上げる有難い機会に恵まれた。
十年の年月は、不断の時代ならば、ただの一昔の話としてすませることである。しかしこの十年間は、千年にも比すべき十年であった。今回の御進講に際して、私は宮中にスチームが全然通っていないので、控の間では外套を着ていたということを、新聞社の人に話した。その話が北海道の新聞に出たのであるが、最近道内の某市の駅長さんに会ったら「その記事を読んで私は思わず涙をこぼしました」という話をきかされた。その駅長さんの話が機縁になって、この小文を書いてみる気になった。